数学用語のできるまで 第1回 数学の言葉はどこから来たのか

以前、日本語で使われている数学の用語はどんなふうに造られたのか、ということに興味があって、少し追跡してみたことがある。

その際、辿り着いた資料の一つに『東京數學會社雑誌』という雑誌があった。これは、明治10年の設立で、日本で最初の学会とも言われる東京數學會社(東京数学会社)が発行していた学会誌だ。

この数学学会では、ヨーロッパから輸入された新しい数学を扱っているのだけれど、当時はまだ、いまのように訳語が定まっていない。そのため、同じ語でも、人によって思い思いに訳して使っていたらしい。

でも、想像されるように、それでは困る。

例えば、prime numberという語を、「不解数」とする者もあれば、「素数」とする者もあれば、また別の訳語を使う者もある、といった具合では、お互いにいちいち「あいつの言っているこれこれは、自分の言うところのこれこれに該当する」と頭のなかで変換しなければならない。

ええい、面倒だ。というので、一つ訳語を統一しようじゃないか、という動きが数学学会で起きたらしい。

それで、數學譯語會(数学訳語会)なるチームをつくって、訳語の検討と統一に乗り出した。上で触れた学会誌には、その活動報告が載っていて、これを読んでみると、どうやって訳語を決めていたかという様子も窺えて面白い。

その面白さをみなさんにもお伝えしたい。それに、この話を整理すれば、いま書こうとしている『科学の文体(仮称)』の材料にもなってちょうどよい。

というわけで、この場で少しずつご紹介していこうと思う。

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