キータッチは情熱的に

飛行機の座席で、隣に座ったのは、ちょうど筒井康隆さんが50歳のころはこんな様子だっただろうかという人で、髪をポマードでなでつけ、ピンストライプのスーツを着ている。

膝にノートパソコン(年季の入った東芝レッツノートで、OSはいま話題のWindows7のように見える)を広げて、バチャバチャと音を立てがなら猛烈な勢いでなにかを入力している。ときどきエンターキーを押す際には、決めポーズのように右手がちょっと上に跳ねる。小指が立っているような気がするけれど、露骨に見るのも失礼かと思って確認していない。

手を休めたかと思えば、がさがさと袋からなにかアンパンのようなものを取り出してほおばっている。ペットボトルからお茶を飲む。豪快に洟をかむ。一心不乱にバチャバチャする。スーツの内ポケットから名刺入れを取り出して、なにかを確認してまたしまう。がさがさして洟をかみ、バチャバチャする。マンガならオノマトペ が飛び交うところ。そこには彼固有のリズムがある。

その横で私は本を読んでいる。ときどきキーを打つ筒井さんの肘がつんつんと当たる。読んでいるのは哲学史の論集で、没頭できるパートでは、つんつんも気にならないのだけれど、集中できない著者のときには注意を持っていかれる。いわば、つんつんによって、私の集中度合い、面白く感じている度合いが分かるというカラクリである。

と、いいもののように書いてみたものの、あまりうれしくはない。

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