文房具屋の女店長 後編

ニヤニヤした女店長に見守られながらファックスを送り終えた私は、店内の掃除をしていた。
すると、棚の向こうに隠れるように座っている先輩の山下さんを見つけた。

私が「どうしたんですか?」と声をかけると、山下さんは泣いていた。
驚いて「え、大丈夫ですか?」というと、山下さんは「店長ひどすぎるよ。ヤマダさんに何も教えてないのに発注させるなんて…。あんまりだよ…。」と泣きながら言った。
私はおどけた様子で「いやいや!私は大丈夫ですよ!」と言ってみたが、山下さんは泣き止まなかった。
きっと、この1ヶ月間の店長の私に対する態度や、自分に対する子供じみた意地悪な態度を思い出し、一気に溢れ出したんだと思った。

そこで私は「じゃあ一緒に辞めます?」と言った。
すると山下さんは「え?…何を?」と言ってきたので「バイトを」と言うと、山下さんはちょっと考え、笑いながら「いいね!辞めよう!」と言った。

私達は、女店長のいるカウンターに向かった。コの字カウンターの奥に私、手前に山下さん、入口に女店長という立ち位置だった。

女店長は、山下さんが泣いていることに驚いて「え、何?どしたん?え?」と言っていた。山下さんは泣きながら「もう...、あなたの下では働けません...グスッ」と言った。女店長は驚きすぎて呆気に取られながら「え、なんなんいきなり。ちょっと待って!」と騒いだ。
山下さんは嗚咽しながらも一生懸命女店長に伝えた。
「今朝もヤマダさんにひどいことしてたし、もう...辞めます...ズズッ」
山下さんが泣きすぎて何も喋れなくなった頃に女店長は
「ちょっ...、ちょっと待って!!奥で話そ!ヤマダさんカウンターの中に居てレジやってて!」と早口で喋った次の瞬間、事の成り行きを見守っていた私は、やっと私のターンが来ましたね。と思い、食い気味で「私も辞めます!」と言った。

女店長は驚きすぎて「はぁーーー!?嘘やろ?ちょっと待ってぇやぁーーー!!」と絶叫した。そこで私は自分にスポットライトが当たっているかのような錯覚を覚えながらとつとつと語った。

「私がこのお店で働いて一ヶ月経ちますが、今まで私に仕事を教えてくれたのは山下さんとTさんでした。店長には何も教えてもらいませんでした。あなたは店長の役目を果たしていなかったので、私が信頼しているのは山下さんとTさんで、店長ではないです。」と言ったら女店長は泣き出した。

泣きながら「嫌や嫌やぁ!辞めんといて!行かんといてー!!ちょっと待って待って!!うぁあーーー!」と言いながらコの字カウンターの入口を体で塞いで私たちが出られないようにした。

私はものすごく冷静だった。店長にその後何を言ったかはあまり覚えていないが、カウンターから何とか脱出してロッカールームに行き、エプロンを脱いでお店から出た私たちは、文房具屋の向かいのケンタッキーに入り、ガラス張りの文房具屋の店内を見ながら美味しいランチを食べたのだった。


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