文房具屋の女店長 前編

私が19歳くらいの時にバイトしたのは、とある文房具屋だった。
そこには女性の先輩山下さんと、男性の先輩Tさんと女店長の3人が働いていた。

女店長はよく自慢のようにこう言っていた。
「この文房具屋の系列店には私しか女の店長がいないねん!だから私はみんなから可愛がられてるねん!」
そう言いながら他店の店長に電話をし、鼻の奥から絞り出したような猫撫で声で話をしていた。

女店長の私に対する当たりはかなりキツいものだった。
お客さんの前でアホだと怒鳴られたり、仕事を教えてはくれないが、出来なかったら怒ったり、自分の気分によって対応を変えたりしてきた。

店長の情緒は予測不能だった。
機嫌の良い時はずっと自分の話をしてきた。
私は19歳にして既に道化師根性が染み付いていたので、店長が「私毎日こんなに沢山のサプリメントを飲んでるねぇーん」と、毎日飲んでるサプリメントを見せて来た時でさえも、心底感心しているかのような深い「へぇー!!」を繰り出したり「凄いですねぇー!」「あははは!」などの相槌で応えていた。

機嫌が悪い時は、ぶすーっとした顔で黙っていたり、私に対しての文句などを言ってきた。
最悪なのが、唐突なクイズ大会が始まるパターンだ。

「はい!ここでクイズです!あのスヌーピーの文具コーナーの棚を昨日3箇所変えました!どこでしょうかっ?!」
私は絶対に外せないクイズに震え上がりながら棚を何度も見て「えーと…、一番上の、左のボールペンの所…ですか?」
「…はい、じゃあ二つ目は?」
という感じで、クイズ大会は淡々と進んでいくのだった。

文房具屋で働いて1ヶ月くらい経った日の朝の事だった。
毎朝私以外のベテランのバイトの人が店の商品を確認し、足りない商品を発注するのだけど、私はまだその発注業務を教えて貰っていなかった。
そんな中、店長が突然
「なぁヤマダさん、あんた今から発注業務やってみいや。毎朝見てるから分かるやろ?」と言ってきた。
その日は店長と私と先輩の山下さんというシフトだった。私は山下さんにも見られている、という意識があり、店長からあからさまな意地悪をされているのだけど気丈に振る舞わなければ…。と思い「分かりました」と言って足りない商品をメモして周った。

発注する商品を書いた紙をファックスしようとしたら、店長が「いいのかなぁー、それを送ったら取り返しつかへんでぇー?どうするぅー?間違えてても知らんでぇー?間違えてたらどおしてくれるんんん〜?」とニヤニヤしながら煽ってきたが、私の精神状態はもはやヤケクソ状態だったので、そのまま静かにファックスを送ったのだった。

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