「ヤマチクで働いているママが自慢」。お箸屋さんで働く、元保育士・3児の母の原動力
こんにちは。雪野真理子です。
熊本・南関町のお箸メーカー、ヤマチクの社員です。
普段は、12歳、10歳、1歳の子どもを育てながら、工場でできあがったお箸を梱包し、お客様のもとに送り出しています。
通常業務以外に、「okaeri」のブランドマネージャーを務めたり、小学校でお箸についての出張講座を開いたり、若い人をターゲットにしたお箸「sweet urushi」の開発も行ってきました。
三児の母と仕事の両立。「大変じゃない?」「そんなに忙しくて、大丈夫?」と心配されることも多いです。
もちろん、大変なこともたくさん。でも、やりたいことに挑戦していくうちに、親が家にいることだけが子どもたちのためになるのではないことに気づきました。娘は、ヤマチクで仕事をするママのことを自慢に思ってくれているようです。自分たちにとってどのような働き方がベストなのかは親子で決めていくことなんだ、ということが、今の環境で働いてわかりました。
今回は私の、子育てと仕事の両立について、ご紹介します。
子ども好きでなった保育士から、出産を機にお箸屋さんに
私は、南関町のお隣にある荒尾市の出身です。
ヤマチクに勤めて10数年。その前は、保育士として働いていました。
実家では食料品店を営んでいて、近くに小学校や養護施設があり、小さい頃から、子どもたちと触れ合っていました。
「かわいいなあ、子ども、好きだな」
こんなことを思いながら、子どもたちと接する毎日。
ものを作ったり、遊びを考えたり、ピアノを弾き歌ったりすることが好きだったのもあって、保育士になろうと考えました。
ヤマチクに勤めることになったきっかけは、当時すでにヤマチクで働いていた義理の妹です。
保育士になって就職し8年半ほど勤めたときのことでした。
私は第一子を出産することになり、すぐに復帰することを前提に退職。そのときに、義理の妹が声をかけてくれたのです。
「『ヤマチク』というお箸屋さんが、求人してるよ。子どもも育てやすいよ。子どもを育てているお母さんが多いから、もし急に休むことになっても、気持ちよく受け入れてくれるよ」
子どもを育てながら働くには、行事や子どもの体調不良との折り合いをつけなければいけません。保育士として再就職したとしても、そのことが少し不安でした。
早く仕事に復帰したかったし、「子育てしやすいのなら、そんなにありがたいことはない」と思って紹介してもらうことにしたのです。
母である自分に何をどれくらいできるのか、挑戦したい
ヤマチクに勤めはじめて5年も経った頃、専務の山崎彰悟から社内に向けて、「okaeri」のブランドマネージャーを募集するという告知がありました。
okaeriは、2019年にヤマチクの名前で初めて発表したブランドのお箸です。
今でこそ、いろんなお箸を作っているヤマチクですが、当時はまだ、他社ブランドの製品を作るOEMが中心でした。販売会社の名前は出ても、作っている会社の名前が表に出ることはありません。
当時の私はといえば、お箸やヤマチクのことを知るにつれ、「ラベルにヤマチクの名前があってもいいのにな……。頑張って作っているのにな……」と小さなモヤモヤを抱えていました。
そんななかで告知された、ブランドマネージャーの募集。
やるかやらないか、ものすごく迷いました。でも、手を挙げたのは、後でやっておけばよかったなと思うよりも、今思い切って飛び込もう! と考えたからです。
そのなかには、ヤマチクの名前を出せるのはもちろん、母である自分に何がどれぐらいできるのか、挑戦したいという思いがありました。
子どもを持つと、仕事が二の次になってしまう……なかなかフルで働けない……。
世間でそう思われていることを感じながら、自分でもストップをかけてしまっているのではないか、という思いも少しありました。
でも、そうじゃない、お母さんでもできるということを、子どもたちや家族に見せたいと考えたんです。
自社ブランド「okaeri」がもたらした世界の広がりと責任
とはいえ、ブランドマネージャーとしての経験はまったくないので、まずは、知識をたくさん身につけました。デザインやブランディング関連の本を読んだり、お箸の製造工程を改めて学んだり、展示会や店舗でディスプレイを見て回ったり。
社員たちには、「これからはokaeriを通じてヤマチクの名前が表に出るから一緒に頑張ってほしい」とたくさん伝えました。
さらに、それまでヤマチクの仕事として社外の人に接する機会がなかったので、okaeriの魅力をどう伝えるか? まずどこから話すのか? あれこれ考えたり、他の社員とも議論を重ねました。
「お箸の魅力を伝えるには、まずは使ってもらわないとね。実際につまめるものを置いたらどうだろう?」
社員と話すなかで出てきたアイデアをもとに、竹のお箸の軽さやしなやかさを実感してもらうため、フェルトのお弁当も作りました。
卵焼き、ウィンナー、ブロッコリー、スパゲッティ、おにぎりをチクチクと縫い進め、接客も練習し、とうとう迎えたokaeriの初お披露目、太宰府の展示会「thought」。(この展示会でヤマチクを知り、入社した社員もいます)
とても緊張しました。ほとんど覚えてないくらい、ドキドキしました笑。
okaeriが発表されて、今年で4年。私自身は、okaeriを通していろんな方と話をする機会が増え、やることが広がって、刺激になりました。
ヤマチクの名前を、okaeriを通してたくさんの人に知ってもらうことができて嬉しく思います。名前が前面に出るので、責任も100%。今後もお客様に質の高いお箸を届け、お箸の魅力を伝えていかなければ、と気が引き締まります。
子どもの絵の具がヒントになって生まれた、5色のお箸
第三子が生まれる前の2021年には「社内デザインコンテスト」 に参加しました。「社内デザインコンテスト」は、ヤマチクの社員から、新商品のデザインを募集する取り組みです。年に1回開催され、社員なら誰でもエントリーできます。
そこで私が発表したお箸の名前は、「sweet urushi」。
若いうちから いいものに触れてほしい!
このお箸は、そんな思いから企画しました。
実は、展示会に行くたびに「若い世代がほしそうなお箸がない……」と感じていました。漆の格式が高いイメージから、お値段が高かったり、デザインがごくシンプルだったりするお箸が多かったのです。
お箸の特徴は、ヤマチクで使っている漆の白、黒、赤、黄、青、緑の6色を混ぜてつくる、かわいらしい色味です。
ヒントになったのは、子どもの宿題でした。
夏休み、子どもが学校から出されていた絵の宿題をやるために、絵の具を広げていました。その様子を見て、「画材って混ぜたら色が変わるんだよね」と改めて気づいたんです。
絵の具を混ぜて新しい色を作ることができるなら、色漆でも同じことができるはず。
「この色はどう?」
「黒が強いですね……」
「じゃあほんの少しだけ減らそうね」
社内で漆塗装を担当しているベテランと試行錯誤を重ね、お箸に塗る回数も何度も相談しました。こうして5色のお箸を完成させた私は、すぐに第三子の産休に入りました。
私が出産でお休みしていた間、sweet urushiは発売してからすぐに売り切れ、作ったそばから購入されているそうです。
休んでいる間にも、sweet urushiが売れているということは聞いていました。
でもこんなに在庫がないものだとは思っていなくて、復帰したとき、とてもびっくりしました。
漆自体が乾きづらい塗料で、一本一本手をかけて作っているので、完成するまで時間がかかってしまいます。まだ手に入れられてないお客様には申し訳ない……と思いつつ、今使ってくださっている方の食卓が、これまで以上に楽しくなっていたら、とても嬉しいです。
子どもに、自慢に思ってもらえる仕事
ヤマチクは入社してみると、社長、奥様、専務をはじめ、社員のみなさんがとても優しくて頼りになる人たちばかりの会社でした。
第二子を出産した後は保育園になかなか入れなかったのですが、子連れ出勤も快諾してくれ、温かく見守ってくれました。
優しい職場に恵まれたなと心から思いますが、仕事と育児の両立は忙しく、一般的に言われているように大変だなと思います。
でも、子どもはヤマチクで仕事をしているママのことを自慢に思ってくれているようで、仕事で東京へ出張に行くことを伝えると、
「いってらっしゃい。いいね、ヤマチク」
と言ってくれます。
保育士をしているときは、親は子どもと長い時間を過ごしたほうがいい、と思っていました。
でも実際に仕事をしていると、子どものために家にいることだけが正解ではないのだと気づきました。仕事を楽しくバリバリする母親も、子どもは自然と受け入れてくれるのだと感じます。
家庭のあり方はそれぞれ。どのようなペースで働くのがいいのかは自分たちで決めていくことなんだと、今の環境で働いてみて実感しました。
「子どもがいるから」と挑戦することに迷っているお母さんは、ぜひ挑戦してみてください。子どもがいることがネックになることももちろんあるかもしれませんが、職場だけでなく、身の回りにいる人を頼って、巻き込んで、挑戦してみてほしいと思います。
周りの方を巻き込みながら働くことも、それはそれで楽しいし、「子どもを持つママでもできるじゃん」と実感できることは多いのではないかなと思います。
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竹のお箸の色や形、作り手である社員の様子やイベント情報、『拝啓』の進捗についてなどを発信しています。よかったら、のぞいてみてください。フォローいただけるとうれしいです。
(ヤマチクの専務・山崎のSNSで、子どもたちを職場に招待する、しごと参観に関する記事を先日公開しました!)
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