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ロッテが牧秀悟を指名しなかった理由を考察してみる

ヘッダー画像引用:横浜DeNAベイスターズ公式Twitterより

どうも、やまけんです。
ペナントレースの開幕に向け、プロ野球では連日オープン戦が繰り広げられています。既存の選手だけでなく、昨年のドラフトで指名を受けた新人選手や移籍選手が活躍するシーンも多く見られ、意気揚々としているプロ野球ファンの方も多いのではないかと思います(新外国人選手の来日が遅れているのが非常に残念ではありますが…)。

各球団とも新人選手の活躍が見られますが、その中でも特に阪神の佐藤輝明(近畿大・ドラフト1位)選手とDeNAの牧秀悟(中央大・ドラフト2位)選手の大卒新人野手コンビの活躍ぶりに目を奪われます。佐藤選手はオープン戦で打率.370 4本塁打、牧選手も打率.381と開幕スタメン奪取に向けた好アピールが続いています(オープン戦成績は3/14時点)。

両選手とも昨年の大学生の中ではトップクラスに打撃を評価されていた選手で、12球団のほとんどが1位指名候補にリストアップしていたものと思われます。しかしドラフトでは、佐藤選手が阪神、オリックス、読売、ソフトバンクの4球団競合となった一方、牧選手の名前は1位で呼ばれず、横浜DeNAが2位指名。驚きと違和感を覚えたファンも多かったのではないでしょうか。

自分が応援するロッテも、昨シーズン終盤に内野手の層の薄さ打撃力の課題が露呈する形で失速し、1位指名で早川隆久(早稲田大)投手の抽選に敗れた後はこの2点を埋めてくれるであろう牧選手の指名を望んでいました。

しかし2回目の入札では牧選手ではなく、早川投手と同じ六大学出身のサウスポー鈴木昭汰(法政大)投手を指名し、ヤクルトとの競合の末獲得に成功しています。個人的に鈴木投手が好きだったため嬉しい気持ちはあったものの、牧選手を指名できた状況でスルーしたことによるショックがあったことは正直否めません。自分と同様に牧選手を指名しなかったことを嘆いているロッテファンも(他球団のファンも)多かったのではないかと思います。

今回は、改めて昨年のドラフトを振り返りながら、ロッテが牧選手を1位指名しなかった理由について考察してみたいと思います。

大学時代の牧秀悟の寸評

まずは大学時代の牧選手を改めて振り返りたいと思います。

打撃
東都一部リーグ4年間で通算打率.285 5本塁打 50打点という成績を残しています。打者としてはヒットの延長線上にホームランがあるという中距離打者タイプであると言えます。

シーズンごとの成績の推移を見ると、3年春以降に打撃成績が大幅に良化している様子がわかるかと思います。牧選手は大学2年までショートを本職としていましたが、3年時にセカンドにコンバートされたことを機に打撃が飛躍的に成長し、大学日本代表の4番打者を務めるまでの選手になりました。
3年春、3年秋は出場試合数を上回る14打点を記録しており、勝負強いクラッチヒッターという側面もあります。また選球眼にも長けており、4年間での通算出塁率は.383を記録しています。

走塁
50m6.4秒と、俊足と呼べるほどの脚力はありません。しかしながら大学時代のリーグ戦では相手の隙を見つけて先の塁を陥れたりするなど、走塁意識は比較的高い方であると言えます。4年間7シーズンで11盗塁を記録しています。

守備
先にも書いた通り、大学2年まではショートを、3年以降はセカンドを守っています。セカンド守備では、守備範囲は広くないもののエラーが少なく、堅実なタイプです。深い位置からの送球やダブルプレーでの送球が強く安定感もあり、プロの選手で例えるなら楽天の浅村栄斗選手のようなタイプのセカンドであると言えます。

ロッテに牧秀悟が欲しかった理由

次に、なぜロッテに牧選手が必要と思ったのか、個人的に欲しいと感じた理由について書いていきたいと思います。

①打線強化
まず大きな理由は、打線の強化です。昨季のロッテはチーム打率.235とパ・リーグ最下位に沈み、得点数もリーグワースト2位の461点と貧打に喘ぎました。主力選手にも好不調の波が大きく、打てる時期と打てない時期がハッキリとしていたこともあり、大学時代のリーグ戦で安定した成績を残していた牧選手を獲得して打線の強化を狙いたいと考えていました。

②将来の右のスラッガー候補不足
近年のロッテのドラフトを見ると、平沢大河選手、安田尚憲選手、藤原恭大選手、佐藤都志也選手など左打者は将来の打線の中軸候補と呼べる選手を積極的に指名してきました。一方、右打者で中軸候補と呼べる選手は2018年4位の山口航輝選手しか指名しておらず、将来的に打線の主力選手が左打者に偏ってしまう可能性が懸念されていました。この点についても、右打者である牧選手をチームに加えたいと感じた点のひとつです。

③中村奨吾、井上晴哉への高すぎる依存の解消
井口監督就任以降、井上晴哉選手と中村奨吾選手がそれぞれファースト、セカンドのレギュラーに定着していますが、昨季は両選手とも打率.240台と低調な打撃成績に終わりました。しかしながら、両選手に取って代わる選手がおらず、不調時にもこの両選手を起用せざるを得なかったチーム事情にも問題があると自分は思います。
3年間レギュラーを務めている彼らへの期待と信頼の表れかもしれませんが、高すぎる依存を解消し、不調時や疲労を抱えている際にはスタメンから外せるように牧選手の力が必要であると考えていました。

スカウトの牧秀悟に対する動向

ここまで牧選手がロッテに欲しいと思った理由について書いてきましたが、実際にロッテのスカウトが牧選手の視察に赴いていなければドラフトでの指名は現実的ではないかと思います。この章では、昨年(主に秋)のロッテのスカウト陣の牧選手に対する動向をまとめていきたいと思います。

9月22日 vs東洋大学1回戦(秋季リーグ開幕戦)
秋季リーグ開幕戦ということもあり、ロッテは永野吉成スカウト部長、榎康弘チーフスカウト、中川隆治スカウトが視察に訪れていました。牧選手は3打数0安打1四球とヒットは出なかったものの、凡退はいずれも外野フライで、相手投手に崩されずに自分の形でスイングできていました。

10月6日 vs駒澤大学1回戦
この日は担当の中川隆治スカウトに加え、東海地区担当の小林敦スカウトが神宮球場に視察に訪れていました(俗に言うクロスチェック)。牧選手は5打数2安打1本塁打という活躍ぶり。
この活躍よりも印象的だったのが、普段ネット裏で視察しているロッテのスカウトが一塁側に陣取り、牧選手の打席と守備にビデオカメラを向け続けていたことです。右打席に立つ牧選手のフォームを一塁側からチェックしている様子が伝わりました。

なお、ロッテのスカウトは渡部健人(桐蔭横浜大→西武1位)選手や今川優馬(JFE東日本→日本ハム6位)選手など、他の右打者の有力候補に対しても同様に一塁側からビデオカメラを回していたことを併せてご報告させていただきます。

10月13日 vs東洋大学2回戦
この日、残念ながら自分は他のリーグの試合を観戦しに行っていたため牧選手の動向を追うことはできませんでしたが、牧選手は2打数2安打1打点2四球と全打席出塁の活躍。そして試合後には、ロッテの中川隆治スカウトから牧選手に対してコメントが出ています。

>ロッテの中川スカウトは「右も左もヒットゾーンに持っていけるバッター」と左右に打ち分ける打撃を高く評価した。

10月18日 vs三菱パワー(オープン戦)
この日、リーグ戦はありませんでしたが、中央大学は社会人の三菱パワーとオープン戦を組んでいました。自分は別の試合を観戦していたため、現地にいた友人からの情報になりますが、ロッテの永野吉成スカウト部長と中川隆治スカウトが視察に訪れていたとのことです。そしてこの試合でも牧選手は逆方向にホームランを放ったとのことです。

この一連の動向を見ると、ロッテのスカウトが熱心に牧選手を視察していたことがお分かりいただけるかと思います。そしてドラフト当日の朝には

という記事も出され、指名の可能性は十分にあるのではないかと思っていました。

ロッテが牧秀悟を指名しなかった理由

ここからは具体的に、なぜロッテが早川投手の競合に敗れた後に鈴木投手を指名し、牧選手を指名しなかったのか、具体的に考察していきたいと思います。

①先発投手の獲得優先度
先程は牧選手が必要だと思った理由について書きましたが、他に補強すべきポイントがなかったわけではありません。

特に先発投手は、石川歩投手、美馬学投手が軸となっていますが、両投手とも30代中盤に差し掛かり、次世代の先発投手を獲得する必要がありました。加えて昨季は西野勇士投手、種市篤暉投手がトミージョン手術を受け、今季以降の先発投手陣に不安があったことも事実です。
佐々木朗希投手を筆頭とする期待の若手投手も、レギュラーシーズンの1年間を投げ切る体力という点でまだ不安が残ります。

このことから、1位指名では牧選手ではなく先発投手として1年目からの活躍が期待できる早川投手、そして早川投手の競合に敗れた後は鈴木投手の指名に至ったのではないかと思います。実際に上述の記事にも

>最優先の補強ポイントを先発投手に定め、早川の交渉権を獲得できなかった場合も、同じ左腕の法大・鈴木らに照準を定める。

との記載があり、2回目の入札時に鈴木投手が残っていた時点で指名は決まっていたのではないか、とも考えられます。

②事前に組み立てた指名プランや流れの遵守
①の内容に関連している部分も大きいですが、各球団ともドラフト会議前にはスカウトや編成部長・GM、更に監督などが加わりスカウト会議をし、ドラフト本番での具体的な指名プランを組み立てます。ここではチームの課題や補強ポイントについての確認、担当スカウトによる指名候補選手の推薦、他球団の指名予想・シミュレーションなどがされています。

ここでロッテは1位の入札で早川投手を指名するプランに決定し、競合に敗れた際も同じ大学生左腕で早川投手の代替候補となり得る鈴木投手が残っていたら指名する方針を固めたのではないかと思います。
牧選手が他球団に1位で指名されると想定していたのか、それとも残っていると想定していたのかはわかりませんが、事前に組んでいた2位以降の指名プランを崩さないためにも「早川→鈴木」の1位指名の流れをあらかじめ決めていたという可能性はあるかもしれません。

投手・野手間の比較は難しく、純粋な能力で鈴木投手と牧選手の優劣を語ることは容易ではないと思いますが、少なくともロッテでは牧選手より鈴木投手の方が獲得優先度がより高かったと考えることができます。

野手1位指名の配慮、リスクとリターン

牧選手を1位で指名しなかった理由の考察に1つの示唆を与えてくれたのが、現在オープン戦で起用されている平沢大河選手の存在です。

一般的に、ドラフト上位指名選手になればなるほど一軍戦力化する確率も高くなります。
「良いドラフト」と聞くと下位や育成指名からスター級の選手が出てくるドラフトのことを指すと思われがちですが、上位指名の枠を割いて指名した選手が戦力として着実に定着してくれることこそ「良いドラフト」の条件であるという考え方もあります。逆に、上位で指名した選手が戦力として定着しないと、他球団に引けを取ることになります。

投手は先発からリリーフまで活躍の場が多いですが、野手はDHを含めても9ポジションと出場機会が限られ、戦力として定着するには能力もさることながら出場機会を得られるかも重要になってきます。近年では投手より野手のドラフト候補の方が希少性が高いということもあり、上位で野手指名に動く球団も多くなっていますが、戦力として定着してもらうためにも一定の出場機会の確保には配慮の必要があります(これを贔屓起用と捉えられることがありますが、個人的には違うと解釈しています)。

近年、ロッテはドラフトで安田選手、藤原選手など、野手の1位指名に動いています。現在セカンドを守る中村選手も2014年の1位指名選手です。そしてご存知の通り、平沢選手もその1人です。

中村選手はレギュラーに定着し、安田選手、藤原選手も二軍での育成期間を経て、既にレギュラーを掴める立ち位置にいます。一方で、平沢選手は故障等もあり依然一軍戦力として定着できていないのが現状です。

昨年の平沢選手は10月に肘の手術で離脱するまで二軍ではほとんどショート一本で出場していましたが、今季のオープン戦ではショート以外にセカンドやサードでも出場機会を重ねています。編成的な観点から見ると、球団側は期待を込めてドラフト1位で指名した平沢選手にポジションは問わず何としても戦力に定着してほしいと考えているのではないかと思います。

そして、平沢選手のポジションが定まっていない中で、左右こそ違うものの同じ内野手で年代も近い牧選手を1位で指名することはお互いの出場機会を奪い合ってしまう可能性もあります。両選手、そしてチームの戦力の最大化という点で共存が難しく、ある意味で1位指名のリスクに対するリターンが見合わずに指名を回避したとも取れます。

関連:なぜロッテはショートの選手を獲得し続けるのか

平沢選手に対する考察を見て「でも平沢と近い世代の福田光輝や小川龍成を指名してるじゃん」と思った他球団のファンの方も少なくはないかと思います。

この疑問の解決という点において、井口資仁監督が先日出した著書『もう下剋上とは言わせない〜勝利へ導くチーム改革〜』にヒントとなりそうな記載がありました。

 なぜショートの選手をこれだけ多く集めたのか? それは、ショートのポジションだけでレギュラー争いが激化すればいいというわけではもちろんない。ショートを守れれば、セカンドやサードへコンバートすることが可能……という編成上の狙いからだ(その逆-セカンドやサードからショートへのコンバート-は難しいが……)。

ここに記載がある通り、近年のロッテはショートを本職とした選手を積極的に獲得しています。ショートを本職としていた選手を積極的に獲得していれば、コンバートなどにより内野の特定のポジションに穴が開くことがなく、チーム運営に支障をきたす可能性を低く抑える事ができます。

そしてこの背景には、アマチュア時代にショートとして活躍しながら、プロ入り後セカンドにコンバートされて成績が飛躍的に向上した経験を持つ井口監督ならではの意向もあるのではないかと自分は考えます。

牧選手の打撃をロッテのスカウト陣が高く評価していたことは間違いないと思いますが、ショートではなくセカンドを本職としていた点からも指名優先度はこちらが想像していたより高くはなかったのではないかと考えられます。

まとめ

ここまで、ロッテが昨年のドラフトで牧選手を指名できる状況下でスルーした理由について考察して参りました。自分の結論としては

・先発投手の指名優先度が高かった
・当初組んでいた2位以降の指名プランを崩さないために早川投手の代替候補となり得る鈴木投手を指名した
・野手の1位指名には一定の配慮が必要で、平沢選手のポジションが定まっていない中での牧選手の指名はリスクに対するリターンが見合わない

以上の3点が理由として大きかったと考えます。

ドラフト直後はなぜ指名できたのにしなかったのか…と、少なからず落胆したことは否定しませんが、実際に「ロッテ牧秀悟」の世界線を考えた際に、ポジションの定まっていない平沢選手との共存、両選手の一軍戦力化という点においてのリスクが高く、加えてポジションの兼ね合いで得られるリターンは必ずしも大きいものではないかと考えるようになりました。

そして、牧選手よりも優先して指名した鈴木投手のここまでの投球を見ると、140キロ代後半のストレートを打者の内角に強気に投げ込む、今までのロッテの投手陣では見られなかった一面を見せてくれております。順調にいけば開幕3戦目での先発が予想されており、シーズン開幕後も強気の投球でロッテに新たな価値をもたらしてくれるのではないかと期待しています。

また、懸念されていた井上選手、中村選手への過度な依存も、セカンド挑戦中の平沢選手やオープン戦でここまで4番ファーストでの出場が続く山口選手のアピールにより、昨季とはまた違った戦い方が見られるのではないかと期待しています。

「このチームに更に牧選手がいたら…」という世界線を見てみたかった気持ちはあるものの、ここまでのロッテの戦いぶりを見ていると、絶対に、どうしても牧選手が必要だったわけではなかったのかな、と思います。そして、DeNAのオープン戦でスタメン出場を重ねている牧選手を見ると、DeNAこそ牧選手に最も適した球団だったのではないかと自分は思います。

今年の10月には、鈴木投手や平沢選手、山口選手らの活躍でパ・リーグを優勝した千葉ロッテマリーンズと、牧選手の活躍でセ・リーグを優勝した横浜DeNAベイスターズによる日本シリーズの戦いが見たいと強く願います。


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