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選手なりきり体験ツアーに参加した話

ある秋の日。いきなり飛び込んできたニュース。仕事中だったが、へんな声が出た。

迷うことなく申し込んだ。

DAY 1

選手なりきり体験ツアーは、サポーターが通常立ち入ることができないクラブハウスのミーティングルームでの選手ミーティング体験から始まり、選手バスに乗車しスタジアムまで向かい、スタジアムでバス到着から選手ロッカー、ウォーミングアップエリア、ピッチまでと試合日の選手動線をたどり、ミュージアムを見学、選手バスでクラブハウスまで戻ってくるという行程。最終日には、つくば発着でバスの乗車距離もぐんと長く、スタジアムの貴賓室・来賓室での食事つきというプレミアムコースが用意されていた。10月17日(日)を皮切りに、11月21日(日)まで、試合のある11月7日を除き、毎週日曜日に開催とのことだった。

リリース直後から反響が大きく、SNSでは、鹿サポの興奮だけでなく、他サポさんからもこの企画を羨むようなコメントで賑わっていた。

定員は1ツアーにつき最大18人。合計9ツアーがあるとはいえ、申込みが殺到することは容易に想像できた。ライバルは多い!でもこれは絶対に行きたい!

どのツアーに申し込むか十分に検討し、10月17日(日)を第一希望に申し込んだ。

DAY 2

申し込みをして10日後、当選結果の発表の日。仕事中も「当選の」連絡はまだかまだかと気になっていた。それはまるでシーズン開幕前の対戦カードの発表や来シーズンのユニフォームデザイン発表を待つときのような気持ちだったとでも言おうか。

夕方、待っていたメールが届く。

「誠に残念ですが落選となりました」

まったく期待していない文面だった。

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DAY 3

その「便り」は突然やってきた。

仕事を終え、帰り道。電話が鳴る。登録されていない番号だが、見慣れた市外局番だった。

「キャンセルが出たので繰り上げ当選になりますが、ご参加されますか?」

こんな夢のような企画、キャンセルする人なんているわけないと思い込んでいた。しかもツアーの1週間前。信じられない!というのが正直な気持ちだった。

迷わず、「お願いします!すぐ支払いの手続きします!」と答えた。

実際、10分もしないうちに手続きのメールが届き、わたしもそれから5分もしないうちに支払いをした。

電話を切るとき、ツアーの企画担当者さんは、「ツアーの直前の連絡になってしまって、本当に申し訳ありません」と、しきりにおっしゃっていたが、申し訳ないなんてとんでもない。大いに喜んだ。

DAY 4

参加にあたって、さまざまな感染防止対策をとった上での催行であることが記されていた。感染拡大状況によっては内容が変更になる可能性があること、ツアー当日の2週間前からの体調を申告する健康チェックシートの提出が求められ、当日も事前に抗原検査の実施すること、陽性の場合は参加ができないこと、接触確認アプリ「COCOA」のインストールと起動をしなければいけないこと、茨城県独自の感染拡大防止システム「いばらきアマビエちゃん」の登録することなど。このご時世のイベント開催においては当然と言えば当然のことではあるが。

実は、参加ツアーの日までに新型コロナワクチンの2回目接種を予定していた。強い副反応が出やすいと聞く2回目。37.5度以上の熱が出る可能性もかなり高い確率であるだろう。

そんな不安もあって、念のため、事務局に連絡をしておいた。

「あー、熱、出るかもしれませんね!連絡してくださってありがとうございます。副反応によるものなら仕方ないです。熱出ないといいですね!」。

逆に気を遣ってもらってしまった。

DAY 5

わたしの参加するツアーは、10月17日(日)の9:45スタート。毎日のように天気予報をチェックし、なかなか消えない雨マークを恨めしく思っていた。

東京から9:45までにクラブハウスに着こうとすると、7:10発の高速バスに乗らないといけない。

「早起きしたくないな・・・」

土曜日のうちに鹿嶋に入り、日曜日はゆっくりクラブハウスに向かうことができるスケジュールに決めた。

土曜日は、試合日に思い付きではなかなか行けない息栖神社や神栖のカフェを巡り、ホームタウンを楽しんだ。

THE DAY

朝、起きてみると思った以上の結構な雨だった。歩いて行こうかとギリギリまで迷ったが、雨が弱まりそうな気配もなく、タクシーで向かうことにした。

鹿嶋やその周辺でタクシーに乗ると、どういうわけかたいてい鹿島アントラーズの話になる。この日は特に、行き先がクラブハウスだったからだろうが、運転手さんから話が始まった。「今日は何かあるの?今は練習も見られないでしょ?」興味ある様子で聞いてきた。「今日はイベントがあるんです!」返ってきた答えは期待を裏切らなかった。「あ、そう」。

大雨の中、集合時間の15分ほど前にクラブハウスにタクシーは到着した。

コロナ禍において、クラブハウスの立ち入りもグラウンド側1ヶ所に制限されている。普段はひっそりとしている正面入口の奥ではスタッフさんがいそいそと準備を進めているのが見える。扉が開き、相当早く到着してしまったわたしにスタッフさんが声をかけてくださった。「雨の中、お待たせしてすみません。早めに準備して受付できるようにしますね」。

駐車場にはさまざまなナンバーをつけた車がどんどんと入ってくる。ほどなくして、1年半ぶりに正面の入口からクラブハウスに入った。

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検温と手指の消毒を済ませ、健康チェックシートを提出すると、受付の方は今までずっと電話で対応してくださっていた方だった。「熱は大丈夫でしたか?良かったですね」。

わたしたちがずっとこの日を待ちわびていたように、企画側も今日までどんな人が参加するのかを想像して、この日を迎えたんだろうなと伝わってきた。

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受付を済ませると、今日のIDパスが渡された。座る場所はIDパスに示された番号らしい。この番号はどこなんだろう?誰の席なんだろう?ワクワクしていた。

クラブハウス内には抗原検査用の席が準備されていた。受付を済ませた順に2組8人ずつに分かれ、一通り説明を受け、検査をする。検査が終わるまでの時間は、陰性だろうか、大丈夫だろうかと不安も交錯していた。

THE CLUB HOUSE

先に検査が終わったグループからクラブハウスの2階へ。見慣れた階段の先は未知の世界。何とも言えない緊張と高揚が入り乱れていたのは言うまでもない。

クラブハウス内は、安全上の問題から、写真・動画撮影が禁止されていた。

スタッフさんの話を聞きながら廊下を歩き、ミーティングルームへ。ミーティングルームにあるモニターからはとある試合の映像が流れていた。「鹿島アントラーズのライバルといえば・・・」そんな話に笑いが起きた。

全員が揃うと、今日1日をアテンドしてくださるスタッフさんの紹介のあと、ミーティングさながらに映像を使って、このツアーが企画された経緯やクラブが取り組んでいること、今日のスケジュールなどの話があった。このバスツアーは本当に反響が大きかったようで、定員をはるかに超える応募があったそうだ。ミーティングの終わりには「今日はみなさんが主役です、思う存分選手になりきってください!」と呼びかけられた。

"ミーティング"が終わると、ボードルームへ移動。契約のときや取材などでよく見るあの部屋である。部屋の壁全面に歴史を物語る数々のタペストリーや写真が飾られていた。一つ一つに思い出が蘇り、「あの試合ですよね!」「現地にいました!」そんな声も聞こえてきた。スタッフさんはいろいろな裏話を聞かせてくれた。

各部屋の入口のすべてに消毒が置かれており、参加者はみな積極的に、こまめに消毒をしていた。選手やスタッフも実際に使うこの部屋で何かがあっては、そんな気持ちもあったのだろう。

THE BUS

クラブハウスを出ると、目の前にバスが停まっていた。外はあいにくの雨。外にはビニール傘まで用意されていた。

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18人のグループに対しスタッフさんが3~4人付き、一人で参加している参加者には「撮りますよ!」と気さくに撮影に手を貸してくれた。スタッフさんはみなさん一つずつ消毒が入ったスプレーを準備しており、スマホを受け取る・返すごとに消毒をするなど、かなり徹底していた。参加者はバスを取り囲むかのようにあっちでもこっちでも撮影を楽しんでいた。

「それではご乗車ください」。いよいよバスに乗るんだ!あのバスに!あの席に!テンション上がりまくった。

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選手を乗せて走るバスのドライバーさんは数人いるそうだが、鹿島アントラーズ選手バスを運転するプロである。スタッフさんは「バスの設備はなんでも触ってみていいですよー」とおっしゃっていたが、こっちはそれどころではない。とはいえ、こんなチャンスは無駄にはできない。恐る恐るあれこれ試させていただいた。東京からの高速バスもこんな充実した設備だったらどんなに快適だろうと思わざるを得なかった。

クラブハウスを出発し、スタジアムへ。バスの車内では、町田選手から聞き出したという選手たちの移動中の様子が語られた。クラブハウスからスタジアムまでは10分くらいでの距離。よく見る景色をバスの中から見る。なんだかとても不思議な気持ちだった。

バスはスタジアムを捉える。するとフロントガラスに下りていたスクリーンがゆっくりと上がり、スタジアムの交差点に差し掛かるころには目の前は完全に開けていた。スタジアムの敷地に入ると、バスは速度をぐんと落としてゆっくりゆっくりと進んでいく。意図的に。これならサポーターの姿がはっきりと見えているはずだ。外からではスモークでよく見えないバスの中も、バスの中からははっきりと見えている。

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窓から見えるその景色に、サポーターがたくさん待っていたら、ゲーフラやタオマフを掲げてバスを迎えたら、どんなに選手たちの力になるだろう。そう思った。

バスはスタジアムに着いた。

スタッフさんが先にバスから降りると、一人一人"選手"が降りてくるところをパシャリ。DAZNでよく見るアレだ。バスから降りてスタジアムに入る様子を何枚も何枚も撮ってくれた。

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THE STADIUM

スタジアムに着くと、そのままロッカールームに。中身は空っぽだったが、ユニフォームやスパイクが並んで戦う準備が整った部屋を想像した。

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ロッカールームでは、ロッカーの前に座ることもできたし、シャワールームを見ることもできた。試合前の選手の様子やかつて活躍したOB選手たちの話もたくさん聞いた。

突然、ブザーが鳴る。それを合図に、適度なスペースを保ちながら、選手になりきって円陣を組むふりをして、ロッカーを出た。

廊下にはスタッフさんが待っていて、グータッチで送り出された。

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KANEKAさまのパートナー発表のティザー動画は見ただろうか。冒頭でも聞こえたあのブザー音。あれはロッカールームアウトの合図。廊下でスタッフが手を叩き、選手を鼓舞して送りだす。こんな細かいところまで再現されたツアーだった。

ロッカーを出ると、ウォームアップエリアに。ボールが用意されていて、自由に蹴ることができた。

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DAZNで見るまさにあの感じで、”選手”たちが集まり、2列に並び、挨拶を交わし、入場を待っていると、スタッフさんの合図で音楽が鳴り響く。カシマスタジアムの選手入場曲の「SUCESSEO -OBRIGADO!! ZICO-」。目の前にはバックスタンドが見える。階段を上り、ピッチに出る。空が広がり、スタンドが飛び込んできた。

"選手"たちは、ベンチに座ったり、ウォームアップエリアを走ったり、さまざまなポーズで選手になりきって写真や動画を撮っていた。

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(試合を見ている控え選手になったつもり)

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ピッチの中には入れないが、スタジアムをぐるりと一周することができた。スタッフさんもおっしゃっていたが、ピッチからスタンドはとてもよく見える。ちゃんと見えている。

スタジアムを周回して、ミュージアムを見学した。ミュージアムがあるクラブは、鹿島以外にもう1チームしかないそうだ。冗談とも取れるような理由をおっしゃっていたが、確かにと納得するような内容でもあった。壁のケースに並べられた数々のトロフィー、カップ。これを見て思うのは、企画展示をする場所もなくなってしまうくらい、タイトルを獲りたい、いくつもいくつも獲りたい。ただそれだけ。

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途中、飲水タイムさながらに、保冷バッグに入った水を1本ずついただいた。もちろんSUNTORYさまの天然水。選手が飲水タイムに飲んでいるものと同じものだ。

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スタジアムの中に戻り、インタビュールームへ。ちょうど取材が入っており記者さんも来ていたので、インタビュー形式のやり取りがあっても面白かったと思う。

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再びバスに乗り、スタジアムを後にする。「写真の撮り忘れはもうないですか?撮りたい写真がある方は言ってくださいね!」どこまでもあふれるホスピタリティである。

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帰りのバスは、途中、ユース寮を間近に見る道を通って行った。ちょうどユース専用グラウンド、Kashima Antlers Academy Fieldのクラウドファンディングのプロジェクト期間でもあったからだろうか、ぜひ建設中のグラウンドを見ていってください、今後も引き続きの支援、応援をお願いします、とおっしゃっていた。

バスはクラブハウスに到着し、わたしの夢のような時間は終わった。写真として残しておける思い出もあるが、残念ながら形には残せないような体験も多くあった。

THE GRATITUDE

クラブ30周年の記念として企画されたこのバスツアー。スタッフさんの努力のおかげで、とても楽しい1日になったし、何人かの参加者がSNSで語るように、金額以上の価値があるツアーだったというのにはわたしも同意だ。選手の目線で何が見えて、何が聞こえて、何が感じられるのか。それらに触れられたのは貴重な経験になった。

IDパスは、実際にスタッフが着用するものに似せて作ったそうだ。ロッカールームだったりウォームアップゾーンでのブザーや音楽など、試合日を再現する仕掛けもたくさん用意されていた。スマホを手にしてボーッとしていたら奪い取られるくらいの勢いで、一人で参加していても"選手"の写真を撮影してくれた。本番ツアーの前にはモニターツアーを実施し、内容や行程に無理はないか体験してもらうなど、些細なこともこだわって企画してくださったと聞く。おそらく回を重ねるごとに、スタッフさんの経験の蓄積とサポーターのアイデアにより、より再現性の高い"選手"が登場したことだろう。

スタッフさんは「写真・動画撮影いいですよ、SNS投稿いいですよ」とおっしゃていた。いろいろな人に見てもらいたい意図もあったのではないかと思う。ところが蓋を開けてみたら「これから参加する方もいるので・・・」と控えめな発言も見かけた。わたしもその一人なのだが、こればかりは申し訳なく思う。だって、あんなにワクワクするような仕掛けがあったら、知らない方が絶対に楽しめるに決まってる。

最後にもう一度。企画・実施してくださったみなさまに感謝。

おまけ

お土産までいただいた。こんなにも!

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※記憶をたどってまとめたので、こんな「感じの」ことを言っていたな、というところもあります。ご容赦ください。