漆黒アパートと大家さんとの思い出 分裂した自転車編(中編)

アパートに着いた私は駐輪場に自転車を停め、大家さんに話しかけた。

「大家さん、こんにちは。ちょっとこれを見てもらっていいですか?」
そう言いながら、並んで停まっている2台の青い自転車を指差した。

大家さんは、2台の自転車を見て目を見開きながらめちゃくちゃ驚いている。
「え?!どういうことですか?なんでヤマダさんの自転車が2台あるんですか?」

「私も意味が分からないんです。今日見たら2台に増えてて、しかも新品とボロボロなんです!
私の鍵でボロボロの自転車の鍵が空いたので、これが私のみたいなんですが、まだ買って半年なのに突然こんなにボロボロになってたんです…。」

「えぇ!?ほんとですね...。ボロボロですね…。」

「もしかしたら、前の道路を走ってる車に当たられたんじゃないかと思うんですが、何か知らないですか?」
と聞くと、大家さんはハッとしてこう言った。

「そういえば…、先日この道路でトラックが民家の柵に衝突する事故がありました!ほら、この柵をみてください。ここ、へこんでるでしょ?ここに当たったんです。」

私は、やっぱり!と思った。

「確かにへこんでますね。その時に私の自転車が当てられたんですね?」
と言うと、大家さんは

「いやぁー、ヤマダさんの自転車は倒れてなかったんですよね。ほら、この画像を見てください」
そう言って、ガラケーの画面を見せてきた。
そこには、地面になぎ倒された自転車が数台映っていた。事故直後に大家さんが撮影した画像のようだ。確かに私の自転車はそこにはなかった。

では、何で私の自転車はボロボロになっているのだろう?

理由も可能性もなにひとつ分からないので困っていると大家さんが、
「自転車が勝手にボロボロになってるのが保険の対象になるか不動産屋に聞いてみますよ!」と言い、不動産屋に電話をしだした

「あ、もしもし◯◯だけど。あのさぁ、ヤマダさんの自転車がさぁなんかボロボロになっちゃってさぁ。これって保険の対象になるでしょ?
…え、ならない?
だってさぁ、前も百貨店で土瓶を割っちゃった時にさぁ、保険の対象になったじゃん。」
電話をしている大家さんの話を聞きながら私は
(大家さん、そんな説明の仕方じゃ相手に伝わらへんで…。ほんで百貨店で土瓶を割った話について詳しく聞かせてもらいたいな。)などと思っていると、埒があかなくなった大家さんが私に電話を代わってくれと言ってきた。

私がことの成り行きを話すと、不動産屋は「それは保険の対象にならない。」と言ってきた。

私は絶望し、大家さんも一緒に絶望してくれた。
私は大家さんにお礼を言い、自分の部屋に戻った。
結局、なにも解決しなかった…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?