オノヨーコに間違えられた話

私は額縁屋で4年間程働いていた。
最初の2年間は地元のショッピングモールに入っている店舗勤務だった。
その店舗の女店長も例に漏れず酷い人だった。

女店長は、初めて会った日に「私に【でも】って言葉は絶対に使わんといてな」と言ってきた。
私はなんで?と思いつつも「はい」と答えた。

それからは、店長と話している時に「でも」の「で」を言いかけたら慌てて「で…すが」や「で…すけど」などと言い替えて事なきを得ていた。

この店長が嫌すぎて辞めようと考えていた時、タイミング良くバスで30分の距離の別店舗に異動になった。
異動先の店舗も、とあるショッピングモール内にあり、隣が文房具屋になっていた。

異動初日、私は先輩のアルバイトの方に挨拶をし、緊張しながら働いていた。
補足説明だが、その時の私はワンレンで超ロン毛だった。

隣の文房具屋に、いつも来る有名なクレーマーが現れてハリウッド俳優のポストカードの種類が少ないとクレームを入れてきたとの情報がまわってきた。

先輩と「ヤバイ人がいるんですねー」と話していると、ふと視線を感じ目をやった先に…萩原流行ばりに全身ウエスタン調の男性が立っており、私に熱い視線を投げかけていた。

私は(ぜったいにコイツや…!)と思った瞬間、ウエスタン調の男はウィンクをし満面の笑みで颯爽と近づいてきて私にこう言った。

「オノヨーコさんですよね?握手してください!」

私は異動初日から変な奴に絡まれたくなかったので、下を向いて「違います」と言った。
するとウエスタン調の男は、
「いや、絶対そうですよ!オノヨーコさん、握手してくださいよ!」

「…違います…」

「ジョンレノンの奥さんのオノヨーコさんですよね?!俺めっちゃファンなんです。握手してください!」
そう言って、ウエスタン調の男は私の目の前に手をずっと突き出している。

私はどうすれば良いのかわからず、とりあえず握手した。するとウエスタン調の男は、
「いっやー!感動だなぁ〜!あのオノヨーコさんに握手してもらえるだなんてぇ!」そう言って、めちゃくちゃ喜んでいる。
もうツッコミどころが多すぎて、何から手をつけて良いのか分からない。

それからウエスタン調の男は私に、
「オノさん、ハリウッド俳優のポストカードなんですけど、あの俳優のポストカードありません?無いって言われたんですけど」と言ってきたので、よく分からないが「無いです」と言うと、
「オノさんが無いって言うんなら無いよな。分っかりましたぁー」と言って帰っていった。

私は文房具屋の人に、クレーマーを撃退した人として感謝された。

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