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ガバらない「オレオレ利用規約」の作り方

pixivやBOOTHなどで作品を公開されておられますコンテンツホルダーの皆様へ。

作品の権利関係の決まり事、どう書いてますか?

もちろん利用規約は契約自由の原則である程度自由に作っていいんですが、民法で簡単な決まり事が定義されています。

たとえば不当な条項を書いた場合ですね。

民法548条の2 第2項 
前項の規定にかかわらず、同項の上項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

単にその部分だけが無効になるならよいのですが、相手にとって不当に不利益なことばかり書いた規約にすると、規約全体の正当性が揺らぎます。

足元をみられないオレオレ規約は、権利を主張する場合にどういう表現をするか、グレーゾーンをどうやって塞ぐかがポイントになります。

許諾内容の要点は序盤に書いてしまうこと

オーソドックスな書き方としては上から順番に、

1.使用許諾事項
2.使用許諾の変更・停止・終了について
3.免責事項
4.根拠法と管轄裁判所

という構成になるかと思いますが、あんまり長いとよく読んでくれないので、一番重要なところは一番先に書くのが大事です。

「禁止」を原則使わず「権利の留保」にとどめること

許可することを列挙したあとは、その反対の「禁止したいこと」も書きたいかと思います。ただ、一呼吸おいてください。「あまり強い言葉を遣うな。弱く見えるぞ」という漫画のセリフもありますが、実務でも同じことで、法的に禁止する権限のないことまで禁止と言い切ると、その規約全体の信用性に影響します。

フェアユースに該当する場合も含めて検証し、明らかに相手に禁止させることができる排他的権限がある場合を除いては「明示的に許諾する以外の全ての権利を留保する」で括るとよいでしょう。案外その方がすっきりまとまります。
「権利の留保」は、英米の "All rights reserved." の意思表示に対応する言葉で、著作権者が禁止する権限のないことまで禁止を主張しない、よりセーフティーな表現です。

著作権法の解釈に困ったら法律相談にでも行って、本当に禁止する権限があなたにあるのか確認してみてください。あるいは法的に禁止する権限のないことも含めて禁止したいとお考えなら、それは、あなたの考えを修正してください。

著作権法の制限(Fair-use)条項によって暗黙的に許諾されることは無理に許諾事項に入れる必要はない

著作権法の30〜39条あたりに該当する場合、権利者の許諾なしに使っていいケースがあります。詳しい人は勝手に調べるから半端なこと書くくらいなら最初から書かなくていいです。書くなら使用規約とは別文書の「ガイドライン」などに運用基準を書きましょう。

「準拠法」および「第一審の専属的合意管轄裁判所」を記載する意味

記載するもしないも自由ですが、どこの国の法律に基づいた契約であるかを明示しておかないと面倒なことになるというのは、海外の相手に売る場合が特にそうです。あくまで日本法で日本の裁判所で出るという意思表示が大事で、そもそも書いてないと海外の裁判所で戦うことになったりするリスクがあり、訴訟にかかる費用が文字通りエンタープライズ級となること請け合いです。

「国際取引における紛争で、契約書中に準拠法を指定せず、準拠法の決定方法をも定めていない場合に、準拠法が争われることになりますと、そのための審理判断が必要になり、裁判又は仲裁手続が遅延し、特に仲裁の場合には費用も嵩むことになります。そもそも、準拠法から争われるというのでは、最終判断の予測は著しく困難になります。契約書中に準拠法を指定しておくのが望ましいことは明らかです。」
—『法律文書作成の基本』田中 豊著
https://a.co/4ez4thO

専属的合意管轄裁判所を書いて締め括る意味は、要するに「規約違反したら裁判所で会おうな」とある種の(正当な行為ですが)威圧感を与え、誓いを立てさせるものです。

嘘ついた人に実際に針千本飲ませたら傷害罪に問われる可能性がありますが、被裁判権は正当な権利なので、違反時の訴訟を予告することは、規約が正当である限りにおいて脅迫などにもあたりません。

基本的には当事者の住所を管轄する地方裁判所の名前を記載しておくのが通例ですが、相手方が純然たる個人消費者に当たる場合、消費者の土地管轄の裁判所で行うのがルールだったりして、事案によってはこの合意管轄裁判所以外での裁判が求められることがあります。ただご安心ください。その相手にとって土地管轄外の裁判所が規約に書いてあるからといって規約のその他の部分まで無効になることはありません。

それにもし裁判が遠方になったとしても、全国の裁判所に出張するのが弁護士の仕事です。ある程度は弁護士がやってくれます。契約違反の賠償を求める裁判で、利用規約以上の合意内容を記述する証拠はありませんから、原告側が当事者尋問に至るケースはまれです。

定型約款は、各条項が適用されないケースも想定して網羅的に作るのは手間がかかりますから、特に管轄裁判所に関しては、とりあえず書いておくという運用で問題ありません。

逆に言うと、法人向けと個人向けでライセンスを分けて販売しているようなケースでは「消費者を対象とした契約なのに販売者有利の合意管轄を求めているから契約自体不当」などと主張され争点が無駄に増えるリスクは少なからず生じますから、留意が必要です。

迷ったら契約書の書き方本を読もう

改正民法対応をうたう新しめの本であれば、デジタル関連を網羅していることは多いかと思います。そのものズバリの例文がなくとも、ソフトウェアの使用許諾契約書などの書式などを参考にするとよいでしょう。

最後に

Have a good "Ore-Ore License"

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