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原因別で見た薬剤性浮腫③

薬剤性の浮腫について、
長らく解説してきましたが、今回で最後となります。

(末梢性浮腫)
・血管透過性浮腫 →血管壁細胞の増殖抑制・血管内皮細胞同士の結合弱体化
・リンパ性浮腫  →損傷したリンパ管内皮細胞の増殖と遊走を抑制
・血管拡張性浮腫 →細動脈拡張による毛細血管静水圧の上昇
・腎性浮腫    →水分排泄の減少

(末梢性以外の浮腫)
・血管性浮腫   →急性かつ局所的な血管透過性浮腫
・RS3PE症候群    →血管透過性亢進に関与するタンパク質の増加


今回は末梢性以外の薬剤性浮腫ということで、
血管性浮腫とRS3PE症候群について解説していきます。


血管性浮腫


血管性浮腫は血管透過性の一時的な増加に起因して、急性の局所性浮腫を起こします。
末梢に起こりやすい血管透過性浮腫とは異なり、皮膚と消化管に好発します。

これらは主にNSAIDs、ACE阻害薬、ARB、造影剤などの薬剤が関与して、ヒスタミンやブラジキニン 、ロイコトリエンなどの様々なメディエーターによって誘発されるとされます。

NSAIDsではCOX-1阻害によりプロスタグランジン産生が抑制されて、血管拡張や透過性亢進を引き起こすロイコトリエンの産生が増加します。
アンジオテンシン変換酵素は血管拡張作用を持つブラジキニン の代謝に関与するため、ACE阻害薬がブラジキニンの分解を抑制することで血管透過性が亢進します。
一方、ARBはアンジオテンシン変換酵素には影響を与えないですが、組織レベルでのなんらかの影響を受けている可能性があると言われています。

RS3PE症候群


この疾患は、両手足の圧痕性浮腫に加えて多関節炎の症状が典型的であり、自己抗体は原則陰性となる膠原病と言われています。比較的少量のステロイドが著効し、主にDPP-4阻害薬が上市し始めてから発症の報告が散見されるようになりました。
DPP-4はインレクチンの分解だけでなく、サイトカイン等の免疫系ペプチドの代謝に関する酵素でもあるため、DPP-4を阻害することによって免疫系に影響を与えてるのではないかという報告があります。
また、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブにおいてもRS3PE症候群の報告がされていることもその裏付けとなります。

RS3PE患者において、血管新生や血管透過性更新に関するVEGF濃度が増加しておりこの機序による血管透過性の亢進が手足の浮腫の発現に関与しているのではないかと考えられています。


まとめ



今までのnote①−③の内容をまとめると、

体の中で浮腫が起こる原因は主に4つに分類でき、薬剤性の浮腫として分かれている疾患は以下のように当てはめられます。

①毛細血管内外の静水圧の勾配 
 →血管拡張性浮腫・腎性浮腫

②間質と血漿の膠質浸透圧の差

③毛細血管壁の水分透過性   
 →血管透過性浮腫/血管性浮腫・RS3PE症候群(・腎性浮腫)

④リンパ管を介したドレナージ 
 →リンパ性浮腫

体内での変化の原因別でみるか、薬剤性浮腫の分類別でみるかによって考え方や治療法が変わってきそうですね。

更に、薬剤性の浮腫は大きく末梢性と末梢性以外の浮腫に分けられ、
末梢性以外の浮腫では末梢以外の部分に局所性・急性的に起こることがわかります。

特に毛細血管壁の透過性を亢進するような薬剤性浮腫(血管透過性浮腫/血管性浮腫・RS3PE症候群)は、アナフィラキシーショックによる咽頭浮腫に代表されるような急性期の症状が多いことが言えますね。



浮腫はシンプルな病態でありながらも、
割と多くの機序によって原因が分かれていたり、浮腫を起こす薬剤ごとの原因が複雑に絡み合ってその概要を掴みにくいことがあるため、一度根本に立ち直って考えてみるのも大事かもしれません。



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