繫体字版『死にたがりの完全犯罪』
『想死的完全犯罪者與七點前落在房間裡的雨』の見本誌をいただきました!
ソフトカバーの、美しい仕上がりとなっております。
日本文庫版がツルツルした質感だったのに比べて、繫体字版は紙本来のざらざらした手触りが感じられる、落ち着いた印象のカバーです。
サイズ感もあり、世禕さんのイラストをいっそう楽しめる表紙だと思います。
新型コロナ禍の日本が舞台ということで、海外の方にどう読み取ってもらえるのかと、文化の違いに不安半分楽しみ半分です。
執筆当時、新型コロナ関連の情報を収集する中で、いち早くITによる対策を行っていた台湾には注目しており、オードリー・タンさんの本も資料として手にしておりました。
そういう経緯もあったので、個人的には、繫体字版をお届けできることを大変うれしく感じています。
翻訳者の方も、とても巧みに訳してくれたのだろうと、一文目から感じ取りました。
1巻1行目――『死にたがりの完全犯罪』シリーズのすべての始まりであり、世界観をたった一文で表現した、自分の中では満点とも思っている一行目なのですが。
繫体字になっても、その役目をしっかりと果たしてくれている印象でした。むしろ翻訳者さんが追加された表現によって、軽やかに海を越え、数少ない文字数で「日本のコロナ禍の物語である」ということを、読者様に伝える入り口となってくれたように思います。
この場を借りて、翻訳者:涂紋凰さんにお礼申し上げます。
このように、『死にたがりの完全犯罪』はとても人に恵まれた作品でありました。
そんな作品の舞台は、人々のつながりが断絶されるような日々の中にありました。今でこそすっかり落ち着き、以前のようなつながりが戻ってきていますが、パンデミックはいつまた、世界を襲うとも分かりません。
雨が降るような部屋の中に閉じこもっていた日々を、忘れることなく。それもまた日常だったあの頃があって、今という暮らしがあることを、作品をきっかけに思い出していただけたらいいな、と思います。
贅沢な願望を述べれば、繫体字だけではなく、英語やその他の言語にもなって、コロナ禍という日々を日本人がどう過ごしていたのかという文化的側面や、言葉が違っていても共有できるだろう「手をつなぐ」という想いを、届けられたら……なんて思います。
日本で繫体字版を入手する方法があるのかは分かりませんが、表紙がとても素敵なので、チャンスのある方はお手に取ってくださるとうれしいです!
そして、一行目の感動を共有できたらいいな、と思います。