説明をよく読んで

くるみ汁粉を食べたくなって白玉だんごをこしらえる。

エプロンをつけてよく手を洗う。こんなときのために買っておいた白玉粉の袋とボールを用意する。

200gの白玉粉に水180ml。

袋の口をハサミで切ってボールに粉をあける。計量カップに水をとり、少しずつボールに注ぐ。水の染み込んだ粉を手で揉んでゆく。

粉がつながって少しずつ塊になってくる。さらさらしていたものが、ころころ玉になり、玉はやがてくっついて塊になる。

♪らーらららららっらっらー、かたまりだましー

一時期阿呆のように遊んだゲーム『塊魂』のテーマ曲を歌う。塊を転がして、いろいろなものを巻き込み、大きくしてゆくゲームだ。なにを言っているか分からないかもしれない。

塊を掌でボールに押し付けるようにこねる。ぬもももも。掌とガラスのあいだに挟まれて、塊が水平方向にのびてゆくその感触がきもちいい。のされた塊を折り返してまた押しつける。ぬもももも。

そうこうするうちに、はじめ硬かった塊がやわらかくなってくる。説明には耳朶くらいの柔らかさとある。耳朶ってどんなだっけ。熱いものを触った直後のように耳朶を指でつまむ。

あ、といって手を洗い(耳はおいといて)、塊の硬さを確かめる。耳朶の触感は薄れているので分からない。うーむ、耳朶、耳朶……とひたすらに耳朶のことを思いながらこねる。らーらららららっらっらー、かたまりだましー(1オクターヴ高く)。

このくらいでいいか。というので、お湯を沸かす。白玉粉の塊をちょっとずつちぎって、両掌で転がす。できあがった球体を、金属製のバットに並べてゆくと、ちょっときれいだ。これでなにかできるんではないか、などという空想が動きそうになるものの、なにができるのかは思いつかない。

お湯が沸く。白玉を入れよう。あれ、とれない……。しばし格闘の末、なんとかとりあげると、球体の底が平らに潰れて、なんと呼んでよいのか分からないものになり果てている。

ええい、とお湯に投じる。浮かんできたらすくいたまえ。というので、ぷかぷかしてきたのをボールに用意した冷水にとる。とる。とる。とる……

よく考えずにつくったら、山のように白玉ができてしまった。袋を見直すと、200gで40個できると書いてある。

なるほど。とつぶやいて、ひとつ口に放り込んだ。

まごうことなき白玉だった。

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