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第7章:非オタクのためのUGM入門(後編)

5年前の拙著を引用しながら、この5年間で起きていることの「答え合わせ」と、5年後の展望を考えるコラムにしています。『ビジネスに役立つデジタルコンテンツとエンタメの話』

注目のUGMサービス

 UGMは、インターネットの特性を活かしたサービスですので、雨後の竹の子のように、世界中で多種多様なUGM型のサービスがはじまっています。
いくつか特徴的なものをご紹介しましょう。
ニコニコ動画と親和性が高いサービスとして、イラスト共有のサイト「pixiv」 があります。
 ニコニコ動画で「絵師」として活躍する人が利用するようになって、爆発的に伸び ました。2014年2月の登録ユーザー数は1000万人を超えています。月間ページビューは 億という人気のサイトになっています。
 海外で話題のサービスを3つほど紹介します。 「ピンタレスト」は、写真の共有サービスです。スタイリッシュなデザインで女性か ら人気があるといわれています。当時、知名度が低かったツイッターがブレイクしたことでIT系スタートアップの登竜門になっているカンファレンスイベントSXSWで、2012年にトレンド特別賞を受賞しています。会員数は5000万人ですが、日本ではまだ影響力は小さいようなので、これからに注目です。
 ツイッター社が2012年に買収した「ヴァイン」は、「動画のツイッター」とい われているサービスで、スマートフォンを使って、6秒の動画が簡単に撮影、共有できます。「ヴァイン」での動画投稿がきっかけで人気が出るクリエイターが日本でも出てきている、注目のサービスです。
 フェイスブック社の高額買収で話題を呼んだ「インスタグラム」は写真共有サービスです。写真を加工するフィルターが簡単に選べて、綺麗な写真にできることで人気を博しました。僕も気に入って使っています。とりあえず写真をとってから、正方形 にトリミングしてフィルターをかけるという調整ができて、ワンクリックでフェイスブックとツイッターにも同時投稿できるので、重宝しています。2013年から10秒の動画を撮れる機能が追加されましたが、これはツイッターをライバル視している フェイスブックによる「ヴァイン」への対抗策だともいわれています。
 日本のサービスで最近、注目されているのは、「Mix Channel」です。日 本版ヴァインという感じでの動画共有サービスで、動画サイズは10秒なのですが、 チェキっぽいデザインが功を奏して10代の利用が多いようです。高校生と思われる恋 人同士が、キスしたりいちゃいちゃしている動画がたくさんある「LOVE」カテゴリーには、びっくりさせられます。大人としては心配になりますが、別れたら削除すればよいというのが、今時の感覚なのかもしれません。
 動画生中継のサービスの「ツイキャス」も成長を続けています。日本の若い経営者のユーザー視線を徹底した設計思想が支持の理由のようです。この分野では、アメリカ本社とソフトバンクが連携した「ユーストリーム(USTREAM)」、ニコニコ動画が運営する「ニコニコ生放送」(通称ニコ生)が日本での二大勢力ですが、スマー トフォン対応に成功した「ツイキャス」も急伸しています。
 スマートフォン向けのサービスとしては、音楽系UGM「nana」もユーザー数を着実に増やしています。前述した「ニコニコ動画」の「歌い手」志望者の 代にとって、 パソコンを使っての録音はハードルが高く、スマートフォンで簡単に録音できるということが、「nana」が支持される理由です。カラオケをつくるアマチュア音楽家と歌を歌うシンガー、それにコーラスなどを入れていくという、まさにUGM的な世界が広がっています。
 クリエイターが収入を得るという意味では、「LINE スタンプ」が重要です。近年、急速に伸び、スマートフォン向けのメッセージサービスとして確固たる地位を築 いたLINEは、みなさんもご存じかと思います。2014年10月には、登録ユー ザー数が世界で5億6000万人、月間アクティブユーザー数(MAU)は1億7000万人と発表されています。LINEの特徴は、感情を表すスタンプが多用されることです。2014年4月からスタンプの販売がアマチュアクリエイターにも開放されました。クリエイターへの分配率は当初売り上げの 50%から、2015年2月以降は30%と下がりましたが、膨大なユーザー数を持つLINEで、自分のスタンプ を売ることができるのは、クリエイターにとっては魅力的でしょう。どこまで広がっていくのか、今後の展開に注目です。
 他にもたくさんのUGMサービスが生まれています。UGMサービスやSNSは、 自分で使ってみないと、意味が理解できません。ほとんどのサービスは無料で体験できますので、面白そうなサービスをみつけたら、アカウントをつくって、気軽に試してみましょう。

3Dプリンターとメイカーズ ブームが意味すること

 さて、ここで最近注目の「3Dプリンター」についても触れておきましょう。「3Dプリンター」は、モノが生み出せる機械です。これまでのプリンターは、平面の印刷しかできませんでしたが、3Dプリンターでは、立体の設計図であるCAD(キャ ド)のデータとプラスチックなどの素材を用意すれば、印刷するかのように簡単に「モノ」の製作ができるのです。
 日本で3Dプリンターが大きな注目を集めるようになったのは『MAKERS―
世紀の産業革命が始まる』(NHK出版)という本がきっかけです。これまでもデジタルによる社会の変革について予見をしてきたクリス・アンダーソンによる著作で す。彼は2012年まで『wired』というテクノロジー系の雑誌の編集長を務めていました。これまでも、インターネットサービスによって少量多品種に脚光があたることを予見する『ロングテール』(早川書房)や、本書の音楽の章でも紹介した無料と有料を組合せるフリーミアムの概念を提唱する『フリー』(NHK 出版)などの ベストセラーを著してきています。その彼が3Dプリンターの到来と共に、新たな製造業者達「メイカーズ」のブームを予言して、大きな話題を呼びました。
 これまでの製造業は、大きな工場とたくさんの人手を必要としていました。当然、 資金も必要でした。ところが、3Dプリンターの出現で、個人が大きな元手がなくとも参入ができるようになります。ウェブデザイナーの仕事をはじめるように手軽に、 製造業がはじめられるようになりました。3Dプリンターは安いものなら、数万円で手に入ります。
 テクノロジーの発達は数々の業種において「特権階級」の立場を危うくしていますが、材料を調達し、部品を製造し、組み立てるという、これまで大企業にしかできな かったことが、個人でも可能になる「製造業の民主化」を、低価格の3Dプリンター が実現します。
 3Dプリンターの普及は、さまざまな業種に対して「再定義」を迫る潜在力を持っ ていますが、エンターテインメントにおいては、UGMの文脈で捉えるべきだと思います。ネットワーク化された3Dプリンターが、UGM的なコミュニケーションで使 われるようになったときに、大きなパワーを持つことでしょう。
 前述のLINEスタンプがフィギュアや文房具など、グッズにできると想像してみてください。たとえるなら、レストランのシェフが、レシピを売るだけで稼げるということです。これまでなら、お店を構え、材料を仕入れ、料理をして、来店した客に給仕をするということまでがビジネスだったのですが、大きく変わりました。
 以前なら、商品のアイデアやデザインがあっても、工場に製造依頼し、流通を確保し、店舗に並べなければお金になりませんでしたが、今ではネットワーク化された3 Dプリンターを使えば、クリエイターは「設計図」を販売することだけで、収益を上 げることができるのです。
 そして、考案者が、「二次創作」を許諾すれば、オリジナルデザインを発展させた、 数々のマッシュアップ作品もつくられることでしょう。これまでは、音楽やイラス ト、動画などデジタルデータとしてつくられた作品が、3Dプリンターの普及によって、フィジカルな「モノ」においても起きるのです。
 その結果、どんなビジネスがはじまり、収益を上げるようになるのか、想像は広がります。無限の可能性を感じる分野です。

共創されるコンテンツの時代

 インターネットの本質と結びついたサービスであるUGMは、もっと広がっていくことが予想されます。
 さまざまなプラットフォームがあることで、コンテンツが共有され、一緒に作品をつくる「共創」の時代がやってきています。プロとアマチュアの境目が曖昧になりま すし、著作権の法律や運用ルールを見直す必要も出てきています。面倒なこともありますが、とても面白い時代になっていると僕は思っています。
 一方でUGMに対して過剰に期待したり、過大に評価することも正しくありません。マッシュアップした作品が必ず、人気が出るとは限らないからです。
 ただ、確実にいえることは、これからの若い世代のクリエイターは、これまでになかった選択肢が持てるということです。人気のシンガーになるために、ライブハウス で歌ったり、レコード会社にデモテープを送ったりという方法は、今でもあります が、同時に、ニコニコ動画やユーチューブで直接、ユーザーから人気を博すというや り方も可能になっています。もちろん、どのプラットフォームで、どんなコンテンツ を発表するかが大切です。自分の才能のタイプを見極めて、数ある選択肢を組み合わせて、活動していく時代です。
 UGM時代は、あらゆる数字が可視化される時代でもあります。再生回数、ブックマークされた数などが即時にわかり、しかもユーザーと直接コミュニケーションがとれるので、クリエイターにとっては精神的に辛いことも少なくありません。メンタルのタフさが必要な時代になっていると感じています。ナイーブさがないと優れた作品 はつくれませんが、UGMを活用するにはタフさも持っていないとクリエイターとしての成功は難しくなっています。
UGMにおいて、成功するパターンはユーザーと「共創意識」が持てることです。クリエイターのビジョンにユーザーが共鳴したときに、作品に対する人気がブレイク するのです。
 そして、企業とユーザーの関係についても同じことがいえる時代です。企業が提供 する商品やサービス、そしてそれらが持っている「物語」にユーザーが共鳴することが、成功の秘訣になっています。広告業界では、企業とユーザーのエンゲージメント の必要性が叫ばれています。
 僕の立場でいうと、企業が顧客とエンゲージメントしていくときに、クリエイターやコンテンツが有効であるということを活かして、企業とクリエイター、コンテンツと商品のマッチングをしていきたいと思います。自分の知見を活かせる分野が広がっ てきているなと感じています。
 みなさんも時代の変化を、選択肢が増えたのだと、ポジティブに受け止めて、ビ ジネスチャンスを探していきましょう。

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<2020年のPost Script>
 インターネットによる民主化の流れとUGMサービスの関係でまとめた内容で、読み直しても、大筋は間違っていないと思いました。
 それにしても、5年一昔という感じで、ネット時代のサービスの移り変わりは速いですね、ヴァインもユーストリームも今はもうありません。
 nanaは僕も一時期、アドバイザーとして関わりました。日本の10代では誰もが知っているサービスになっています。
 一つ読みが外れていたかもしれないなのは、3Dプリンターとメイカーズの流れです。3Dプリンターを使うことで、デジタルコンテンツのように、フィジカルなモノが「複製」されていくというのは大きな流れにはなっていません。物理的な物をつくるのはデジタルコンテンツとは違う、精緻な技術が必要であり、そこに日本企業のチャンスがあると、冨山和彦氏が『コーポレートトランスフォーメーション』の中で「カジュアルからシリアスへ」という表現で指摘していました。

 それなりにコストと手間がかかる3Dプリンターが広く普及し、そのユーザーの広がりに対して、データ(設計図?)を販売するという現象が起きるのは、何か特定の分野での強い吸引力が必要なのかも知れません。Amazonに代表される物流網の充実が起きているので、完成品を受取る方が欲望にダイレクトかなと思い直しました。
 但、時代環境によって「共創されるコンテンツの時代」になっているというコンセプトは、間違いないので、UGM的な動きは加速することはあっても、まだ衰えることはないでしょう。(この章終わり、続章に続く)

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