みごとな一手
この3月末まで、栞日で一緒に仕事をしてきたひろ子ちゃんが「次の一手」を打った。もともと、栞日を卒業したら、学生時代を過ごした恋しい京都に舞い戻り、そこで「自分の場所」を構えるための支度を始める、というプランだった。が、このコロナ禍だ。周知のとおり京都府は、4.16[木]- 5.21[木]の1ヶ月間以上、特定警戒都道府県のひとつに指定され、緊急事態措置のもとに置かれていた。予定されていた引っ越しも、現地での拠点探しも、先延ばしにせざるを得ず、彼女は松本に留まるほかなかった。凹んでないかなぁ、くすぶってないかなぁ、と気を揉んでいたが、4月の終わりに「相談したいことがあります!」と、いつもどおりのテンションでひろ子ちゃんからメッセージが届いた。
そのとき受けた「相談」の成果が、先日お披露目された、ご当地ギフトボックスの通販サービス「旅するふるさと便」だ。以下、オンラインストアの「ABOUT」に綴られた彼女の言葉を引用しつつ。
きっと県をまたいでの行き来が今後暫くは難しいだろうな、という予想と、それでもそれぞれの日常はつづいていく現実のなかで、今は旅することが叶わない地域と地域をつなぐようなご当地便を作りたいと思いました。
ひろ子ちゃんの言葉は続く。
このコロナ渦で、オンラインでのコミュニケーションが増える一方、私自身もっと手触りやぬくもりのある、時間をかけたコミュニケーションを求めるようになりました。
僕は、うんうんと頷きながら読み進める。
毎年松本へ訪れるのを楽しみにしているひとや、ひさしぶりに連絡をとる遠くの友人に宛てて、おかあさんから送られるふるさと便のような、旅先の空気も詰め込んだお土産のようなものをと、わたしが生活するなかで出逢った松本の健やかな空気(豊かな自然、街のひとが育ててきた文化)を感じてもらえるような3つの箱を用意しました。また、今回参加してくれたお店の方たちから「松本のおすすめ」メッセージをいただいて、箱に添えています。ガイドブックには載らない、街に住むひとの肌感覚を知り、体験することが旅の1番のたのしみだと思うので、つぎの松本旅行のインスピレーションになればいいなと思います。
この企画主旨と、そこに至る思考プロセス全体が、もうひろ子ちゃんそのものだなぁ、と、僕は嬉しくなって、つい頬が緩んでしまう。浜松で生まれ育ち、京都と大阪の大学時代に感性の基礎を積み上げ、都内での服飾の仕事を経て、単身ドイツに渡り、ベルリンで暮らす中であたらしい表現や刺激に揉まれ、帰国してやってきた城下町、松本。そして、ここでの1年間。幾つもの街で暮らし、幾つもの価値観に接し、その度に全力で考えてレスポンスしてきた本柳寛子という個人が、この「一手」に見事凝縮され、アウトプットされている。
ちなみに僕が受けた「相談」は、このボックスに入れるギフトのひとつとして、先日リリースした栞日発行のZINE『masterpiece』を提供してほしい、という内容だった。この地域で長くひとつの生業を営む大先輩たちの仕事場を僕が訪ね、聴き書きした話を束ねたこのZINEを、ひろ子ちゃんが今回の「ふるさと便」に入れる品としてセレクトしてくれたことは、とても嬉しく光栄なことだったから、もちろんふたつ返事で引き受けた。
このギフトボックスに詰められる品々は、どれも彼女がこの1年間の中で出会い、見出した逸品揃い(僕個人としても、そのどれもに特大の太鼓判を押したい)。すべての「品」の手前には、その品を生む「人」との出会いがあって、それこそが彼女がディレクションした「ふるさと便」の本質的な価値、オリジナリティになっている。
そして特筆すべきは、もうひとつの創造力あふれる工夫(相談に駆け込んだひろ子ちゃんをしっかと受け止め、道筋を示してくれた〈藤原印刷〉の隆充さんに、この場を借りて、僕からも感謝!)
「まつもと号」にはコンセプトをデザインとして素敵に落とし込んでもらった『HOME TO TAPE』も同梱されます。受け取った方が、手持ちの箱やスーパーにあるご当地野菜の箱などにこのテープを貼って、またほかの誰かへと想いを贈るバトンとなって、松本からこの輪がひろがっていけばいいな~という願いを込めて。
この「ふるさと便」プロジェクトを通して、会いに行けない代わりに、想いを贈りあったり、季節のものや自分の住む地域のものを選ぶ時間やプロセスをたのしむきっかけになれば嬉しい限りです。
僕はもう、心からの拍手を贈るほかなかった。彼女のような同志に巡り逢えたことに、ただただ感謝。ひろ子ちゃん、声かけてくれて、ありがとう。そして、これからもよろしくどうぞ。この「ふるさと便」がたくさんの誰かの手を介して、遠くのさまざまな街まで軽やかな旅を続け、そして巡っていきますように!!
写真提供 _ 本柳寛子
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