将棋自戦記#10~第5期指す将順位戦第10局~vsファンタさん

 みなさんこんにちは!季節の変わり目なので風邪をひかないかヒヤヒヤしながら過ごしております。やきそばです。今回は10月11日に指しました、指す将順位戦10回戦の自戦記をお送りします。この10回戦がラス前ということもあり、指す順全体が大きく盛り上がっているのを感じる今日この頃。他のクラスでも昇級・残留を懸けたアツい話が聞こえてきてとても楽しいです!この自戦記も、そんな指す順の盛り上がりにちょこっとだけ貢献できていたら嬉しいなと思います。ちょっとおこがましいですが!
 今回は事前準備パートをマシマシでお送りします。長ったらしいので対局だけ見たい方は下の目次から遠慮なくジャンプしちゃってください!

局前の準備~ファンタさん編~

 ファンタさんとの対局ですが、事前準備にかなり時間をかけました。せっかく頑張ったので今回はこのパートを長めに書いていこうと思います!

 まずは毎回恒例となっている棋譜集め。ファンタさんは振り飛車党だということを他の方から伺っていましたが、実際に調べてみると「石田党」といった雰囲気。棒金を相手に強襲で捌き切るお手本のような棋譜が見つかったり、同じ石田流を指す身として勝手に親近感を抱いていました。そのうえ、ファンタさんは相振りもいとわない棋風。相振り飛車では相手に合わせて多彩な戦術を取り、高勝率を挙げていたのです。一方の私は相振り(特に相三間)に対して苦手意識を持っています。勝率が低いために、対抗形党(主に左美濃)を志向したり左玉をやってみたりしてきましたが、未だにしっくりくる対応は見つかっていなかったりします。加えてファンタさんは作戦家でもあります。k2lowさんとの対局準備の際に、k2low-ファンタ戦の棋譜を拝見する機会がありました。そこでファンタさんがk2lowさんの棋譜を調べたうえで戦型を選んでいたのが非常に印象的でした。私も少し調べれば相振りで負けている棋譜がたくさん出てくるはず。どうにか自分の将棋を変えて挑まなければなりません。そこで色々悩んだ結果、対振り急戦を指すことにしました。

 どうしていきなり対振り急戦なのか!それはノーマル四間への誘導を睨んでのことでした。石田党の宿命だと勝手に思っていることですが、▲7五歩(△3五歩)を突けないときにどう指すか、石田党はこれを考えなければなりません。例えば私なら、後手番ならゴキゲン中飛車やノーマル振り飛車を、先手番の2手目△8四歩には▲5六歩の中飛車か▲2六歩から角換わり志向を指すようにしてきました。ゴキ中石田党が世にたくさんいるのは、最序盤の思想が近い上に補完性が高いからなんですね!ファンタさんの場合を調べてみると、2手目△8四歩にはノーマル四間を指されていることが判明しました。ここに焦点を当てれば相応の戦いができるのではないかということです。相振り・左玉は対策を組まれるリスクと勝率から考えて避けたい。単に対抗形では石田流を指し慣れているファンタさんに分がある。ということで、経験値と事前研究のバランスを考えて対四間の急戦を選びました。

elmoに想いを寄せて(準備の話)

 対四間飛車の勉強ですが、6月頃に羽生の頭脳(文庫版)を購入して以来、少しずつ進めていました。今期のどこかで対振り急戦を採用したいと思いつつも、勉強がなかなか追いつかない日々を送っておりました。

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 上図はおそらく色んな棋書に掲載されてきたであろう右銀急戦から▲5五銀と出た図。当初はこの図を想定局面としていました。ただここから飛車交換をして攻め合う手順に自信が持てません!舟囲いに不安を覚えた私が持ち出したのが村田顕弘先生のelmo本。あの黄色い本です。elmo囲いなら美濃囲いとも攻め合えると判断。こちらは購入してから1年以上放置していたものを掘り出し、手をつけることを決心しました。そこからは、村田先生の本にある仕掛けと自分の指したい形、そして羽生の頭脳に掲載されている手順を組み合わせては自宅のソフトに質問を投げる日々。ソフトの細かい読み筋はレベルが高すぎて、自分の棋力では勉強にならないのですが、少なくとも急に形勢を損ねることが無いかだけを確認しました。急戦は細かな形の違いを覚えるのが大変だというイメージでしたが(実際そう)、対局を想定してソフトに悪手を指摘してもらえるようになると、定跡手順への理解度が深まった気がします。分かった気になるのって大事ですね。最序盤の指し手はこのような手順に落ち着きました。

先手番のとき
▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩△4四歩▲4八銀以下elmo急戦
後手番のとき
▲7六歩△8四歩▲6六歩△8五歩▲7七角△3四歩以下elmo急戦

 以下どこの筋に飛車を振るかで戦型が決まりますが、念のためノーマル三間を採用された場合の指し方も確認しました。準備が無駄になる恐怖と戦いながら対局当日を迎えることになります。

対局開始:後手番と端歩

 ドキドキして20時を迎えます。いつもPCの時計が予定時刻ちょうどを指したときに「いや、この時計は早いかもしれないから1分くらい待つか!?」などと問答をしてしまいますね。ファンタさんから挑戦を飛ばして頂く形になり対局開始です。

第5期指す将順位戦B級3組
令和2年10月11日20時
於・将棋倶楽部24 大阪道場「レーティング対局室」
▲ファンタ △やきそば(持ち時間各15分、秒読み60秒)
▲7六歩 △8四歩 ▲6六歩 △8五歩
▲7七角 △3四歩 ▲1六歩 △1四歩
▲6八飛 △6二銀 ▲4八玉 △4二玉
▲3八銀 △3二玉 ▲3九玉 △5四歩
▲7八銀 △5三銀 ▲6七銀 △4二銀上
▲5八金左△7四歩 ▲2八玉 △3一金
▲5六歩 △5一金 ▲4六歩 △6四銀(第1図)

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 今期何局目かも覚えていない後手番です。互いが美濃・elmo(△3一金)に組むまでは想定通りの手順を踏むことができました。ファンタさんにとっても通いなれた道であるノーマル四間。本当に立ち向かっていくんだと奮い立つ気持ちでした。ただ互いに消費時間が少なく、ファンタさんはそこまで動揺していないのかな、とも考えていました。ファンタさんの心境や読み筋などはshogi.ioの方で紹介されてますので、そちらもどうぞお読み下さい!
 先手番ではどこかで飛車側の端歩を入れるところですが、今回の趣向は△5一金型に固めるelmo囲い。▲9五角と出る筋に対して△6二金型に構えるよりも扱いやすいだろうという考え。よって端の交換がない形で▲5六歩~▲4六歩と突いたのをみて斜め棒銀を決行しました。

形の違いと経験値

第1図以下の指し手
▲3六歩 △7五歩 ▲7八飛 △7六歩
▲同 銀 △7二飛 ▲6五歩 △7七角成
▲同 飛 △5三銀引(第2図)

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 第1図の局面からファンタさんは▲3六歩と待ちます。イメージとして▲9六歩や▲9八香といった待ち方はしないと思っていたので、出方が分からないなと準備段階で思っていました。他の手だと▲7八飛を先に回る手がありそうでしたが、これも△7五歩ですぐに合流しそうです。▲3六歩に対してはすぐに△7五歩を決行していいのかを考える事になります。先述した通り、△5一金型のelmo囲いは▲9五角に対応できるはず。それでも小さな形の違いを気にせずにはいられません。それゆえ△7五歩の仕掛けに1分、△7四歩に1分半と少考を挟んでいます。
 対するファンタさんは「この一手」の積み重ねという感じで淡々と定跡手順の進行。準備をしてきた私の方が時間を使っています。ここが普段と違う形を準備したときにつきまとう課題ですね。結局は相手の経験値を上回った手が要求されるわけです。開き直って予定通りの手順に進んでいきます。
 △5三銀引として第2図。よくある急戦だとここで角を打ち込んで銀の取り合いになりますね。elmo急戦と舟囲い急戦の大きな違いだと私は思います。形によっては△3三銀と引く将棋もあるみたいです。急戦は奥が深い!

やはりちらつく▲9五角

第2図以下の指し手
▲6七銀 △7七飛成▲同 桂 △7六歩
▲同 銀 △7九飛 ▲7一飛 (途中図)△6二銀
▲8一飛成△7七飛成▲6七金 △7八龍(第3図)

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 ▲6七銀と捌きの打診に対しては、先に△7六歩と叩いてしまう手もあるとか。△5一金型elmoにした狙いは「捌きあって攻め合い勝ち」なので、ここはシンプルに飛車交換を受けて立ちます。途中図直前の44手目△7九飛までが(微差はありますが)予定の最終地点。ここで振り飛車側からどのような手段があるか。ファンタさんは1分弱の考慮で▲7一飛(途中図)でした。同じ桂取りなら▲8二飛もありそうでしたが、「そっちなんだ!」と意図を探ることに。一番指したい△7七飛成には▲9五角が飛車取りと▲5一角成の両狙いに。これは端歩の脱税をうまく活かされた格好になりました。
 △9九飛成と香を拾うのも▲9五角がありそうで怖いです。歩切れなのでゆっくりもしていられず、明確な良さが欲しいところ。そこで私は△6二銀と引きました。この形が良い手とは限りませんが、桂馬をとてもらえれば飛車のラインがずれますし、▲9五角の威力が低下していそうです。桂馬を取ると△6七金と強手が来ます。手番を渡しながら△7八龍と入った第3図は、他の方を観戦中に見かけた△5八角(そのときは先後逆で▲5二角)の筋が見えていて指しやすさを感じていました。

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飛び込んだ決め手

第3図以下の指し手
▲6四歩 △5八角 ▲3九金 △4七桂
▲4八金 △6七角成▲同 銀 △4八龍(第4図)

 先手はここで▲6四歩。相手にすると堅陣に手がついて厄介なことになりそうです。▲6三歩成~▲6二と まで攻められる間に美濃囲いを崩し切ろうと方針を固めます。△5八角には▲同金△同龍▲4七角!が我が家のソフトの読み筋で、これで互角とのこと。これはさすがに見えないというか、形勢判断ができませんね・・・。本譜は▲3九金と寄ったところで△4七桂が決め手になりました。桂の使い道については、例えば△2四桂や△4四桂から△3六桂を狙ったり、どこかで△2五桂が玉を縛る手や追い詰める手になればと思っていました。ただ歩切れで攻め駒に乏しい本譜ではその辺りに使いどころが見込めませんでした。そんなこんなで桂馬の処置を考えていたことが幸便となり、△4七桂を発見。一瞬飛車の横利きに対して重い気がしましたが、考えてみると感触が良さそう。空振りにならないように相手の手にしっかり対応していこうと決めて打ちました。ファンタさんは▲4八金とかわしてから二枚替えを受け入れる手順を選択。第4図の局面は明確に後手が良さそうですが、どこかで攻めを切らされるのがとても怖かったのを覚えています。

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寄せきりに成功!

第4図以下の指し手
▲6六角 △5七金(第5図) ▲同 角 △同 龍
▲6三歩成△3九角 ▲1八玉 △2八金
▲1七玉 △3八金 ▲2六玉 △4六龍
▲6二と △3五銀 ▲2五玉 △2四歩
まで、74手でやきそばの勝ち
消費時間(▲=15分 △=13分)

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 ▲6六角の受けは読み筋になく焦りました。対して龍を逃げたくない一心で打ち込んだ△5七金(第5図)が良い切り返しだったようです。龍取りを受けるだけでなく、▲5七同金△同龍のときに桂が3九に効いているのが厳しいですね。対局中は攻めを余される可能性も考えて、△5七金には▲4九金の辛抱で第2ラウンドも辞さないぞという心境でした。本譜は角金交換から△3九角の打ち込みが実現。筋で追っても詰みは無さそうで寄せ方に迷いましたが、△4六龍と好位置に引いて受け無しに。そのまま指し手は進行し、74手にて先手投了。攻めを押し通して勝つことができました。

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振り返り・次局に向けて

 本局は事前準備通りに指し切ることができました。ここまで作戦がうまくいったのは第2局以来でしょうか。これだけ準備してうまくいくと、勝利の感慨もひとしおですね。そしてなにより対抗形の急戦という戦型に対する知識理解がぐっと高まった気がします。読める手や見える仕掛けが増えれば、既存の得意戦法にもそれは活かせるはず。色々な収穫があった1局でした。

 これで星取りは6勝4敗。貯金2に戻りました。今期はここまで2つ勝ち越しした状態の対局で2回も痛い負けを喫しています。長いようで短かった指す順5thも次が今期最終局になりますから、ここで勝ち切れるかどうか。実力を試されている気がします。わずかに他力昇級の目も残されていることですし、来期の順位も念頭に全力で挑みたいですね。

 最終局のお相手はドラキーさん。気が付けばヤミラミを「ドラキー」として認識している自分がいるような・・・?真面目な話をすると、最終局で当たることが判明して以来ずっと気になっていた方です。対局の模様をブログにされていることもあり、ときどきそちらを拝読しておりました。中飛車党だとかねてより伺っておりますが、ここは指す順。どんな戦型になってもおかしくありません。自分の実力を出し切れる将棋にできるよう研鑽を積んで臨みたいと思います。それでは今回はこの辺りで。ありがとうございましたー!

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