004. 難有い難有い

もう何冊目か分からないが、夏目漱石の『吾輩は猫である』を買ってきた。

以前、全登場人物のセリフを色分けした岩波文庫版の話をしたかもしれない。あれが見つかれば話が早いのだが、どこへ行ったか分からない。嘆いていても始まらないので、どこにあるか分かっている書店の棚から手に入れてきたわけである。

今回は新潮文庫版である。といっても、これも以前入手したことがある。各種の版をつぶさに比較したわけではないのだが、新潮文庫版の末尾はちょっと印象的なのだ。最後は猫の言葉で終わる。こんなふうに。

難有い難有い。

そう、「有難い有難い」ではない。「難有い難有い」なのだ。

はじめて目にしたときは、はて、誤植かなと思った。調べてみると、漱石に限らず明治の物書きのなかに「難有い」と書く人が見つかる。どうも江戸期にも式亭三馬の「難有孝行娘 (ありがたきこうこうむすめ) 」(文化5年=1808年)なんて本があったようで、漢文式に書いたものを読み下しているのだろう。

これからつくるつもりの『猫』のゲームでは、こういうちょっとした言い回しも、現代風に言い換えず、当時の表現を活かしたいと思っている。

そういう意味では、表記を整理したり統一したりしていない版を見るのがよろしいかもしれない。

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