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原因別で見た薬剤性浮腫②


前回は、薬剤性浮腫の原因について浮腫の機序ごとに分類して大まかな解説をさせていただきました。

https://note.com/yakuyakutyanpon/n/n023da9ddd41f

(末梢性浮腫)
・血管透過性浮腫 →血管壁細胞の増殖抑制・血管内皮細胞同士の結合弱体化
・リンパ性浮腫  →損傷したリンパ管内皮細胞の増殖と遊走を抑制
・血管拡張性浮腫 →細動脈拡張による毛細血管静水圧の上昇
・腎性浮腫    →水分排泄の減少

(末梢性以外の浮腫)
・血管性浮腫   →急性かつ局所的な血管透過性浮腫
・RS3PE症候群    →血管透過性亢進に関与するタンパク質の増加

今回は、薬剤性浮腫の、主に末梢性浮腫において、具体的な薬剤を交えてそれぞれ解説させていただきます。


血管透過性浮腫



主に抗悪性腫瘍薬、サイトカイン製剤により血管透過性の亢進を引き起こすとされています。
近年ではBCR-ABL阻害薬やALK阻害薬などのキナーゼ阻害薬が登場し、一般的に浮腫を起こすものの代表例とされています。

BCL-ABL阻害薬はBCL-ABLチロシンキナーゼだけでなく、血小板由来成長因子レセプターチロシンキナーゼ(PDGFR)も阻害し、がん細胞増殖抑制作用を示すとされています。
このPDGFRは毛細血管-間質の静水圧勾配を制御しており、そのバランスが崩れることによって浮腫が生じます。

また、イマチニブは免疫細胞を活性化することによってサイトカインを急激に増加させることが知られています。その結果、血管内皮細胞同士の結合が弱体化し、毛細血管の透過性が亢進することにより浮腫が生じます。

その他、エンドセリン受容体拮抗薬や免疫抑制薬等による血管透過性浮腫も知られています。

リンパ性浮腫


主にリンパ管のドレナージ障害によって引き起こされ、主な原因薬剤はタモキシフェン、タキサン系抗悪性腫瘍薬、mTOR阻害薬などの抗悪性腫瘍薬となっています。

浮腫のメカニズムが不明な薬剤が多いですが、
mTOR阻害薬については、血管内皮増殖因子(VEGF)の産生抑制が原因でリンパ性浮腫を引き起こすと報告されています。
がんによるリンパ管損傷があった場合には、VEGF-Aや-Cなどの刺激によって、リンパ管内皮細胞の増殖と遊走が促進されてリンパ管の再建が亢進されます。
しかし、そこにmTOR阻害薬の投与があると、この再建過程の阻害が起こり、リンパ管のドレナージ障害が引き延ばされます。

血管拡張性浮腫


前毛細血管細動脈拡張によって毛細血管静水圧を上昇させ、間質への体液移動の増加によって引き起こされます。

主な薬剤は、Ca拮抗薬等の降圧薬、ドパミン受容体作動薬(抗パーキンソン病薬・抗うつ病薬等)、プレガバリン やガバペンチン等の神経障害性疼痛治療薬が挙げられます。
神経障害性疼痛治療薬における浮腫の発生機序はCa拮抗薬と同じく、血管系でL型Caチャネルに拮抗して血管拡張を引き起こすと推測されています。

この血管拡張作用は末梢静脈よりも末梢動脈のほうが強くなるために、静脈と動脈の間に不均衡が生じて毛細血管静水圧の上昇に寄与することによって浮腫が起こる原因となります。

腎性浮腫


腎排泄の阻害を起こす薬剤において、体液貯留による浮腫を起こします。
主にホルモンに作用する薬剤において多く、エストロゲン、ゴナドトロピン、テストステロン等の性ホルモン、副腎皮質ステロイド、グリチルリチン製剤(アルドステロン作用)等はNa貯留作用があり、体液貯留に寄与します。
Naを多く含むNa含有抗菌薬も体液貯留への注意が必要です。

また、炭酸リチウムやNSAIDsなどの慢性的な腎障害を起こすことによって腎排泄の阻害を起こす薬剤もありますね。

肺高血圧症治療薬であるエンドセリン受容体拮抗薬(ERA、ボセンタン・アンブリセンタン等)は、血管収縮物質のエンドセリンET-1が結合するET-A,ET-B受容体を遮断する薬剤です。
それぞれの受容体は遮断されると水やNaの排泄が阻害されます。
特に、ET-A選択的拮抗薬(アンブリセンタン)は、ET-A,ET-B非選択的拮抗薬(ボセンタン)よりも体液貯留のリスクが高まると報告されています。
アンブリセンタンによる浮腫の機序はいくつか挙げられており、水分排泄の減少・抗利尿ホルモンであるバソプレシンやアルドステロンの活性化に起因する体液貯留・血管透過性の亢進など多岐に渡ります。




今回のnoteでは、末梢性の薬剤性浮腫について解説させていただきました。


次回は末梢性以外の薬剤性浮腫について話させていただきます。





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