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ふつうの日記 2021.09.15『ファイトでGO!』

・力仕事

 力仕事をしなければならなかった。引きこもりの体には非常にこたえ、今はほぼ床と同化しながらこの日記を書いている。寝転がるのはきもちいいね。
 私の仕事は、長さ2メートルほどの板を1階から4階まで運ぶことだった。二人一組で板の両端を持ち、階段をのぼる。板は分厚くずっしりと重い。思い出しただけでも腕が痛くなりそうだ。なんだか腰も痛くなってきた。
 私はガリガリのヒョロヒョロだ。「スリムだねー」と褒められるヒョロヒョロではなく、「大丈夫?」「ご飯食べてる?」と心配されるほうのヒョロヒョロだ。高校時代の友人には「ペーパーマリオ」と評されたので、おそらくペラペラでもある。ガリガリヒョロヒョロペラペラの人間が重たい板を持ち上げたらどんな表情になるか、想像してほしい。私はあなたの思い描いた通りになった。
 さらに言えば体力もない。中学生の頃、全国一斉の体力テストで1000m走をやった。数ヶ月後に文部科学省から得点表が届くのだけれど、そこには種目ごとにちょっとしたアドバイスがついてくる。テスト結果に応じて「この調子で運動しよう!」とか「まずは◯◯から始めてみよう!」とか言ってくれるやつ。私と同じく運動が苦手だった友人は、1000m走の欄で「1日15分ランニングしてみよう!」とアドバイスされていた。友人よりさらに低記録だった私の欄はこうだ。

「ファイトでGO!」

 文部科学省に匙を投げられた。国に認められた体力のなさ。国家レベルの体力のなさだ。国家レベルで体力のない人間が重たい板と共に階段で4階までのぼるとどうなるか、想像してほしい。私はその通りになった。
 一緒に運んでくれた人にも心配させてしまったし、フラフラして迷惑をかけてしまった。謝ったところ明るく許してくれて、人の心のあたたかさを感じた。階段をのぼりながら本気で命の危険を感じて「死ぬ……ッ!」と甲高い悲鳴まであげてしまったのに……ありがとう……。
 帰り道、自分の腕はいつも以上にヒョロヒョロに見えた。力が欲しいか……という声は、今日のような日に聞こえるものなのだろう。しかし私の鼓膜を震わせたのは、「ファイトでGO!」の幻聴だけなのだった。


・鶴瓶師匠

 鶴瓶図鑑。


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