金沢便り

金沢での用事を終えてから、谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館に寄った。

開催中の開館記念特別展「清らかな意匠――金沢が生んだ建築家・谷口吉郎の世界」を見る。1930年代の東京工業大学水力実験室から始まって、1974年の日本学士院会館まで、代表作を写真と建築模型、それと年譜や関連資料で構成したものだった。

このところ机に向かってばかりいたこともあり、風通しのよさそうな谷口の建築を眺めて、しばらく金沢の街をぶらぶら歩きたい気分を誘われる。

館内にある販売コーナーで、谷口吉郎の『雪あかり日記/せせらぎ日記』(中公文庫、2015)を求める。記憶が正しければ、私はこの文庫版が刊行された2015年にこの本を入手して読んでいる。

だが、家を出るとき鞄に本を入れてくるのを忘れてきたし、かといってiPadでものを読む気にもなれず、帰りの電車でなにか手頃な文庫本でも読みたいものだ、と思ったのだった。本の小口にやすりがかけられているのはいささか残念だが贅沢は言えない。

この日記は、1938年から1939年に谷口が仕事で滞在したドイツでの見聞を記したものだ。なんでも雑誌『文藝』(河出書房出版)の編集者のすすめで寄稿したのだという。年代からお察しのように、当時のドイツはナチス政権下であり、ユダヤ人弾圧の様子やベルリンの街をゆくナチスの親衛隊の姿などが書き留められている。

彼は恩師の伊東忠太の示唆で、ベルリンの日本大使館改築のためにドイツへ渡ったのであり、関心はもっぱらのところ建築や庭に向けられている。そこには歴史書で俯瞰するように読むのとはまた異なる時間が流れているようだ。

東京へ向かう新幹線で100ページほど読んで眠る。

これからしばらく、ときおり金沢を訪れることになる。往復するたび、谷口吉郎のことを思い出しそうだ。

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