文雲てん

詩作や物語を通して日々の漂い方や火の灯し方を考えています。時々写真を撮ります。歩くこと…

文雲てん

詩作や物語を通して日々の漂い方や火の灯し方を考えています。時々写真を撮ります。歩くことが好きです。

マガジン

  • 定点観測

    眠れなかった夜の雑記。ひとりの部屋を定点として観測中。

  • monologue of the past

    2021年に撮影された写真と短編小説の作品群です。

  • 旅路

    儘ならぬ生活と旅

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    Lamplight poem

    「灯す」という言葉をひとつ心に置いて、日々を歩く。具体的な火の灯し方をずっと考えてきたけれど、詩を書くということが自分にとっては灯す行為そのものだった。本という場所へ火を灯すという試み、灯すひとという在り方へのひとつの応答として。35篇の詩といくつかの写真によって構成された詩集。105×175mm/94p
    ¥1,800
    夜雲の文
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    夜行列車 やさしい灯台行き

    青.と文雲てんによる円日というふたりのまるい試み。そのはじまりにあった2022年9月から12月までの往復書簡を収録しています。「きっとわたしたちは、同じ舟に乗っているのではなく、灯台の光を目印にして手を振り合ってきた」  (おわりにかえてより)ふたりで交換しあってきたやさしくて、まあるい気持ちが巡りますようにと願います。105×148mm/78p
    ¥1,200
    夜雲の文

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固定された記事

『Lamplight poem』|刊行のお便り

新刊『Lamplight poem』について    先日行われた文学フリマ京都に合わせ、新刊『Lamplight poem』を刊行しました。 『Lamplight poem』 「灯す」という言葉をひとつ…

文雲てん
6か月前
8

7.30

このあいだ文雲宛のメールボックスの通知がきて、なんだろうと思ったら、そこには『animus』の感想とWebマガジンで紹介したいとの旨が書かれていました。メールで過去に書…

文雲てん
2日前
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7.4 近況報告

 2月にTwitterのアカウントを消してから、それなりに時間が経ちました。というか、実を言うといつ消したかということを忘れるほどに、SNSに投稿することがなくなっていま…

文雲てん
4週間前
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「ブックマーク」

ブックマーク おなじはやさで流れていく川の毛並みは淡く夏めいて隔たれた二つの道を行く人の爪は青白い夜をスキップして再生、そして遠ざかる薄鈍色の歪な形をした一文字…

文雲てん
4週間前
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 日記を書くようになってしばらく経つ。昨年はすっかり忘れて1週間分をまとめて書くようなことが何度もあったけれど、今年に入ってからすでに去年の同じ時期と比べて倍書…

文雲てん
6か月前
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本の後ろ|文学フリマ京都

 その日、本の後ろで立ったり座ったり、喋ったり、寒くて震えたりしていた。ほとんどの時間を本の後ろで過ごし、たまにそこから離れた。目の前に自分の言葉の集積が本とし…

文雲てん
6か月前
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11.29

 気づけば11月が終わろうとしている。ほんとうに気づけば、という感じで最近はあまり見える場所に文章を書いていなかったなと思った。こんなにも自分のことなのに、なぜだ…

文雲てん
8か月前
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 二日前にボーリングをしたときの筋肉痛がビリビリとしている。「普段使わん筋肉やから」と言ったその言葉が、じんわりとした腕の気だるさとともに残っていた。筋肉じゃな…

文雲てん
9か月前
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9.9

 生活は脆い、どうしようもなく不器用であると自覚している。乱れ切った生活のなかでは、時間という意識さえも淡く遠いものになるような感覚がある。ここ1週間で二、三度…

文雲てん
10か月前
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8.23

 この生は逃避によって続いてきた。いまも、逃げているといえばそうだろう。何から、と問われればそれはきっと多岐にわたる。出来事から、人から、言葉から、規範から。わ…

文雲てん
11か月前
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 眠れない日が増えた。過去、眠れない日々にはいつも傲慢ながらにも理由があった。ベランダから見渡せば、何時だろうと絶えぬ光が見えたことは、どこかできっと安心だった…

文雲てん
1年前
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「半月の物語」

その日はうまく眠りにつくことができなくて、カーテンの隙間から見えた街は薄い膜を帯びて、肌に触れるひんやりと冷たい生まれたての空気に促されるように、ふらふらと歩き…

文雲てん
1年前
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「途上の春」

 「変化って言葉に左右されない物語があるとしたら、なんだか永遠に終わらないでいられる気がしない?」  ある夜、公園でお花見という名目でお酒を煽っていると、シノイ…

文雲てん
1年前
3

「湖畔」

「もしいま生きている時間が記憶の中だったとしても、あんまり違和感がないかもしれない」  湖畔の岩場でいつもみたいに駄弁っていると、ハマは組んでいた胡座を崩して、…

文雲てん
1年前
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「灯台守」

 「だいじょうぶずっとそうやってやってきたんだから」  電話口の声が妙に遠くに聞こえて、細切れになるはずの音節がくっついたままでいる。わからないのは、意味という…

文雲てん
1年前
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「標本」

 はじめに断っておきたいが、これは日記ではない。ここで起きたことというのは確かにあったはずだけれど、言葉にされなかったことの方がもしかしたら多いのかもしれない。…

文雲てん
1年前
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『Lamplight poem』|刊行のお便り

『Lamplight poem』|刊行のお便り

新刊『Lamplight poem』について

 
 先日行われた文学フリマ京都に合わせ、新刊『Lamplight poem』を刊行しました。

『Lamplight poem』

「灯す」という言葉をひとつ心に置いて、日々を歩く。具体的な火の灯し方をずっと考えてきたけれど、詩を書くということが自分にとっては灯す行為そのものだった。本という場所へ火を灯すという試み、灯すひとという在り方へのひとつの

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7.30

7.30

このあいだ文雲宛のメールボックスの通知がきて、なんだろうと思ったら、そこには『animus』の感想とWebマガジンで紹介したいとの旨が書かれていました。メールで過去に書いた言葉への感想が今、届いたということに少なからず驚きと感動を覚えました。

そんなことがあり、自分でも久しぶりに『animus』をぱらぱらとめくり、いまはもう塞がった傷が生傷だった頃のこと、紛れもなくその時にしか書けなかった話があ

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7.4 近況報告

7.4 近況報告

 2月にTwitterのアカウントを消してから、それなりに時間が経ちました。というか、実を言うといつ消したかということを忘れるほどに、SNSに投稿することがなくなっていました。それからは月に2回、封筒に詩を入れて送ったり、日記をつけたり、ショートショートを書いたり、その種みたいな話の断片をノートに書いたり、そういうことばかりしています。

 現代詩手帖2024年6月号の新人投稿欄で「ブックマーク」

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「ブックマーク」

「ブックマーク」

ブックマーク

おなじはやさで流れていく川の毛並みは淡く夏めいて隔たれた二つの道を行く人の爪は青白い夜をスキップして再生、そして遠ざかる薄鈍色の歪な形をした一文字めは川底にある便箋を送り出すたびに失う文字を思いながら

多くは運ぶために送料がかかる
あなたは
自転車にのっていた
軽やかである
必要があったから
僕には
その必要がなかった
どこかで撮影された映像
タイムラプスのスピード
と、ほんとう

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2.3

2.3

 日記を書くようになってしばらく経つ。昨年はすっかり忘れて1週間分をまとめて書くようなことが何度もあったけれど、今年に入ってからすでに去年の同じ時期と比べて倍書いている。比較ができるのはWordで日記をつけているから。手を動かして書くのは好きだけれど、日記に関してはそれで続かなかった。誰に見せる予定もないごく個人的な言葉たちをふと見返すと、過去の記憶が言葉によって支えられていることに心強く感じる。

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本の後ろ|文学フリマ京都

本の後ろ|文学フリマ京都

 その日、本の後ろで立ったり座ったり、喋ったり、寒くて震えたりしていた。ほとんどの時間を本の後ろで過ごし、たまにそこから離れた。目の前に自分の言葉の集積が本として横たわっていて、そこに立つ人々が静かに頁を繰るのを少し視線を逸らして見ていた。本そのものを手にとってもらった時に、適切に言葉を添えることはすごく難しい。それでも本の後ろにいて、その光景が目の前にはあるということが不思議なうれしさという実感

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11.29

11.29

 気づけば11月が終わろうとしている。ほんとうに気づけば、という感じで最近はあまり見える場所に文章を書いていなかったなと思った。こんなにも自分のことなのに、なぜだかすごく近い他者の気分で。インターネットと距離をとろうという意識的な作戦とかではなく、単純に自分の中に言葉を還元している時期なのかもしれないし、見える場所に置く言葉へのハードルが少し高くなったのかもしれない。とはいえ、いまは本を作っている

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10.24

10.24

 二日前にボーリングをしたときの筋肉痛がビリビリとしている。「普段使わん筋肉やから」と言ったその言葉が、じんわりとした腕の気だるさとともに残っていた。筋肉じゃなくたって、そういうものがきっといくつもあるんだと思う。あえて使わないようにしたもの、もう使いたくないもの、使わずにいるうち忘れてしまったもの。

 話せることが何もない、と思った。いまでも息を吹き返すように通知されるグループLINEが苦手だ

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9.9

9.9

 生活は脆い、どうしようもなく不器用であると自覚している。乱れ切った生活のなかでは、時間という意識さえも淡く遠いものになるような感覚がある。ここ1週間で二、三度、真夜中にコンビニまで歩いた。なんとなく手持ち無沙汰な気持ちになって。稼働し続ける信号機や、そこを行き交う車や、煙草を吸う人に、その瞬間にすれ違い続ける生活の営みに紛れる。触れたという確かな感覚が欲しくて、だからこその夜行。言葉未然のものへ

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8.23

8.23

 この生は逃避によって続いてきた。いまも、逃げているといえばそうだろう。何から、と問われればそれはきっと多岐にわたる。出来事から、人から、言葉から、規範から。わたしはずっと、ごく自然に、よくわからない人でいたかった。

 近づけないのではなく、とおいひと。概念ではなく、実体めいていないひと。やわらかな部分を晒しながら(例えばことばのかたちをした思考)、かたい部分はずっと夜のなかに置いてあるひと。わ

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8.6

8.6

 眠れない日が増えた。過去、眠れない日々にはいつも傲慢ながらにも理由があった。ベランダから見渡せば、何時だろうと絶えぬ光が見えたことは、どこかできっと安心だった。手紙に結ぶ最後の言葉は、静かな夜が増えてった。心配で眠れない夜に音がないことは、真っ暗闇の中にたったひとつ光を放つ火災報知器のランプの一点に吸い込まれてしまいそうな怖さがあった。だから、瞼を閉じる前に鳥の声が聴こえてくることは安心。

 

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「半月の物語」

「半月の物語」

その日はうまく眠りにつくことができなくて、カーテンの隙間から見えた街は薄い膜を帯びて、肌に触れるひんやりと冷たい生まれたての空気に促されるように、ふらふらと歩きだした。ぴんと張った空気が撓まぬよう、そおっと、いっぽ、いっぽと繋いでゆく。点滅する信号を通り抜ける。まだぼんやりとした水縹色の空に、白い上弦の月がふわりと浮かんでいた。明日でちょうど半月になると思った。新月のときにまっさらに戻ったWord

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「途上の春」

「途上の春」

 「変化って言葉に左右されない物語があるとしたら、なんだか永遠に終わらないでいられる気がしない?」

 ある夜、公園でお花見という名目でお酒を煽っていると、シノイ先輩は足元に花びらを集めながら呟いた。

 「そういわれると、物語ってそもそも終わりに向かっていくようにできてる気がしますね」

 「変化してく話題を追いかけていくんじゃなくてさ、ここにあるものを語ろうとできたらいいのにね、時間の軸がある

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「湖畔」

「湖畔」

「もしいま生きている時間が記憶の中だったとしても、あんまり違和感がないかもしれない」

 湖畔の岩場でいつもみたいに駄弁っていると、ハマは組んでいた胡座を崩して、膝を伸ばしながらそう言った。

 「なんでそう思うの」

 なんでそんなこと言うのかと問うことはふたりの間ではナンセンスだった。ハマがしてくれる仮定の話は、ちょうど現実と夢の間にある何層もの薄い膜の一枚に触れるような話で、ほんとうはこの二

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「灯台守」

「灯台守」

 「だいじょうぶずっとそうやってやってきたんだから」

 電話口の声が妙に遠くに聞こえて、細切れになるはずの音節がくっついたままでいる。わからないのは、意味という殻を脱ぐということが起こるから、そうちょうど玄関で靴を脱ぐみたいな文化。疲れてしまって腰を下ろすけれどカーペットは冷たくないからキッチンで目を閉じるんです、夜は最近あまり眠れない。

 大丈夫だよって言って欲しくて、自分ではない誰かにそれ

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「標本」

「標本」

 はじめに断っておきたいが、これは日記ではない。ここで起きたことというのは確かにあったはずだけれど、言葉にされなかったことの方がもしかしたら多いのかもしれない。落葉樹の枝のように、巡りゆくものの行く末を見守ることしかできない。木の枝として、あるときはやさしく踊るような花のことを、あるときは穏やかに揺れる新緑のことを、そしてあるときは散りゆこうとする枯葉のことを。

 「写真というものは標本みたいな

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