夢の6


─ねえ、動物園行こうよ。

 と、わたしが言ったのが一週間前。その時は「あー、動物園か…」って曖昧な返事しか返ってこず。まあいいかな、なんて諦めていたら。

『日曜日、動物園行きませんか。』

何を思ってか彼はやけにかしこまって電話してきた。

いいけど、急だね?

『あ、いや、そうか今日金曜か。あの、予定合わなかったら全然…』

いや、だから行くって!行こう、動物園!

『うん。はい。じゃあ行きましょう、動物園。駅前集合で。』

 そんなわけで日曜日。無事集合したわたしたちは駅から電車に乗り、郊外にある動物園に着いた。

「うわ、ゾウでか。すごいな…」

いつも無愛想な彼も心なしか目を輝かせている。ひょっとして来たかったのかな、動物園。

そういえばさ、高校で生物とってたんでしょ?動物とか詳しいの?

「いやぁ、そうでもないかな。私はどっちかというと体の仕組みとかの方が得意だったし。」

ふーん。

「ていうかあなたも生物受けてたでしょ。そっちの方が詳しいんじゃないの?」

えー、じゃあさ、あ!ほらこの動物知ってる?

「あ、これツイッターで人気のやつでしょ。あーマヌルネコだ。」

そう、マヌルネコ。今日のわたしのお目当てだ。毛がもふもふとして可愛いし、意外と気性が荒いらしいのもギャップがあっていい。何よりあの何を考えているのかわからない顔。どことなく不機嫌そうな、ふてぶてしい無表情がたまらない。…って、なんだか彼みたい。強いて言えば、毛はもふもふじゃなくて…

もじゃもじゃ?

「え?何?」

い、いや?なんかこの子、君に似てるなぁって。

「そうかぁ?」

そうだよ。

「えー…?」

納得がいかない様子の彼を横目に、マヌルネコを堪能する。さて、次はどの動物を見ようかな。


 ふれあいコーナーの前で、ベンチに座って少し休憩。そろそろ日も暮れてきた。

そう言えばさ、なんで今日誘ってくれたの?

「え、行きたいって言ってたでしょ」

そうだけど、そっちから誘ってくれるの珍しいじゃん

「うん。だから。」

え?

「…私はあまりあなたを喜ばせてあげられてないなぁ、とか、思ったので。」

えー?

「…楽しい?」

も、もちろん!

「ふふっ。なら、よかったです。」

そう言って彼は安心したように笑った。わたしはといえば、突然の不意打ちにちょっとドキドキしている。帰り際にそんなカッコいいこと言わないで欲しい。みたいな。


 一通り楽しんで家に帰ってきた。お土産屋さんで買ったぬいぐるみを枕元に。もちろんマヌルネコのぬいぐるみだ。やっぱりこの顔が気に入った。それに、うん、どう見ても似てる。

おやすみ。

ぬいぐるみに声をかけて眼を閉じる。なんだか彼が近くにいるみたい、なんてロマンチックすぎるか。でも、なんとなく今夜はよく眠れそうな気がした。

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