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一番大事なお客さん。

お客様に優劣はつけてはいけない、それはわかっているし十分理解しているつもりだ。それでも、私には特別大事なお客様がいる。

デビューした当初から月一で通ってくれる緘黙なおじさん。
「今日はお休みですか?」と聞くたびに
「いや、仕事」とだけ答えるSさん。
会話が弾まず、ただただ時間が過ぎていくのに毎月必ず遊びに来てくれる。
特筆することは無い、普通のお客さんだった。

それが半年過ぎたぐらいから心を開いてくれたのか、多少の雑談をする関係へとなっていき、「何か欲しい物はないか?」と毎回私に聞き、リクエストしたものを買ってくれるようになり、来店頻度も増えていった。サルートも毎シーズンカタログを持ってきては、欲しいものに私がチェックを入れそれを買ってきてくれる。誕生日プレゼントは持ちきれないほど大きな花束に当たり前かの様にハイブラだし、私が欲しい、と呟くだけで何でも買ってきてくれる。


でもその代わり、ガチ恋をこじらせライン攻撃が酷くなっていった。ちょっと返事しないだけで「どこにいるの?」と鬼のようにラインと電話。予約の時間がずれるとスタッフさんにも八つ当たりするようになった。それでも会うときは普通なのだ。
「管理しきれない私が悪い」と自分に言い聞かせ、暫くは我慢していたが絶え間なく来る「もう俺は必要ないんだね」「店に行かないほうが良いね」などというメンヘララインに、遂に堪忍袋の緒が切れた。

「お前なんかな私にとってストレスでしかねえんだよ!!二度とその顔見せんなよ!!」とラインを送ってブロック&出禁。
月にその人の指名だけで10本とってた私には痛手だったけど、ストレスを抱えて予約が入るたび店に行きたくなるよりはましだと思った。

そこから半年ほど、たった頃だろうか。
年末のクソ忙しい時期に、スタッフさんが折り入って話があるというので「何?」と聞くと「SさんがどうしてもNGを解除してほしいと。もう嫌がることは絶対しないと誓うからと。お店としても売り上げに成るし、どうにか折り合いをつけてくれないか?」とのことだった。

まあもう半年すぎているし、怒りも喉元過ぎていた私は「本当に嫌がることしないならいいよ」よOKを出した。

久しぶりに会ったSさんは少々照れた様子だったけど「前はやり方を間違えちゃったから、今回からは応援するという気持ちでいる」と言ってくれた。
もう二度と顔も見たくないと思っていたけど、それ以来余計にラインはしない、来店頻度も二週に一回くらいになったSさんは、本当に私を応援してくれてるなあと感じるような行動をとってくれた。相変わらず欲しい物は買ってくれるし、ちょっと落ち込んでたりするとすっ飛んで店に来てくれたり、悩みがあったら聞いてもらったり、仕事が上手くいかない時も「萬ちゃんなら大丈夫。持ち前の真面目さで出勤していればきっと誰か見ててくれるから」と励ましてくれた。

あんなにガチ恋で頭を抱える存在だった人が、私の中で大事でかけがえのない人になっていった。恋愛感情抜きで、しかもソープランドで、こんな人間関係を構築できた私は幸せだとも思った。

引退するまで、ずっとずっとこうだと思った。卒業する日はSさんに貸切にしてもらって、美味しい焼肉を奢って、貸し切り代も私が負担する気でいた。感謝の気持ちを込めて、そうやって終わろうと思っていた。

だけど二年前、Sさんが急に体調を崩し、入院することが増えた。心配になった私は「お見舞い行くよ?」といったが、その時期丁度私は鬱病でそのことをSさんは知っていたので「余計な心配をせず、自分のことに集中して欲しい」と言った。
そして「肺に影が見つかった。」というラインが来た以降、Sさんと連絡が取れなくなった。

もしかしたら重度の肺炎なんじゃないか、進行したガンなんじゃないか、と心配になった私は何度もラインをしたが、返事が返ってくることは無かった。

電話をかけようか、と思ったことも何度もあった。でももしSさんが亡くなっていて「この電話は使われてません」のアナウンスが流れたら?と想像すると怖くて、かけることが出来なかった。もしも死んじゃってたら、この世の中から居なくなってしまっていたら、私はきっと落ち込んでしまう。それならば、知らないほうが良い。私とSさんの関係もここで終わりの運命だったんだ。と思うしかなかった。スタッフさんとも仲が良かったので「どうしてるんだろうね」って話になるたびに、心がいつもざわざわした。


が、去年の年末。出勤前にあわただしく準備をしていると店からラインが来た。
「大変です萬さん!Sさんからの予約が入りました!番号下四桁××××の、あの常連さんだったSさんです!!」

寝ぼけてた私も、一気に目が覚めた。
「本当にSさん?」と返事をすると
「電話の声がそうでした。元気そうでしたよ!」とスタッフさん。

出勤前、私は行きたいような行きたくないような気持ちだった。
Sさんに会うのは2年ぶりだ。
「もしも余命いくばかだったりしたら?」と嫌なことばかり頭に浮かぶのだ。それに多分姿を見たら泣いてしまうだろう。でもとりあえず来てくれるんだ。笑顔で迎えなきゃ。と自分を奮い立たせて出勤した。

「ご案内でーす!!」と共に目の前に現れたSさんは、何も変わっておらず、ニコニコと手を振った。私は涙をこらえて手を振った。
我慢しているつもりだったけど、部屋に入って「久しぶり、元気だった?」とSさんの声を聞いた私は泣きだしてしまった。生きててくれたことが嬉しくて、元気な姿で私の前にいることが嬉しくてワンワン泣いた。
「女の子泣かせる男になりたくないから、泣かないで。大丈夫だから」とSさんに背中を撫でられながらちょっとずつ落ち着いた私は、数年おもってたことをぽつりぽつり話した。で、結局わかったことはお互いにラインやショートメッセージを送っていたのにそれが届いていなかったこと。
私は死んじゃったんじゃないかと心配して
Sさんは私に嫌われたんじゃないかと思っていたこと。
ただの通信障害のスレ違いだったのだw

Sさん自体も、肺の影は問題なくて、ちょっと肝臓が弱りお酒を飲めなくなったけど、身体はいたって健康ということだった。

その日以来、Sさんは変わらずお店に現れて、私の愚痴や最近会ったことなどを話して笑ってという2年前と同じ日常が戻って来た。
「あんなに鬱で苦しんでた萬ちゃんが、こんなにたくさん出勤して写メ日記も頑張ってるの本当に感心するよ」とSさんは言った。
そう、Sさんは私の一番ダメな時を知っているから余計にそう思うのだろう。それにキャラ変もしたから日記の内容に驚いているようだw


出会ってもう9年。よくも飽きずに私に会いに来てくれるなあと思うけど、多分苦楽も共有してきたからずっと続いているんだろうな、と思う。
そしてNG出して以来「応援の気持ちでいること」にシフトチェンジしてくれたSさんの心の広さと本当にそれを実行し続けてくれていることに感謝している。
これからも一番の理解者であってほしいし、目標に向かっている私を一番に応援してくれているSさんでいて欲しいし、ずっと健康でいて欲しい。
もう性の部分が機能しなくても、萬ちゃんにはずっと会いに来るよというSさんを大事にしたいし、私を指名してよかった!と思ってもらえるようなソープ嬢になるから今に見ててね。


そんな気持ちで、私はまた明日から風呂屋に出勤する。
立てた目標は他の人からしたら「無理だ」というだろう。
でも私なら出来ると自分を過信している。
だって去年も無理だって思ってたこと全部出来たから。

来年の年末、また穏やかに新年を迎えれるよう、役満今年も走り続けます。
note更新も週に一回は必ずする!とここに宣言しておく。00

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