【論説】自宅療養方針に騒ぐ前に自治体の方策の検証を 知事は緊急事態宣言下の権限を活用すべき

 政府の「自宅療養方針」に与野党やマスメディアや大騒ぎしている。中等症以下の患者について自宅療養を可能とするものであり、今後の感染者の急激な増加に備えたものだ。しかし、感染者の急激な増加に対応しきれない政府の慌てぶりが表れているとの印象を受ける。

 田村厚労相は4日の衆院公労委の閉会中審査で「中等症の患者にもいろんな人がいるが、呼吸管理されている人を入院させず、自宅に戻すということはありえない」と発言した。中等症には基本的に2段階あり、経過観察レベルの中等症Ⅰと、呼吸不全があり処置が必要な中等症Ⅱのうち、中等症Ⅰの患者について自宅療養が可能になると思われる。

 ただし実際に具体的な方針を決定するのは自治体だろう。感染者の急激な増加に対応できない地域でこの方針が適用される。例えば東京都では、38度以上の発熱があれば中等症の扱いとなり入院となる。発熱などが無く、基礎疾患やアレルギーも無く、高齢者などではなく、日常生活が可能で、日本語化英語で会話が可能となれば宿泊療養になる(参考:東京露の入院判断フロー)。感染拡大時はこの判断にとらわれない柔軟な対応は必要と思われる。

 地域に応じた実情を理解していない国会議員は多い。コロナ患者を見殺しにしているとの批判があるが、重篤度ではなく先着順での判断を医療機関に強要するべきではない。中等症患者をみな自宅療養させるかのようだと危機感を示す与野党の議員もいるが、彼らが誤解を広めてしまっている状況だ。首相は「全国一律ではない」として火消しに走っているが、政府の方針ではなく自治体の対応を注視するべきだ。

 今回の判断について「入院してからの話ではなく、感染者を減らしたり病床を減らす努力をしろ」という批判が出る事は理解できる。しかし、入院前の対応と入院後の対応は別の話だ。そして、感染者を減らすための手段は用意されている。それが「緊急事態宣言」である。しかし、緊急事態宣言の効果が薄れているとの指摘がある。

 緊急事態宣言が市民の行動変容を目的に乱用されている印象を受ける。そうなれば当然「慣れ」が生まれるだろう。緊急事態宣言は知事に強大な権限を与えるもので、休業命令や物資の収用ができ、平時ならば憲法違反であるとの批判を受けるような対応を法律上可能とする。しかし知事らはこういった権限を活用せず、知事側から国に「ロックダウンの検討を」との意見が出ている状況であり違和感を覚える。

 SNSでは「国から自治体に丸投げ」との批判的な意見を目にすることが多いが、実際に各市町村で対応に当たるのは自治体だ。民主主義の実現のためには、地域ごとに市民に対応する地方自治は重要である。地方自治の円滑な遂行のため、国は十分な資金と柔軟な対応が可能な環境を提供しなければならない。自宅療養方針もその一環であると言えるが、政府の対応ばかり注視する動きは見直すべきだろう。

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