漆黒アパートと大家さんとの思い出 大家さんとの出会い編

私がクソランで働いていた頃に住んでいたアパートは、セブンイレブンの真上に部屋があり、少し変わった作りのアパートだった。
室内は、細長いキッチンと居間が引き戸で仕切られていて、玄関のドアの横はすりガラスになっていた。

引っ越して3ヶ月程経ったとある夜、私はその日もクソランで残業をし、帰宅した時はすでに深夜0時をまわっていた。急いでお風呂に入り、丁度お風呂から出た時に、突然玄関のドアを叩く音が部屋中に響き渡った。
まだ裸だった私は、玄関のすりガラスから見えないよう引き戸に隠れ服を着て、すりガラスを注視した。
するとそこには、相当大柄な男のシルエットが映っていた。

こんな時間に人が訪ねてくることがおかしいし、その相手が大柄な男と言うのが更におかしい。私は東京に来たばかりで大柄な男には心当たりがなかったので、スマホの画面に110番を表示させ、いつでも通話ボタンを押せるようにしながら引き続き状況を見守った。

すると大柄な男はドアを激しく叩きながら何かを叫び出した。
あまりにも怖い、怖すぎる!と思っていると、大柄な男は玄関のポストのフタをパタパタと開け、部屋の中を覗いてきたのだ!

インターホンがあるにも関わらずそれを使わずにドアを叩いていると言うのがまず冷静さを欠いているし、他人の家のポストのフタを開けて部屋を覗いてくるなんて完全に変質者のやる事だと思った私は、スマホを手に取り通話ボタンを押そうとした。
...その瞬間変質者がまた叫んだ。

「ヤマダさん!開けてください!◯◯です!」

...ん?◯◯って大家さんの名前じゃなかったっけ?
そう思い恐る恐るドアを開けると大家さんが立っていた。

私はイライラしながら「どうしました?」と言った。
すると、大家さんは「あのね、下の階のセブンイレブンの事務所の天井が水漏れしててね、ヤマダさんのお風呂場が原因じゃないかと思って...」
「はぁ...」
「なのでね、一度お風呂場を見させてもらって、修理させて欲しいんですよ」
「...はい」
「じゃあ斉藤さんに電話してくれます?」
「...え、斉藤さん???」
「水道屋さんです」
「あぁ...」
「斉藤さんっていう大柄な男なんですけどね、クククッ、まぁ私を見て大丈夫なら斉藤さんを見ても驚かないですよ」
「はぁ...」
「これ、斉藤さんの電話番号です。なるべく早く修理してもらってください」
「分かりました」
と言うと、大家さんは帰っていった。

面倒臭いなー。と思っていると、再びドアを叩く音が聞こえた。
また来た!と思いドアを開けると、大家さんが
「あのー、ご迷惑をかけるんで、これ少ないですけど取っておいてください。」と言い封筒を渡してきた。
私が戸惑っていると、
「本当に少ないんで」と言い封筒を差し出す。

どういう意味?と思いながら受け取ると、
「中身は5千円なんですけどね」と言ってきた。
私は驚いて
「え、どういうことですか?!」と言うと、
「ご迷惑をおかけするんで。じゃあ、斉藤さんに連絡をお願いしますね!」
と言い、颯爽と帰っていった。

私はこの数分の間に起こったことを思い返した。
深夜に大家さんが私の部屋のドアを激しくノックし、大声で叫び、夜分遅くすみませんとかの言葉もなしに突然斉藤さんに連絡しろと言ってきた。更に迷惑料として5千円を渡された。

...私の中で大家さんの奇行がじわじわと面白くなってきていた。

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