アストラゼネカ製ワクチン、若年者には血栓症のリスク……日本のワクチン政策に政治的不安

 欧州や韓国で接種が進められている英アストラゼネカ・オックスフォード大製の新型コロナウイルスワクチンに血栓症のリスクがあると示され、各国が対応に追われている。

血栓症のリスクについて様々なデータ

 アメリカの臨床試験では、アストラゼネカ製ワクチンを1回以上接種した2万人について血栓症のリスク増加は見られなかったという。

 しかしイギリスの医薬品・医療製品規制庁のデータでは、3月24日までにアストラゼネカ製ワクチンを接種した1800万人のうち、脳静脈洞血栓症(CVST)が22人報告され、別の血栓症も8人確認した。いずれも血小板の減少を伴っていたという。死者は7人にのぼる。

 ただし、ファイザー製ワクチン接種者でもCVSTが発生したというが、人数は接種者1000万人のうち2人で、血小板の減少はみられなかったという。

 血栓症の発症例が60歳未満の女性に多くみられる事から、イタリアはアストラゼネカ製の接種対象を60歳以上に、フランスは55歳以上に限定する方針を示した。また、韓国では30歳未満はアストラゼネカ製の接種対象から除外し、イギリスは30歳未満は米ファイザー製と米モデルナ製を接種するよう推奨するという。

リスクは利益を上回る

 MHRAは、アストラゼネカ製ワクチンで血栓症が発生する割合は、接種者100万人に4人弱だとしている。米ジョンズ・ホプキンス大学の集計では、イギリスでは新型コロナウイルスで既に13万人が死亡しており、イギリスの人口の0.2%(100万人中およそ1900人)にのぼる。死者の絶対数でも、死亡率でも、アストラゼネカ製ワクチンのリスクより遥かに新型コロナウイルスのリスクの方が大きい。

 しかしMHRAは、20~29歳では深刻な副反応が多くなることから、感染が収まっている状況ではアストラゼネカ製ワクチンのリスクがベネフィット(利益)を上回ると指摘しており、これがイギリスにおいて30歳未満に対してはアストラゼネカ製以外のワクチンを推奨するという判断に繋がっていると思われる。

 基本的にはアストラゼネカ製ワクチンは新型コロナウイルスの脅威を軽減させることから、やはりそのリスクは大きい。具体的な検討や比較を行わず、血栓症の発生数ばかり報じるマスメディアの「ベネフィット」は、「リスク」を上回るだろうか?

日本も大量輸入の予定 若年者向けに?

 アストラゼネカ製ワクチンは日本も1.2億回分(6千万人分)の調達契約を結んでおり、現在国内で製品化が進められている。原液から国内生産する予予定もある。承認はまだだが、5月の承認を目標にしているようだ。

 現時点で国内で接種が進められているのは米ファイザー製のワクチンで、輸入予定総数は最大1.4億回分(最大7200万人分)である。

 接種を行う優先順位は、医療従事者→65歳以上の高齢者→基礎疾患のある人→高齢者施設などの職員→60歳以上→それ以外の人、となる見通しだ。(参考ページ

 60歳以上の高齢者や優先接種者を足し合わせると、その人数は6000万人弱となる。したがって、ファイザー製ワクチン以外の承認が遅れた場合、ファイザー製ワクチンは主に高齢者でほとんど使い切る可能性がある。欧州などでは高齢者向けに接種されるアストラゼネカ製ワクチンが、日本では若年者向けになる可能性が高い。高齢者の接種が進められる中で若年者をアストラゼネカ製ワクチンの接種対象から除外する場合、代わりのとなるのワクチンを急いで大量に調達しなければならず、アストラゼネカ製ワクチンが大量に余るという事態にもなりかねない。

 アストラゼネカ製ワクチンの利益は大きいとしても、各国で若年者向けにはアストラゼネカ製ワクチンが忌避される中、健康面や政治的に大きな不安要素である。今から接種スケジュールを組み直すのは困難であり、血栓症の話がさらに膨らめば政府関係者は頭を抱えることになりそうだ。


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