クモ
「——クモを殺したらだめだからね」
そういわれて視線を追って天井を見上げたけれど、見つけきれなかった。
よくハエトリグモがいてベッドの上を飛び跳ねて移動しているのを見かける。ダニを食べてくれるというので殺さないようにしているし、まぁ、かわいい。愛嬌がある。なのでハエトリグモか、と思って天井板を見ていたのだが——。
クモは中空に浮かんでいた。
電灯の白いカバーからぶらさがっていた。長い手足を丸めている。ラペリングをしているわけでもなかった。登ろうとしているわけでもなかった。中空に留まっている。あまり見かけないタイプのクモだった。薄い肌色で半透明な身体をしている。
一本の糸がクモと電灯のカバーを結んでいた。
エアコンのかすかな風にもう一本、糸をたなびかせているのが見えた。
ああ、なるほど。
巣を張ろうとしているのだ。
部屋のど真ん中に。
それを伝えると、あっさりと棒で糸をひっかけて他の場所に運んでしまった。
「クモはダニを食べてくれるから」
いやいやいや。
「それはハエトリグモだろう」
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