仕事のための儀式
英語でritualといえば、宗教などの儀式のこと。
他方でdaily ritualといえば、宗教に限らず、人が日常のなかで行う……と書いてきて、適当な言葉が思い浮かばないのだが、やはり儀式のようなものを指す。
例えば、これからものを書こうというとき、鉛筆を4本削るとか、部屋の掃除をするとか。
私にもそういうリチュエルがある。
一つは顔を洗って着替えること。そんなの当たり前じゃんと思われるかもしれない。会社勤めをしているときは私もそうだった。だが、フリーランスになると、日によっては家から出ずに仕事をする。このとき、もしそうしたければベッドから起きてきたままの格好で仕事をしたってよい。言い換えれば、着替えなくてもよい。
私もしばらくそんなふうにしていた。だがどうも、ただでさえだらけがちなのに、いつでもそのままベッドに戻ってゆける格好をしていると、さらにだらけるような気がする。というので、ある時から、出かける用事があってもなくても、起きたら顔を洗ってそのまま出かけられるような服装に着替えることにした。
このやり方は私にはよかった。おかげで仕事が捗ったかどうかは別にして、すぐにでもベッドに戻れるという誘惑に負けず、心なしかシャキッとする。
もう一つは、コーヒーをいれること。
特段凝っているというわけではないので、実にいい加減なものだが、ちょっと面倒な作業を、時間をかけてやるのが私にはよいようだ。
薬罐に水を入れて火にかける。手回しのミルに袋から豆を転がし入れる。カラカラという乾いた音。豆の入った袋を閉じる。ミルとハンドルを握って豆を粉砕する。ガリガリガリガリという音とともにコーヒーの香りが立つ。しゅーしゅー言い始める薬罐。
マグカップに濾し器を置く。挽き終わった豆を入れる。今度はカラカラではなくサラサラ。表面を少し平らにならして真ん中をちょっとだけ凹ませる。薬罐を手にしてゆっくり注ぐ。今度はいよいよコーヒーの香り。
ドリップが終わるまで少し待つあいだ、ミルを片付ける。できあがったら、マグカップを持って仕事机に向かう。
さて、今日もがんばりますか。
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