東京都英語スピーキングテスト:不受験者の取り扱いについて

東京都の英語スピーキングテストに関し、不受験者の点数を英語学力検査(筆記試験)で同等の結果であった他受験者の点数から算出する点(5月26日教育庁公表)に関し、特に多くのご意見を頂いています。
初めて聞いた際には、私も疑問を持ったのは事実ですが、検証した結果、「合理的配慮」の一つとして許容されるのではないかと考えます。詳細は以下の通りです。

【参考】
・5月26日教育庁「東京都立高等学校入学者選抜における東京都中学校英語スピーキングテスト(ESAT-J)結果の活用について」

・東京都教育委員会「東京ポータル」

1.    具体的にどのような場合に他受験者の点数から算出されるのか

まず、不受験者の点数が他受験者の点数から算出される場合として、現在想定されているのは以下となります。

(1)  きつ音など特別な配慮が必要であったり、登校したくともできない状況の場合

(2)  実施日・予備日にインフルエンザなど病気で入院したり交通事故により負傷した場合

(3)東京都の公立中学校等に在籍していない場合(他県中学校在籍者、都内の私立中学校在籍者、海外など)

(1)特別な配慮が必要であったり登校したくともできない状況の場合

スピーキングテストにおける、特別な配慮が必要な方向けの「特別措置」に関しては、上記「令和4年度の実施について (4)特別措置」にまとめられています。
そこでは、視覚関係では点字資材による受験、きつ音・発話障害関係では解答時間の延長など、14の措置区分が列挙されています。

こういった特別措置による受験を前提にしながらも、「やむを得ない理由」により受験できない生徒の場合に、他の受験生の結果による推計方式が用いられます。

「やむを得ない理由」の例は以下の通りです。簡単に言うと、障害等により話すことに強い困難を抱えている場合や、不登校の場合等が想定されています。

・    きつ音や発話障害、難聴、緘黙等の障害・疾患により、英語「話すこと」の評価ができない場合
・    何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校したくてもできない状況にある場合

この該当性は、その生徒の状況を、常日頃から把握している中学校の校長が申請主体となり都教育委員会に申請し、都教育委員会が判断します。常日頃の状況を把握している校長を申請主体とすることで、制度の悪用を防ぐことが期待されます。

以上を踏まえると、以下のように言えるのではないでしょうか。

・ 様々に用意された受験上の特別措置を前提にすると、「やむを得ない理由」により受験できず、他の受験生の結果による推計方式が用いられる事例は、極めて限定される

・    校長を申請主体とすることで制度の悪用は防ぐことができる

(2)実施日に病気・入院等の場合

スピーキングテストは、11月の実施に加え、12月の予備日が設定されており、予備日も含めて、病気・入院等で受けられなかった場合に、他の受験生の結果による推計方式が用いられるとのことです。
この場合の申請手続は今後公表されるとのことですが、事柄の性質上、医師による診断書など客観性の高い資料の提出が期待されるところです。

(3)東京都の公立中学校等に在籍していない場合(他県中学校在籍者、都内の私立中学校在籍者、海外など)

スピーキングテスト(ESAT-J)は、都内公立中学校の生徒については、基本的に全員受験が想定されていますが、海外や他県中学校に在籍している生徒、都内でも私立中学校に在籍している生徒は、他の受験生の結果による推計方式が用いられるとのことです。

この場合の申請手続は今後公表されるとのことですが、スピーキングテストを回避することを目的に、都外に引っ越す等の事例は流石に想定しがたいのではないでしょうか。

2.このような取り扱いは妥当か

以上を踏まえると、不受験者の点数が他受験者の点数から算出される事例は、極めて限定されると考えられます。
ただ、それでも、受験していないスピーキングテストに関し、英語の筆記試験で同等の結果である他の受験生から推計して、不受験者の点数を算出することは、おかしいのではというご意見もあるかもしれません。

ただ、この推計方式が適用される生徒が、どのような状況に置かれている生徒であるか考えてみると、一例として、「話す」以外の、読む・聞く・書くといった英語技能については、筆記試験において力を示すことができるものの、話すことに大きな困難を抱えている生徒が想定されます。

このような生徒が、スピーキングテストが自動的にゼロ点になり、受験上、大きなハンデを負っていいのでしょうか。
インクルーシブな学び・受験環境を整備する観点からも、「合理的配慮」の一つとして、厳格な条件の下で推計方式を用いることも、その生徒の可能性を後押しする一つの方法ではないかと考えています。

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