「温泉むすめ」をフェミニズム運動家が批判 「性の商品化」批判の未熟さ

 温泉地の応援キャラクター「温泉むすめ」に批判の声が上がっている。性搾取に関する活動をしている仁藤夢乃さんのツイートが発端だ。

 性的表現が含まれているとして、「性差別で性搾取」と批判している。これに、各方面から反論の声も上がっている。

性差別とは

 「女性は・男性は○○すべき」という観念をジェンダーロール(性役割)と呼ぶ。日本では、これをより嫌がらせ的に捉えた「ジェンダーハラスメント」の言葉が存在する。そして、この発展形とも言うべき、性別によって権利に差がある事をセクシズム(性差別)と呼ぶ。これに反対するのがジェンダーフリー運動である。なお、ジェンダーとは生物的な性差(セックス)ではなく、社会的なあり方を指す。

 温泉むすめの台詞を読むと、「スカートめくっちゃお」「夜這いがあるのかもとドキドキ」との文言は確かに男性が女性に期待する言動のようにも感じられる。これはジェンダー的問題になるのかもしれないが、男性が女性に「こうあるべき」と強要しているか、または蔑視しているかは議論の余地があり、嫌がらせの意図が存在すると一般的に判断されるかも疑問だ。また、性差を理由に不利益をもたらしているわけではないので「差別」とも言えない。

 ところで、「環境型セクシュアル・ハラスメント」との言葉も存在する。これは主に職場環境に関わる問題として取り上げられ、人権教育啓発推進センターの資料には以下のように記載されている。(PDF

性的な関係は要求しないものの、職場内での性的な言動により働く人たちを不快にさせ、職場環境を損なう行為。
例えば
・性的な話題をしばしば口にする
・恋愛経験を執ように尋ねる
・宴会で男性に裸踊りを強要する
・特に用事もないのに執ようにメールを送る
・私生活に関する噂などを意図的に流す など 

 性的な物事によって相手を不快にさせる事が「環境型セクハラ」に該当する。したがって、主観的な判断が許容される概念だ。

 しかし、対象を職場環境以外へ拡大させる場合は注意が必要となる。不快の基準は人によって異なるため、表現規制へと発展する。以前、『宇崎ちゃんは遊びたい!』の献血コラボポスターが「環境型セクハラだ」として問題になったことがあるが、この際も「表現の自由」とのかかわりが議論された。

性搾取・性的搾取とは

 SNSしばしば耳にするのが「性的搾取」との言葉だ。WHOは性的搾取(Sexual Exploitation)について以下のように示している。(PDF

Sexual exploitation: Actual or attempted abuse of a position of vulnerability, power, or trust, for sexual purposes, including, but not limited to, profiting monetarily, socially or politically from the sexual exploitation of another.

(和訳)
性的な目的のために、弱い立場・権力・信頼を悪用したり、悪用を試みる事。他人の性的な搾取によって、金銭的・社会的・政治的に利益を得ることなどが含まれ、そしてこれに限らない。

 性的搾取は「受益者や社会的弱者に対し、優位な立場が性的な目的で利用される場合に発生する」としている。例えば、子供の性的搾取(Child sexual exploitation ; CSE)が挙げられ、具体例には児童ポルノの販売が挙げられる。また、性的奴隷(Sexual slavery)として、強制的な売春の斡旋などの性的人身売買(Sex trafficking)がある。人権にかかわる深刻な問題である。

 「優位な立場」というのがセクハラにも通じそうだが、セクハラ(Sexual harassment)は従業員間の力の差が悪用された場合に発生するものだとしている。

 性的搾取の問題では、直接的な被害者が存在する。自己判断ができない児童の裸を撮影したり、性産業への参加を強制される事など、性的な被害者が存在することが問題だ。例えば児童ポルノ規制の目的はそこにある。したがって、この意味では今回のイラストに「性的搾取」の語を用いることが適切であるかは疑問だ。

 「性的搾取」の代表例とも言うべき事件に、韓国の「n番部屋事件」がある。多数の女性に性暴行を加えてその様子を撮影し、インターネットで配信して大量の閲覧者を集め大金を稼いでいた事件だ(文春オンラインWikipedia)。未成年を含む数十人の被害者がいたほか、サイトの利用者が万単位にも上っていたという衝撃的な事件だが、まさしく悪辣な性的搾取そのものだ。

 性的搾取の語を安易に使用することは、実際に発生している深刻な問題の軽視につながってしまうという危険を感じる。なお、「温泉むすめの件で実際に被害者が発生している」と主張する人もいるらしいが、ならば今すぐ刑事告訴するなど対応するべきだろう。単に不快だと感じた事を被害の一つに数えているのかもしれないが、ならば現状、温泉むすめ側に発生している中傷等の被害(後述)の方が甚大だと思われる。

 なお、一部の国では、イラストに対して児童ポルノと同一視される事がある。北欧スウェーデンで、イラストが児童ポルノにあたるかが争点となったシーモン・ルンドストロム事件Wikipedia)が有名だ。ただし、裸の児童のようなイラストについて、言論・情報の自由、児童への侮辱、日本の文化などについて言及したうえで、無罪判決が下されている。さらにスウェーデン警察も「性的虐待にさらされる恐れのある子どもたちを、空想のイラストと同レベルに扱うべきではない」「イラストまで捜査対象に加えれば、被害に遭っている子どもたちを助けるための時間が削られてしまう」などと話していた(ニュース記事)。

 ところで、性的な商品は日本においても取り締まりの対象となる。刑法175条(わいせつ物頒布等の罪)であり、基準は判例における「いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的な羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」というものが例に挙げられている。成人向け漫画では局部の一部が隠されているものが出版されているが、これは本来は違法であり、見せしめ的な摘発も行われている(松文館裁判)。ただし現状、官能小説や濡れ場のある映画、週刊誌のヘアヌード写真など、相当過激なものでも、業界内の自主規制が存在するのみで、ほぼ黙認されている。

日本の「性の商品化」批判

 いわゆる「ツイフェミ」と呼ばれる人々によって、性差を感じさせる表現全般が主観的に攻撃されているケースが目立つ。最近ターゲットになっているのは女性の二次元描写である。例えば、先述した宇崎ちゃんは太田啓子弁護士が「環境型セクハラのようなもの」と批判するなど猛烈に炎上し(Twitter)、京都市営地下鉄の応援キャラクターの松賀咲はスカートの下のスパッツが見えて「男性目線のキャラ」だとして北九州市議の村上さとこ氏が批判(Twitter)。VTuberの戸定梨香と千葉県警察のコラボには、全国フェミニスト議連がへそ出しやいわゆる乳揺れ描写を指して「性的対象物として描写し、かつ強調しています」と噛みついた(FNN)。

 性的搾取に似たような言葉として「性の商品化」がある。性にもとづく身体の商品化を指し、例えばAVのようなポルノグラフィーが挙げられる。性的搾取より広い概念と言える。「ポルノは女性を侮辱し、苦しめるものである」という観点で批判されていた(ブリタニカ国際大百科事典)。先述した宇崎ちゃんの件のように、体の一部を強調したポスターのほか、任天堂の新垣結衣のポスターのように(参考)、単に笑顔の女性が写っているだけのポスターでも批判される事があるが、これは性の商品化批判と言える。

 ただ、「性の商品化」批判の拡大については、「何がどう問題なのか」という観点で議論の最中である印象を受ける。批判者の主体を「女性」としているが、実際は一部の人の主観を理由に性の商品化を批判しているという印象を拭えない。少人数の個人的な嫌悪で様々な権利が奪われてしまうリスクを抱えている事になる。例えば、自ら性の商品化の市場に参加している女性の主観は考慮されない。性の商品化の批判は、すなわち性差を用いている(と思われる)全ての業界・全ての人をターゲットにし、AV女優やグラビアモデル、アイドル、アナウンサー、レースクイーンなどが撲滅の対象となる。

 「性の商品化」批判について、グラビアアイドルの茜さやさんの例が印象的だ。茜さんをモデルとして、胸の膨らみが容易にわかる画像がインターネット広告に用いられた際、強い批判が巻き起こった。モデルにあえて胸の大きい女性を選ぶ必要があるのか?男性の性的興奮の惹起を意図しているのでは?という意見があろう。企業の意図は不明だが、女性を侮辱していると感じる人もいたと思われる。

 ただし、こういった意見がどれほど尊重されるべきかは議論がある。表現の必要性は製作者側が判断することであり、不快感については主観でしかない。温泉むすめに関しても匿名の第三者が「少女である必要は無い」と批判しているが、これは感想でしかない。このような表現で実際にどのような実害が出ているかも不明だ。そもそも、女性の権利として職業などの自己決定権も当然含まれるべきである。例えば茜さんは「悩みを仕事に活かせた」と語っている(ブッチNEWS)。

 この点は、ツイフェミとして有名な石川優実さんも「グラビアアイドルもキャバ嬢もAKBのようなアイドルも、一人の人間であって、もののように扱う人がいなくなればいい」と記述している。性的搾取に対するまともな批判意見である。(※ただし石川さんは、胸の大きい女性が採用されたED治療クリニックの広告に噛みついた際、胸の大きい女性が失職したとしても、新しい仕事に別の女性を採用すれば女の仕事を奪ったことにならないという理論を展開して批判されている)

不適切な「温泉むすめ」批判、中傷も

 仁藤さんの批判は「何がどうだめなのか」という観点でも説明が抜けてしまっている。それは個人的な感想にしかならない可能性が高い。創作物の世界ではこれまで飲酒、喫煙、裸・性交渉のようなアダルト表現のほか、薬物、殺人、違法捜査など、あらゆるアウトローを描写してきた。それらは実際の犯罪と結びつけられ、スプラッター描写やオタクが攻撃されてきた事もあった。しかし現時点で、創作物が犯罪発生に寄与すると立証されたことは無く、そして常に表現の自由との兼ね合いが論じられている。あらゆる権利が関わる問題には慎重に向き合うべきだ。

 そして現実的には、すでに発生している問題に向き合うべきだろう。児童への性的虐待、望まない妊娠、男女の賃金格差など、あらゆる課題が日本には存在する。結局のところ、性の商品化にかかわる批判は個人的な不快感を表明しているに過ぎないと感じるのは筆者だけだろうか。

 現に、朝日新聞のコラムニストの勝部元気さんが、今回の温泉むすめの件に関して「これだけ人権意識がバグってると、脱衣所とかに超小型カメラを着けるスタッフが紛れていそう…」とつぶやき、誹謗中傷だとして批判が殺到した。勝部さんはツイートを削除しているが、謝罪等の反応は見られない。

 また、勝部さんは「温泉むすめの服装、馬鹿の一つ覚えみたいに学校制服モチーフが多いの、ああいう絵が好きな男性たちの学校制服に対する異様な執着と拗らせが垣間見れて、めっちゃキモくないですか?」とも投稿している。

 「キモい」という言葉は時おりツイフェミ界隈で目にするが、まさに主観でしかない。仁藤さんも「キモいおじさん」という動画シリーズを作成しているが、目的は分からない。主観的な嫌悪に共感する声が一定程度あるのは事実だろうが、それを根拠にした社会活動にどれほどの正当性を与えることが可能で、どれほどの支持を得ているのいるのだろうか。身内で楽しむだけになってはいないだろうか。

 そして仁藤さんは遂に、この問題について「性犯罪と地続き」などとツイート。萌えイラストが性犯罪と関連しているとの報告は存在しない中、今回の「温泉むすめ」と性犯罪との関係を明言した。これについては「少女をモノ化している日本社会の性差別の深刻さ、少女を支配して楽しむ人権意識の低さそのものを表している」との考えを示しているものの、あくまでも持論であり、性犯罪と「温泉むすめ」との関係を示す確たる根拠は現時点で示されていない。

 関係者が盗撮者だという中傷をした勝部さんに加え、根拠が無い以上、単なる中傷にすぎない仁藤さんのツイート。根拠を求めると「そんな事も分からないのか。だから日本はダメなんだ」という言葉しか返ってこない気がする。性犯罪の根拠をイラストに求め、根拠なくイラストばかり批判している以上、少なくとも仁藤さんらの手ではこの日本から性犯罪は無くならないだろう。

 さらに日本共産党の香西かつ介さんは、温泉むすめは温泉の「営業妨害になる」とツイートした。こちらも何ら根拠は示されておらず、個人の感想である。

 こういったツイートに目を通すと、「温泉むすめ」に反発する人は自己の嫌悪を周囲に巻き散らし、さらにジェンダー平等の名の下で攻撃の過激化を正当化し、そして攻撃によって嫌悪を正当化していることが分かる。そこには科学的な知見や冷静な分析は存在しない。

 攻撃の過激化の結果、既に観光地に実害が発生しているという。「温泉むすめ」公式Twitterによると、協力店などにいたずら電話があったり、悪意のある口コミや差別などの事態が発生しているとの事だ。

 これまで温泉むすめは5年にわたって観光地に貢献し、観光地が瀕死に追い込まれているこのコロナ禍においても活動を続けている。この活動には女性も関与し、テレビや新聞に取り上げられる成果もあげているという。炎上騒ぎになるまで「温泉むすめ」の悪い話は見当たらない。

 そんな温泉むすめや観光地が、いわゆるツイフェミの人々の偏見や中傷により破壊されつつある。果たして、ツイフェミの方々は誰のためにこんな事をしているのだろう。自身の嫌悪に共感しない人はすべて敵であり、ジェンダー平等の名のもとに好き勝手に中傷し破壊して良いと思っているようだが、それが正義なのだろうか。

 筆者には、もはや性的問題を口実に自身の欲望を満足させるために行なっているようにしか見えない。全く的外れな見解で社会の実際の課題を掻き乱し、関係者に迷惑をかけるだけの彼女らの動きは、観光地に関わったり、性犯罪に取り組む人々の目にどう映っているだろうか。仮にストレスや嫌悪が行動理由でないのだとすると、児童ポルノなどの現実の性的搾取問題を隠し、保護するために活動している疑いすら出てくる。

 こういった行動を放置すれば、「温泉むすめ」に限らずあらゆる漫画、あらゆる雑誌、あらゆるドラマ、あらゆる映画が自粛の波にのまれ、表現や思想までもが幅広く侵害されるだろう。「性犯罪がー!」と言って「気に食わないもの」を破壊する一部の人によって。

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