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モンゴル料理の中で一番好きなものは何?

 モンゴル料理の中で一番好きなものは何か?と聞かれると、私はいつも「ゲデスニー・ホーショール」と答えている。この料理は「腸の血詰め」を細かく刻んで餡(あん)にした揚げギョウザ。モンゴル語で、「ゲデス」は内臓のこと、「ホーショール」は揚げ餃子のこと。実は、一度しか食べたことがないけど、あまりにも美味しかったので、一番好きな料理の地位を獲得している。しかし、「ゲデスニー・ホーショール」と言うと大抵のモンゴル人の顔は歪む。「えっ、あんなもの。」といった様子である。

 腸の血詰めのことを「ツォトゥガサン・ゲデス」と言う。部位により「ザイダス(小腸)」「ホシノコ(直腸)」とも。ブラッド・ソーセージと言えば、もっとイメージが湧くかもしれない。ヒツジやヤギを屠殺して、腸の内容物(消化された草)をきれいに取り出し、軽く水洗いする。あくまでも軽く洗うだけなので、日本でハチノスを食べた時に感じるあのニオイは残っている…。血液に少しの小麦粉を溶いたものと一緒に、脂肪のかたまりを詰めていく。ちなみに味付けは塩(岩塩)のみ。フムールやターナといったネギの類の香味のある植物の塩漬けを入れることもある。口を縛って他の臓器などとも一緒に鍋でグツグツと煮る。こうして出来るのが、腸の血詰めなのである。屠殺した後、新鮮なうちに料理して食べる。

 日本でもホルモン料理を好む人は多くいる。肉食のモンゴルの人は、さぞかし、この「ゲデス」が好きなのかなと思ったが、意外や意外、「ゲテモノ」(一般的に口にするのをためらうような料理)とまでは言わないにしても、あまり好まれていないみたいである。「ゲデス」の中でも「ホシノコ(直腸)」は太いので、中に「ウルツ(横隔膜、日本の焼肉で言うとサガリ、ハラミ)や腸の脂の多い部分が沢山入っているから、「ザイダス(小腸)」よりは少しは食べてもらえる。

 往々にして「ゲデス」は鍋の中に残ってしまう。何日も鍋の中に残っていると、捨てるわけにもいかず、リメイクされて形を変えて食卓に上る。それが「ゲデスニー・ホーショール」の正体であった。カレーは日が経つにつれて美味しくなる。そして、その残り物のカレーをリメイクしたカレーうどんは、さらに美味しくなるという法則からしても、絶対に美味しいのであるが、とにかく私の大好物に対して、みんなが顔をしかめる。失礼な!

 逆に、最も苦手な料理は「チヒルテイ・スーテイ・ボッダータイ・ツァイ」である。「チヒル(砂糖)」、「スー(乳)」、「ボッダー(米)」「ツァイ(茶)」のモンゴル語から分かるように、砂糖入りミルク粥である。食べたことはないけど、料理としては、イギリスやフランスのライスプディングなのかもしれません。でも、とにかく甘すぎる。モンゴル人は甘いものがとても大好き。私が喜ぶだろうと思って、砂糖たっぷりにしてくれたのかもしれません。せっかく出されたのだから、残すのは失礼だと思いはしたものの、3口目でダウン。「食べられません。すみません。」と謝りました。モンゴルでいろんな料理を食べたけど、残してしまった唯一の料理です。

 もう一つ、もう絶対に食べたくない料理が「ザルホー・ボーズ」。「ボーズ(蒸し餃子)」の一種なのですが、「ザルホー(怠ける、楽する)」という言葉がついているのがポイントです。でも、この話は、別の機会にしましょう。

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