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大雪日和 -晩秋の楽しみ-

草は枯れ低木は冬を迎える準備が進む晩秋の大雪山。色が抜け、落ち着いた景色の中、動物たちは冬支度に大忙しです。


大雪山の紅葉のピークが過ぎた10月に銀泉台や大雪高原温泉に向かう道路は閉鎖されます。このシーズン終了間際の頂上付近は、冠雪している場合もあり、気温が氷点下になることもあります。白雲避難小屋は冬仕舞いされ、管理人さんは下山しています(冬季避難小屋として利用はできます)。

登山初心者にとっては、少しハードルが高いですが、静かな山を楽しみたい方にはおすすめの時期でもあります。雪が積もっていなければエゾナキウサギやエゾシマリスは冬支度のために頻繁に出てきます。

『大雪日和』の第6編では、この9月終わりから10月初めの晩秋の景色を紹介します。

01 日の出

トムラウシ山が白みはじめ雲海が輝き出す。そして緑岳と小泉岳を結ぶ緩やかな稜線から太陽が現れる。風に揺らぐ冬枯れした草木に色が戻り輝き出す。

朝(2022年10月2日)

日の出と共にハイマツの根元から出てきたのはエゾシマリス。様子を確認し、色あせた草原を駆け回る。見晴らしのよい岩に登ると後ろ足で立ち上がり、今日の行き先を定めているようだ。

02 氷の器

朝方にかけて冷え込んだと思っていたが、ジムカデの花茎は氷に覆われていた。実った果実は、ぴったりサイズの氷の器に守られている。風の通り道にせり出したハイマツは真っ白になっている。氷の塊が優しい風にパラパラと地面に帰る。

氷の器(2018年9月27日)

03 金色の空

陽が昇るとともに西の空にはまばらな雲。あっというまに青空に広がったうろこ雲は、太陽に向かってゆっくりと流れている。

白雲避難小屋の水場でもある小川は、先週の初冠雪で流れが戻っていた。
小さなよどみが優しい光で照らされる。

秋の空(2019年9月29日)

白雲岳の頂にもうすぐというところで、うろこ雲が太陽をすっかり包み込む。しばらくして、明るさを感じて振り返ると空が金色に染まり、光芒が山々に降り注いでいた。神々しい景色にしばし時間を忘れる。

金色のカーテン(2019年9月29日)

うっすらと靄を纏い重なり合う山並みは、淡いながらもはっきりとした階調を奏でる。奥のひときわ高い山は、雄阿寒岳に雌阿寒岳、阿寒富士だろうか。

04 冬支度

晩秋の草原を忙しく駆け回るエゾナキウサギ。氷雪に閉ざされる長い長い冬に備えた貯食かと思いきや口いっぱいに咥えているのは寝床用の材料だろうか。見晴らしの良い岩に登ってあたりを見渡すのはいつも通り。しばらくすると踵を返して巣穴に戻る。

何度も何度も、この日常が氷河期から繰り返されているのだろうが想像が追いつかない。

冬支度(2018年9月27日)

先週の初冠雪が、残雪期とはまた異なる雪渓の景色をつくっていた。足下(白雲岳の頂)の雪はほとんどなくなり、大きな声で存在を主張するエゾナキウサギがガレ場を活発に動き回っている。草を刈り取り、頬張るとすぐにいつものように見通しのきく岩に登って咀嚼しながらじっと遠くを見ている。

初冠雪の旭岳(2019年9月28日)

岩陰から背伸びして様子を伺うのはエゾシマリス。口元からこぼれ落ちそうな枝や草を前足で整理している。彼らも越冬に向けてのお家作りの最中なのだろう。口の中が整うとハイマツの森に駆けていく。

越冬に向けて(2022年10月2日)

05 日の入り前

17時前。7月は19時でも明るかったがずいぶんと日暮れが早くなった。

白雲避難小屋のすぐそばで立ち枯れているクモイリンドウの花を夕陽が色づけする。すでに花期は終わるも凜とした出で立ちに気品が残る。このまま雪に埋もれて、冬を迎えるのだろうか。

晩秋のクモイリンドウ(2019年9月28日)

白雲岳の斜面に消えゆく太陽がハイマツの森を染める。常緑樹とはいえ一夏を過ごしたハイマツにも秋の気配が漂う。

白雲避難小屋は、夕方にガスに覆われることが多いため、こんな夕焼けを見られるのは久しぶりのように思う。

夕焼け(2022年10月1日)

白雲避難小屋でシーズン最後の夜を過ごす。
夜半に外に出ると雲一つない星空を見せてくれた。街明かりから伸びた天の川が小屋にかかる。その小屋にかかるはしごの先は、冬季登山者用の2階に通じる入り口。

白雲避難小屋にかかる天の川(2019年9月28日)

50年に渡って私たちを守ってくれたこの小屋と星空の景色はもう見ることはできない。
(2020年に新しい小屋に建て替えられています)



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