3Dモデル等の使用につき「法人の利用」を制限する条項をつけるアホな著作物使用許諾規約がある件

BOOTHで公開している幾つかの商品で、無闇に法人の利用を制限するような規約のついた3Dモデル等のアイテムを見つけました。悪いこと言わない、それガバガバだからやめとけ。

こと3Dモデルに限定した話ではVRoid Hub独自基準の解釈違いが発端か

https://vroid.pixiv.help/hc/ja/articles/360013153714

VRoidHubの公開設定においては、あくまでpixiv独自の基準で、個人の商用利用、法人の利用という区分が規定されているようです。該当部分を見ますと

法人OK 
法人利用が許可されたモデルです。企業などの法人は、このモデルを広告や製品開発等の営利目的の活動に利用することができます

営利目的でない法人の利用までを禁止しようとしたものではなく、「法人の利用」という括り自体が、厳密に法的定義の「法人」に該当する団体等を同定して、全ての利用行為につき可否を問うものでは決してなく、同人活動などの個人の商用利用と対比した便宜的な括りを意図しているように思われます(この趣旨が読み取れるかどうかが分かれ目です)。

非常に紛らわしいのですが、VRoidHubのヘルプには「VRMライセンス」という記載もありますが、そのような成文法化された利用規約は存在しません。VRMというフォーマットネイティブのものではなく、法人の利用・個人の利用はあくまでVRoidHub独自の基準に過ぎず、まして厳密に法人と個人という括りで使用許諾の内容を定義・変更することを勧奨しうるものではないことは明らかです。

つまり、VRoidHubの利用基準をライセンスに取り入れる場合は
  ①営利目的でない法人 の 利用
  ②営利目的 でない 法人の利用
のどちらも、除外して考える必要があると思われます。

見境のない「法人の利用禁止」が著作権法違反となること

商用利用だけを禁止しているのであれば該当しないものの、法人にはもちろん「学校」も定義に含まれますから、見境なく全ての利用を禁止にしている場合、著作権法35条の教育目的での利用など著作権者の意向によらず法的に正当とみなされる使用も禁止と主張することになってしまい(もちろん違法)、規約自体の正当性を損ねることになります。

法律をよく知らないか十分なリーガルチェックを経ないまま出しているだと思いますが、利用規約自体の信用性にかかわるので慎重に検討した方が良いでしょう。

個人の対立概念は法人ではない

まあ、民法をよく読んでみればわかる話なのですが、個人と対をなすのは団体、法人の対は「自然人」です。

個人と法人が対になっていないのに対と誤認して規約を策定すると、当然にその規約は穴が生じます。具体的には

①個人=法人である場合(一人会社)
②個人でも法人でもない営利団体(有限責任事業組合など)

などのほか、乱暴な括りによって不合理に権利が制限されてしまう法人などがいないか、検討する必要があります。

一人社長

法人は一人単位で設立できるので、あるときは個人として振る舞い、また法人として振る舞うように、濫用してのらりくらりと相手方を煙に巻くような悪用事例は昭和期には既に問題になっていて「法人格否認の法理」として知られる最高裁の判例が昭和40年代にいくつかあがっていますが、それを禁止するような法律は実体法としていまだに定義されないまま現在に至っています。会社の社長を「個人」という括りにしていいのか、そのあたりから議論が必要でしょう。

有限責任事業組合

有限責任事業組合には法人格を持たない営利団体で、構成員として個人も法人も名を連ねることができます。最近では中京テレビとアイデアクラウド社を中心とする事業体である「XRエンターテイメント」などが有名な例でしょう。

さて、有限責任事業組合(以下「LLP」)は、当然「個人」でも「法人」でもないです。
たとえばこういった形態のLLPが、所属のVTuberさんに着せるためのVRoid衣装テクスチャを購入した場合に、個人・法人利用の可否はどう解釈すればよいでしょうか?個人はOKで法人はNGみたいな利用規約って、どう適用できるんでしょうか?

ちょっと困りますね?代わりに「営利団体」等であればLLPを会社等と同じ定義に含めることができ、非営利法人を除外することができます。言葉を慎重に選ぶ必要がありますね。

そもそも個人と比べて法人を差別しなければならない合理的理由は何か?

新興のライセンスを作って人に与えようとする人も、それを利用しようとする人も気をつけて欲しい問題なのですが、個人と比べて法人の使用権を制限しなければならない正当な理由について十分な検討もないまま、(会社以外の、非営利法人や公共団体等も含めた)「法人」の利用を不当に禁止するということになると、利用規約の正当性自体が疑われることになります。

個人で得られる収益に対して大きな会社のほうが収益の期待値が大きいと考えるのであれば、Unity無料版の使用許諾のように売上要件をつけてロイヤリティを徴収することを検討するのも有効であると思います。

あるいは法人全体で1ライセンスを使われることを懸念されるのであれば、使用する人数分のライセンスを購入してくださいと言えば済む話です。
その上で法人等ユーザー向けオプションとしてバリューライセンスなどを用意すればよいかと思います。

ただなんとなくVRoidHubに項目があったら考慮もせず個人・法人の項目を入れてみた、なんて理由であれば論外ですし、使おうかと思った人も本当に必要かどうかを調べてみたらいいと思います。

他の項目にしてもそうですが、その制約、本当に必要ですか?

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