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薬局を見ているnote(①)

何年か前、どこかの街で「子ども食堂」という取り組みがあることをニュースで見て、世の中には困窮している家庭もあるんだな、などとどこか遠い世界の出来事だと思っていたら、いまでは私の住む街でも有志の人たちによる子ども食堂が定期的に開催されていることを知った。

3年前、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が発令され、あからさまに夜の街と飲食店が強制休業させられていた。
休業で仕事がストップして正社員も非正規も、職を失う人もいれば廃業も増えた。
何度もコロナの波がきては混乱し、いま第7波が収まりつつあり、メディアでは暗い話題は表に出ない感じがするが、実際はどうだろう。
大都市では割と頻繁に鉄道が人身事故で運休するようになっている。
異常も日々続くと慣れて日常になっていく。

私たちの目から見えにくい、社会の影になっている場所で、苦しんでいる人が少なからず居る。

「誰ひとり取り残されない社会」を作りたい、という薬局の経営者の話を聞いた。
東京・浅草でオアゾ薬局を経営する小嶋夕希子さんだ。
社会には公的に提供される医療・介護・福祉、があるのに知らないでいる社会的弱者がいる、そうした人たちに公助サービスを繋ぐ活動を行っている。
本来の薬局の仕事ではないと言われることもあるけど、と小嶋さんは話していた。

オンラインイベントで視聴した「第6回みんなで選ぶ薬局アワード」での話だ。
この薬局アワードという催しは2017年に始まった。
日本全国から薬局がエントリーして、それぞれが行っている取り組みをプレゼンする。
薬局がプレゼン?
薬局って発表するほど特別なことしているのか?と思われる方もいるのではないだろうか。
それこそ、主催する一般社団法人薬局支援協会の代表・竹中孝行さんがこのイベントを立ち上げた目的の一つでもあったという。
竹中さんも横須賀で薬局を経営する薬剤師だ。
ある時患者さんから言われた「薬局なんてどこも一緒じゃ無いの?」という一言。
そしてある子どもが「将来は薬剤師になりたい」と夢を語っているのを見て、将来薬局が輝ける場所であることを伝えたい、という思いから始まっているという。

今回の薬局アワードでは予選にエントリーした13薬局か一般視聴者の審査により5薬局が勝ち抜いて本選に進み、そこで最優秀賞が決まる。

今年の予選会を視聴していて、個人的に関心を惹かれたのは前述のオアゾ薬局もそうだが、地域課題の解決に向けて取り組んでいる薬局の存在だ。幾つかのケースが印象に残った。
愛知県岡崎市にあるパナプラス薬局は、地域住民のためのコミュニティスペースを作った。
岡崎市も行政が再開発によって通りが整備されたものの、結局そこに人が集まる空間が無かったと語っていた。
器が出来ても魂を入れなければならない。
パナプラス薬局が自治体と共同でプロデュースしたNEKKO OKAZAKIという複合施設は市民の交流の場として定着しているそうだ。

また、京都府舞鶴市のまいづるゆう薬局も地域住民向けのカフェイベントを定期開催しているが、この運営は地域包括のスタッフなど地域の人的資源に協力を得ており、市民と一緒に役割分担することに成功している。

埼玉県の秩父郡小鹿野町は山あいで人口減が進む地域だ。
山間部に住む高齢者は交通手段もなく、さらにコロナ禍で外出する機会も失って孤立している。この地で薬局を営むおがの薬局はキッチンカーを導入して、薬剤師と管理栄養士とで山あいの集落まで出向き、孤立していた住民の方々を対象にサロン活動を行っていた。
「2年ぶりに近所の人と顔を合わせた」という参加したお年寄りの声。
孤立は精神を蝕む。
過疎地は密じゃないからコロナ禍でも安全だな、などと浅はかな認識にあった自分を恥じた。

深刻な問題に立ち向かっているのだが、プレゼンでの皆さんは大変であることは顔に出さず、晴れやかに見えた。
医療のベテランは経験豊富で、強さを持っているように感じる。

予想もしないきっかけで社会は転換点を迎える。
超高齢社会と人口減。
地域コミュニティの弱小化。
拡大する貧困層。いまや子どものうち6人に1人が貧困家庭だ。

このような世情のこの国の各地で、それぞれの地域の課題に取り組んでいる薬局の姿が頼もしく見える。ここに希望が見える。

もちろん、薬局の本来の義務は患者に対して医薬品の適切に提供することだ。
「薬局アワード」では様々な工夫を行って生活者から支持されている事例もエントリーされていて、とても興味深い。
医師や看護師と比べても薬剤師の仕事は患者との接点が部分的で前面に見える場面が少ないので、私たちに薬が手渡されるそのバックヤードで、的確な薬物治療が成立するために綿密な手順が踏まれていることを私たちはあまり知らない。

今これを書いているのは、「みんなで選ぶ薬局アワード」2回目の予選会を終えたあとだ。
今夜の3回目を経て11月13日に本選が行われる。
見ていて感じることは、こんな薬局がある町に住む人は幸せだ、ということと、またこうした薬局の存在に救われている人たちも居るのだろう、ということ。

この「薬局活用ガイド」も、スタートして1年半が経過した。
当初の企画意図として、「もっと賢く薬局を活用してほしい」、「薬局は全て同じではない」、「良い薬局を見極めて利用するようにしてほしい」という願いがあった。

「みんなで選ぶ薬局アワード」はその意味でまさに、薬局を選ぶ目を養うことができるイベントです。
オンラインで誰でも視聴視聴できるので、ぜひご試聴されることをお勧めします。

<この記事を書いた人>
ミズホ
「薬局活用ガイド」編集部員。埼玉県在住。中3の長女、小5の長男の子育てをする二児の母。なんか今回はnoteっぽい一人語りになりました。