夢の13
とりあえず小麦粉と卵はあるからー、キャベツって入れるっけ。
「さあ…うちは入れないなぁ。あなたが入れたいなら入れれば?」
じゃあ買いまーす。あといるものある?
「うーん、まあスーパーで見ながら考えましょう。」
わたしたちのたこ焼き作りは買い出しから始まった。たこ焼き機はある。小麦粉もある。あと使えそうなものはネギが一本と卵が2、3個。二人暮らしにしてはスカスカな冷蔵庫だがどちらもあまり自炊をする方じゃないので仕方ない。同棲を始めた時に自炊当番を決めたのだが、結局コンビニ飯を二人でつつく日々だ。そのうちちゃんと料理もするだろうと二人して希望的観測をしている。
観ていたホラー映画を消して出かける準備をする。またドアに斧が突き立てられるシーンまでしか観られなかったなぁ。たしか前に観たのは付き合い出して少しした頃だったか。まあ今となってはいつでも二人で観られるわけだし。横を見ると変な猫のTシャツを着た彼がのそのそとソファから立ち上がった。
近所のスーパーに行くだけなのだがなんとなくちゃんとした服に着替えることにした。一人暮らしの時は平気でスウェットのままだったのだけれど。
「あ、着替える?」
うん、なんとなく。
「じゃ、私も着替えるか…」
だって、結局着替えることになるでしょ。
「まあ、それもそうか…」
もしかしたら、同棲した今でも二人で出かける時はデート気分なのかも、と自分の服を見繕いながら考察してみる。だからわざわざ着替えてしまうのかも。そうだとしたらなかなかに照れ臭いことだと思う。なにせ、
「そんなに選ばなくても良くない?誰も見ないでしょ。」
この男はもはやこの温度感らしいからだ。
いいの!あ、ほらそれ襟出した方が良いよ。変わんないこと無いって!もー!
そんなこんなで徒歩10分のスーパーへ。まずは野菜コーナーで1/4のキャベツをゲット。足りるかどうかは作ってからのお楽しみだ。キャベツに限らず、である。幸い二人ともそういうルーズさが一致しているらしい。気の合う二人の同棲生活は良くも悪くも安定している。そろそろ先のことも考える頃かな…
「あ、このタコ大きいな。これだと多すぎるか…?」
まあ、彼もそう思っているのかは怪しいが。だが少なくとも、たまには何か特殊なことをしないとなと思い立たねば大きなイベントもない生活になってしまったことは確かだ。そのためのたこ焼きでもあるのだから買い物から楽しまねば。
順調に材料をカゴに入れながらレジへ向かう。カートを押す彼の腕を組んでみたり、無情にも解かれてみたり、でもちょっと彼の顔が赤かったり。
お会計を済ましてマイバッグに詰める。彼がお金を払っているうちに先に詰め始めていると横から手伝おうとしてくれる。
あ、ありがとう。
「卵、こっちの袋でいい?」
うん、そこで。…え、ちょっと待って待って!いや卵は縦じゃないでしょ!
卵のパックを袋の隙間に縦入れしようとする彼に思わずつっこんでしまった。
「え、えー?いやいや、え、関係ないでしょ。構造上別に横置きじゃないといけないことはないんだからこんなのは。」
構造上とかじゃ無くて普通横置きはないって。
「いいんです!私は間違ってない!卵っていうのは外側からの衝撃が…」
帰り道の間、彼はずっとぐちぐち言っていた。
結局横置きになった卵を冷蔵庫にしまうと、彼がキャベツを刻み始めた。やっぱり多かったかなとか言いながら具材を切る包丁の音が小気味良い。腕まくりして台所に立つ後ろ姿に少し見惚れていると、彼がぽつりと一言こぼした。
「なーんか、結婚とかしたらこんな感じかも。」
それがどういう意味かは分からなかったけれど、思っていたよりゴールは近いのかもしれない。
具材の用意は完了。タコの他にエビやチーズもある。たこ焼き機も机の上にセットして、ようやく準備が揃った。ソファを背にして二人で座る。少々絵面が地味なのでぬいぐるみをいくつか置いてみた。
「あ、そのぬいぐるみまだあったんだ。」
彼にそう言われたのは付き合ってすぐの頃に動物園へ行った時に買ったマヌルネコ。多分彼が思っているより宝物だ。
背景も賑やかになったところで、早速始めようとすると、
「あぁ…本当にやるのか…。」
なに?ここまで来てやめないよ。
「いや、良いけど…」
はい!じゃあ撮ります!
はい、こんにちは!けんゆいちゃんねるの、ゆいぴーです!
「け、けんちんです…」
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