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狭間の小劇場

ようこそいらっしゃいました。

この度は、このような名も無い狭間の小劇場に
足を運んで頂き誠にありがとうございます

さて、皆様は昨今どのようにお過ごしでしょうか

仕事、学校、趣味、休息、家事……

もしかすると、つい先日まで病に伏せていた方も
いらっしゃるのかもしれません

今宵は…普段何気なく消費、いや浪費してしまっている「生きる」という事について語らせて頂きます

少々聞き苦しい場面もあるかもしれませんが
ご清聴のほど、よろしくお願いいたします…。

まずそもそも「生きる」とはどういう事なのか

生命活動が維持されていれば
それは生きているといえるのか

何かしらの要因で心が充たされていれば
生きているという話はよく聞きます

では、充たされていない人間は、皆死んでいるのか

考えれば考えるほど、我々は終わりの見えない
自問自答に苛まれる事になります

それもそのはず…だって答えなんて無いんですから!

そうでしょう?全身が動かず、医療技術によって
何とか形を保っている状態でも
必死に生き永らえようとしてる者もいる

逆に、恵まれた環境にいるにも関わらず
一時の憂い、もしくは「飽きた」なんて理由で
命を投げ出す者もいる

どちらかが正しく、どちらかが間違っている
なんて事はないんです。

ただ……一つだけ共通している事があります

命の灯火が消えるその瞬間に
「やり残したと思う事」が有るのか、無いのか。

それが…生と死の境目ではないのか、と
私は考えました。

身体中に無数の管を入れられて
どうにか命を繋ぎ止めている状態でも、
やり残したと思う事がそれは生への渇望となる。

家族、友人、仕事、恋人、金銭だって構わない
何か一つでも引っかかれば
少なくとも意識は前に向くでしょう

すなわち…欲する物を全て手に入れ、
やりたい事を全て行い
この世へと繋ぎ止める何かが全て尽きた時
生への執着はプツリと切れる

たとえそれが……その場だけの気の迷いであっても。

本日、この劇場へやって来た皆様は
どちらでしょうか?

前者であるならば、ここは貴方にはそぐわない
元いた所まで我々がエスコート致します

後者であるならば……
このままここにお残りください。
続きをご案内します

【間】

残ったのは……おおよそ半分、といった所でしょうか

あぁ、そうだ。後半を始まる前にお手元に
置いてある水で水分補給をしてくださいね。
集中し過ぎて脱水症状にでもなったら大変ですから

では、続きをお話します……

先程語ったのはあくまでも「理性」の話
薄れてしまったとはいえ
人間にも対をなす「本能」があります

そう……生存本能
つまりは「死」に対する恐怖です

これには理性と違い理屈なんてありません。
生命を維持するために肉体が設定した
単純明快な防衛反応、それが恐怖という感情として現れているだけなんですから

ただ、1つ問題がある……

体験する機会が少ないんですよ。

死というものは突発的に襲ってきます。
病気でジワジワと蝕まれる事もありますが、
終わりの瞬間は唐突です。
命が尽きるその瞬間を感じる事はまず出来ません。
あげくの果てには苦しまない死に方、なんてものが研究される始末!

ですので、今回は特別に我々が用意致しました

先程飲んで頂いた水には少しばかり
混ぜ物をしております

どうです?身体が動かないでしょう?
安心してください。痛みや苦しみはありません
ただ、ゆっくり、ゆっくりと…
身体から熱が引いていく、そんな毒でございます

こうしている間にもほら、
指先から順番に冷たくなっていきますよ……
手足が動かなくなって…
次は胴体、腸、肝臓、胃、肺…そして心臓。
まだ終わりじゃありません、
首から伝っていって脳まで達します……
顎、口、鼻、目……
最後に脳がゆっくりと朽ちていきます
思考がまとまらなくなり、
漠然と迫る死の感覚しか感じない、
でも泣く事も叫ぶ事もできずに
受け入れる事しかできない、
あぁ、怖い、怖い、怖い、怖い………怖い!!
あっ……死んだ…………。

(手を叩く音)

どうでしたか?今のが純粋な「死」への恐怖です。
これでもまだ……おや?おやおや……?

【間】

ふむ、皆様一目散に逃げたしてしまわれましたか……
仕方ありません。大概の人間は、
壊れた「フリ」をしているだけですからね…
本当の恐怖を目の前にすれば当然の反応です。

それでもやはり……貴方は残ってしまいましたか

この場に残っているのはもう貴方1人だけ、
理性でも本能でも貴方は死を望んでしまっている

念の為、最期にお伺いします

本当に、よいのですね?

…かしこまりました。では、こちらへどうぞ

…………もしも輪廻というものがあるのならば
次の貴方は、どうか……
幸多き「生」になる事を、お祈り申し上げます。

~END~

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