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ふつうの日記 2021.09.03『寒天と黒蜜、その愛の原初』

・寒天と黒蜜

 寒天を食べた。黒蜜をかけて食べた。寒天に黒蜜をかけただけのおやつ。これが私は死ぬほど好きだ。あらゆる甘いもののなかで一番好きだ。
 死ぬほど好きなのでよく食べるのだけれど、寒天が好きだから食べているのか、黒蜜が好きだから寒天を触媒としているだけなのか、正直分からない。「黒蜜をかけた寒天」には心踊るけど「寒天」オンリーだとあまり心踊らないから、やっぱり私が好きなのは黒蜜なのか。黒蜜の場合は「寒天にかかった黒蜜」でも「バニラアイスにかかった黒蜜」でも「黒蜜」オンリーでもウキウキするし。いやしかし、黒蜜のかかったバニラアイスを食べているとき私は、本当に心から満足しているだろうか。黒蜜だけをこっそり舐めてみているとき、真に満たされているだろうか。おいしいおいしいと思うその奥で、「まあ、寒天と一緒のときほどじゃないけどね」と感じてはいないか。
 寒天と黒蜜との出会いは、幼稚園児の頃に初めて食べたあんみつだった。あんこ、シロップ漬けのオレンジ、さくらんぼ、パイナップル、黄桃……たくさんのおいしいものが寒天の上にのっていて、その上から黒蜜をかける。はじめは上の果物だけで食べ進んだ。当然ながらおいしい。そして果物がすべてなくなったとき、私の手はぴたりと止まったのだ。
 この透明なものは何か。
 一見ゼリーのようだが、何やら様子がおかしい。味がついていそうにも見えず、「おいしいよ♪」とこちらに媚びる姿勢も見せず、ただ沈黙して黒蜜に浸かっている。未知との遭遇に緊張しつつ、私は寒天をひとつと黒蜜を少し、スプーンにすくった。
 そしてそれが、あまりにもおいしがったのだ。
 それ以来、私は何かにつけて親にあんみつをねだるようになった。黒蜜に浸かった寒天を食べるには、あんみつを食べる他に方法がないと思っていたのだ。シロップ漬けの果物たちをおいしく食べながらも、私はずっと思っていた。「私には、寒天と黒蜜だけで十分なのにな」……と。
 そうか。寒天が好きか黒蜜が好きか、そんなものはとんでもない愚問だった。私は他でもない、「寒天と黒蜜」が好きだったのだ。寒天を食べるときには黒蜜を想い、黒蜜を舐めるときには寒天を想う。私の中で寒天と黒蜜は、決して切り離すことのできない最強のタッグだったのだ。
 寒天と黒蜜は、まだ冷蔵庫に残っている。彼ら二人が揃えば私は、もう空だって飛べる気がするよ。


・リサとガスパール

 リサとガスパールってイヌなのかな、ウサギなのかな、と思って調べた。ウィキペディアによると、二人は「未知の生物」らしい。それぞれ「体色は白」「体色は黒」と書かれていて、UMA感が強かった。


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