漆黒アパートと大家さんとの思い出 分裂した自転車編(前編)

大家さんは私の住んでいたアパートの他に、向かいのアパートとその隣の一軒家も管理していた。
当時一軒家には人が住んでいなかったので、その敷地内に自転車をとめさせてもらっていた。

ある日、買い物に行こうと思い自転車置き場に向かった私は、自転車を見て驚いて立ち尽くしてしまった。
そこには、私の自転車が二台停まっていたのだ…!!

昨日までは確かに一台しか無かったのに、突然二台に増えていた。
しかも、その二台の自転車は新品のものとボロボロのものだった。

私はどちらが自分の自転車なのか考えた。
自転車に乗り始めて半年程経つので新品のものほど綺麗ではない。しかし、ボロボロのものほど汚くもない。私の自転車は丁度この真ん中のレベルのものだったのだ。

もう一台あれば辻褄が合うのに…などと思いながら、どちらかと言えばボロボロの方が自分の自転車に近いのかもしれない、と思い鍵をさすと自転車は解錠された。
…ボロボロの自転車の方が私の自転車だったのだ。

理解が追いつかないまま自転車に乗ると、私は更に驚かされた。
カゴの留め具が外れておりカゴがグラグラしているし、あらゆる箇所がへこんでいる。また、乗り心地も最悪だった。
数日前に乗った時はへこみも無いしカゴもきっちりとついていたので、私は車に当てられたに違いないと思った。(自転車を置いてる場所は道路に面していた)

大家さんに相談しないと…と思いつつ、とりあえず自転車を買った自転車屋さんに向かった。

自転車屋さんに着き、自転車を見てもらうと
「これを修理するには5000円以上かかりますよ。もう買った方が良いと思います…。」と言われた。

まだ買ってから半年くらいしか経っていないというのに…修理代が5000円以上もかかるだなんて考えられなかった。しかも、一夜の内に勝手に分裂し勝手にボロボロになっていたというのに…。

とりあえずその日は自転車屋さんにボロボロの自転車の整備をしてもらい、そのまま帰る事にした。

アパートに帰る道中私は、
…大家さんに会いたい。大家さんに会って相談したい…!大家さんに早く話を聞いてもらいたい…!
と激しく思いながら自転車を漕いでいた。

アパートが見えて来た時、大家さんの姿がそこにあった…!

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