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ふつうの日記 2021.09.13『ハッピーボイスおじさんと私』

・おじさん

 部屋の窓を開けていると、ときどき人の声が聞こえてくる。昼間なら子供のはしゃぐ声、夜中なら酔っぱらいの怒鳴り声、寒くなってくると石焼き芋の声。うるさいのだけれど意外と面白いものも多くて、聞こえてくるとつい耳を傾けてしまう。今まで聞いた中でお気に入りなのは、「ヨーロッパ!!ヨーロッパヨーロッパヨーロッパ!!ヨ~~~~ロッパ!!!」となぜかヨーロッパを連呼していた酔っぱらいの声だ。
 今日も声が聞こえてきた。昼の11時ごろ、おじさんの声だった。何やらおじさんが話しているな、という声がチラチラと聞こえていて、唯一ハッキリと聞き取れたのはこれだ。
「いや、それじゃあタクシーじゃん!」
 どうもタクシーではいけないらしい。おじさんは不機嫌な様子だったが、声質がやけに明るかった。カラッと乾いた高い声で、怒鳴っているふうでもないのによく聞こえた。
 そのとき、私はちょっと嫌なことについて考えていた。嫌なことをわざわざ考えては嫌な気持ちになってしまう、私の悪い癖だ。どうしてこんな嫌なことがあるんだろう、と不要な考察を深める私の耳に、おじさんの声は飛び込んできた。「それじゃあタクシーじゃん!」。その明るい響きに、私はハッとした。貴重な人生の時間を消費してまで、わざわざ嫌なことを考えていては駄目だ。そうだ、私はもっと前を向いて、苦しくっても生きていかなくてはならないのだ……!
 言葉の内容とは一切関係なく、私はその声の明るさに励まされた。「いや、それじゃあタクシーじゃん!」おじさんは怒っていたのかもしれない。だけどおじさん、あなたの怒りはひとりの心を明るくしましたよ。おじさん……。
 おじさんに思いを馳せながら、私の一日は終わった。あの声のおじさんが、望んだ通りの交通手段で移動できていたことを祈る。


・アンパンマングミ

 アンパンマングミについているオブラートが好きだ。オブラートが好きなのではなくて、アンパンマングミについているオブラートが好きだ。アンパンマングミについているオブラートが食べたい。アンパンマングミと一緒に。


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