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茶話会、再び。

昨年11月に初開催したシンポジウム「にぎやか茶話会」が、秋の〈信毎メディアガーデン〉に帰ってきます。前回に続き、僕も「聞き手」として参加します。

思い返せば、この企画の構想を僕に語ってくれたその当初から、串田さんはこの「茶話会」のことを「演劇的シンポジウム」と称していました。そこには、堅苦しく形式ばった従来型のシンポジウムでは、本来その開催によって期待されている、自由闊達な議論は巻き起こらない、そして、そこに「演劇的」要素が加わるとそれが触媒のように作用して人々の議論が活性化される、という仮説であり問題提起があったように思います。

かくして開かれた初めての「茶話会」は、その検証の場として充分に機能しました。ピアノが鳴り、ダンスが空気を掻き混ぜたホールは、徐々に熱を帯び、仕舞いには世代や立場なぞそっちのけ。人と人が、互いをリスペクトし合いつつ、本気で主張を交わし合う、まさに「劇的な光景」を、その場に居合わせた誰もが(僕含め、その会が始まる前までは、何が起こるのか皆目見当もつかなかった誰もが)目撃したのです。

2度目の「演劇的シンポジウム」は「演劇的フェスティバル」の一環として催されます。そう、いよいよその幕があがったFESTA松本です。

「にぎやか茶話会」の場合、そもそも「演劇」の要素が含まれることは想定されていない「シンポジウム」という議論形態に、それらを織り交ぜ、「演劇のようなシンポジウム」に仕立てる、という試みでした。一方で「FESTA松本」は、世界各地で開催されている「演劇フェスティバル」の、いわば「松本版」を、「演劇」だけでなく(もちろん、舞台芸術を基軸に据えつつも、そこに)「演劇のようなエトセトラ」も組み込みながら構成することによって、「演劇」の意味や価値を拡張させていく(多様なものにしていく)試みであるように感じています。こう捉えると「演劇のようなシンポジウム」である「にぎやか茶話会」は、まさに「FESTA松本」に相応しいコンテンツの好例であり、今回その一環として開催されることにも、合点がいきます。

(幸運にも、5度目の波が引いていって、開催期間がコロナ禍の狭間に重なった、とはいえ)「なぜ、この状況下で敢行するのか」。(串田さんは決して多くないと云うけれど、世界の演劇フェスの「標準」を知らない市民の感覚からしたら)「なぜ、こんなに多くの演目を打つのか」。「FESTA」の全貌が明らかになるに連れて、街場ではこんな声も聴こえました。

「FESTA」開催の最初の予告に合わせて表明された「宣言」のなかで、串田さんは、

フェスティバル=“お祭り”というものは決して社会が安泰で裕福な時にだけ行われるものではありません。むしろ我々人間が困難な災難に見舞われた時にこそ、平和な社会生活が戻るように祈りを込めて、また心を健全に保つために、さらには人類がこれから先の生き方、営みのあり様を見つけ出すために行われるものでしょう。それこそが“祭り”の本来の役割なのだと思います。ですから人類がコロナウィルスのパンデミックに見舞われ苦しんでいるこの困難な時にこそ、記念すべきフェスティバルを立ち上げるべきだと思っています。

と語り、僕もこの「人類にとって『祭り』とは」という問いを深めていった先に、ひとつの解がある予感がして、だからこそ、信州大の人類学者、分藤大翼さんを「茶話会」にお招きしています(そして、もちろん、このことは「茶話会」の中で語り合っていきます)。

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ただ。それだけでは、不充分かもしれない。

「茶話会」当日をあさってに控えたいまになって、僕は思い始めています。疑問を呈した街場の声の主たちが、理解を示し、納得して、腑に落ちるためには、「人類にとってフェスティバルとは」と云う普遍的な命題に加えて、否、その普遍的な「解答」以上に、「串田さんにとって演劇とは」そして「串田さんにとって松本とは」と云う至極個人的な、かつ極めて地域的な問いの先に、どうやら聴きたい「言葉」たちが漂っているようなのです。

無論、「宣言」に綴られた串田さんの言葉が「建前」などと云いたいわけではありません。そうではなくて、あの「本音」のほかにも、まだいくつかの、よりパーソナルでローカルな「本音」が潜在している気がしていて、それらはまだ串田さんの中でも「言葉」としての輪郭を伴っていないのかもしれません。あさっての夜の限られた時間で、その「言葉」たちにどこまで近づくことができるのか、まるで予想できませんが、「聞き手」として、やれるだけやってみたいなぁ、と思い始めているところです。

感染症にまつわる現在の状況をどう考えるかは、もちろん人それぞれ。僕自身、懐疑的に、用心深く見守っているひとりなので、今回の「茶話会」も、諸手を振って大きな声で「ご一緒ください!」とは云えません。基本的な感染症対策は、会場であり主催の〈信濃毎日新聞社〉が万全を期すに違いないので、水曜の夜、タイミングが合って、僕が近づきたい「言葉」たちに、どのくらい近づけるのか、その場に居合わせたいみなさんは、よろしければ、お出かけください。そう、「CHOOSE YOUR DISTANCE」です。

にぎやか茶話会 - メディアの庭で - 2021Autumn Ver.Ⅱ in FESTA松本
▼ 日時|2021.10.13[水]17:00開場 / 17:30開演 / 20:30終演
※ 2部制・休憩あり
▼ 会場|信毎メディアガーデン 1F ホール[長野県松本市中央2-20-2]

▼ キャスト|※ 以下、敬称略
▽ 串田和美[俳優 / 演出家 / 舞台美術家]
▽ 分藤大翼[人類学者 / 信州大学准教授]
▽ 長井望美[作曲家 / ピアニスト]
▽ こぐれみわぞう[振付家 / ダンサー]
▽ 大熊ワタル[振付家 / ダンサー]
▽ 関島種彦[振付家 / ダンサー]

( 聞き手 = 菊地徹 )

▼ 台詞のない人形劇|長井望美・関島種彦
▼ 歌と演奏|こぐれみわぞう・大熊ワタル = ベルトルト・ブレヒト『マリーAの思い出』
▼ 詩の朗読|串田和美 = ウチダゴウ『鬼は逃げる』

▼ 入場料|¥2,000[税込]
※ 当日券あり・全席自由
※ 25歳以下無料[0歳から入場可]

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