あまり自発的に話さないわけ

子供のころから、よく口内炎ができた。

といっても、子供のころはただただ口の中が痛いというだけで、それがなんなのかも分かっておらず閉口するばかり。

あるとき、親類の結婚式に呼ばれたかなにかでご馳走の出る席があった。当時小学校に上がる前かそこいらの私は、その日やはり口内炎ができていて、母親に口の中が痛いのでものが食べられないと伝えたところ、バナナやらプリンやら柔らかいものばかり与えられたということがあった。食い意地が張っているほうではないと思っているのだけれど、目の前を通り過ぎてゆくご馳走がよほど気になったのに違いない。

大人になってからもことあるごとに口内炎ができる。

はじめのうちは、どうしてなるのか分からなかった。やがて日記などをつけるようになってみて分かってきたのは、どうも口内炎ができる場合にはいくつかの条件があるらしいということだった。

あくまでも私の場合と限定して記せば、次のとおり。

・寝不足
・栄養不足
・発熱時

要するに寝ない、食べない、倒れる、ということがあると、体が不服を申し立てるようにして口内炎ができるようなのだった。やや曖昧になるが、なんらかのストレスが加わった場合にもできる。

そんなこんなで、人生の何割かの時間を口内炎とつきあっている。痛いのには慣れているのだけれど、ものを食べたり話したりせねばならないのが困る。ポジティヴに考えれば、たとえ口内炎ができても、食べず話さずにいればあまり問題はない。私は黙っているのが嫌いではない。むしろ、話さないでいられるなら好ましいとさえ思っている。

ただ、そんなことを言いながら、ある時期から先生のような仕事を始めてしまったばかりに、常に人前で話す用事ができた。それで、口を動かさなければそこまででもない痛みを感じながら話すことになる。

すると自然と患部をかばうせいか、発話するための筋肉の動きが少しぎこちなくなって、気をつけないと音声が崩れてしまう。というので、口内炎のときは日頃以上に慎重に発話することになるのだった。

などと書いているのは、ひょっとしたら、長いつきあいの口内炎こそは、私が自発的に人に話しかけることの少ない原因のひとつなのではないかと思い、それをとりあえず言葉で仮留めしておこうと思ってのことだった。

近年になって、以前と比べてよく寝るようになった結果、1年を通じて口内炎に煩わされる時間は大幅に減った。口内炎ができたときも、薬を飲んでよく寝てしまうことに決めている。

これを書いている現在、数日前に高熱で一晩寝込んだ際にできた口内炎の痛みを久しぶりに噛みしめているところ。高熱のほうは、幸い流行病ではなかった。

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