将棋自戦記#15~第6期指す将順位戦第3局~vsぞのみPさん

 大雨の合間に蝉の声が聞こえる季節になりました。梅雨が明けたかどうか、記憶がはっきりしない日々を過ごすやきそばです。(※調べたらまだでした。)今回は第6期指す将順位戦第3局の自戦記です。事前の準備から対局中の胸中まで、本局を心に刻み付けるべく振り返りたいと思います!
 それにしても前局の敗北は堪えました。今までの自戦記はだいたい対局から3日以内に投稿していたのですが、前回は1週間かかりました。たっぷり引きずった後の第3局ですから、普通に指すことを考えるだけでも不安は募る一方です。しかし不思議なもので、そんな暗澹たる空気を払拭してくれたのはあれだけ書くのを躊躇っていた自戦記そのものでした。敗局を自分のものとして受け入れるには文章化が一番で、戦った自分を認める過程を経ることでようやく前を向くことができた気がします。周囲の方に自戦記を褒めてもらえたことも、大きな力になりました。趣味の大会と言えばそれまでですが、私は趣味の範囲でも「心血を注ぐ場」として指す順に参加していますから、これからも情動揺さぶられる戦いを楽しみたいと思います。
 始まる前から結論めいた文章になっちゃった!前回の記事を経たところが本局のスタート地点なんだからしょうがないね!気を取り直して、準備について語っていくとしましょう。

局前の準備~ぞのみPさん編~

 3回戦の対局相手はぞのみPさん。対局表が公開された直後から、序盤戦最大の山場として認識していました。なぜなら前期にとてもお世話になったから。前期を通じて特に交流が深まった方の1人で、時折対抗形の定跡を教わったり、不定期にVSをお願いするなど本当にお世話になりました。普段指す戦型から指す順での作戦設計に至るまで、前期はかなり詳細に話していましたので、手の内がバレた状態でのスタートにならざるを得ません。そのうえ、ぞのみさんは作戦家タイプ。その攻め中心のスタイルを軸にやきそば対策を立てて勝負に挑んでくることが分かっていました。言い換えれば、私もぞのみさんの考えていることをある程度予想しながら作戦を組み立てられるのですのが・・・。今回はちょっと事情が違いました。

画像1

 第0図は先手が▲7五歩と石田流を明示したところ。これは私が主催したGWミニリーグで指された、私とぞのみさんの将棋です。私の将棋で▲7五歩なんて頻出形ですが、よく見てください。先手はぞのみさんです!居飛車党のぞのみさんが私にあえて石田流を指してきた。指す順に臨むにあたってはこの意図をどう読み取るかが肝になるだろうと思ったわけです。
 考えられる可能性を挙げられるだけ挙げてみました。「①慣れない逆側を持たせる作戦」「②左玉に誘導する作戦」「③相振りに誘導する作戦」「④見せ球にして対策の負担を増やす作戦」「⑤単に思い付きで指す順には全く関係ない」・・・。考えるとキリがありませんね!
 そのなかでも今回は②の左玉誘導を警戒しました。3手目▲7五歩に限らず、ぞのみさんが振り飛車を指されたならば真っ先に頭によぎるはずの戦法だからです。普通の相振り飛車であれば経験値の差で優位に立てるのではないかと考え、左玉の線を消すことにしました。
 では何を指すのかと言われると難しい。私は今期ここまで2局連続で中飛車を採用中ですから、ぞのみさんも中飛車対策は入念に行ってくるはず。中飛車には超速で戦うのがぞのみ流なので、ここで研究勝負では分が悪いと見ました。速攻で攻め潰される展開が有り得るので角換わりもパス。悩んだ末に出した結論は以下の通り。

先手番
・▲7六歩△3四歩▲7五歩以下、石田流or相振り(三間)
・▲7六歩△8四歩▲7八飛以下、三間飛車
後手番
・▲7六歩△3四歩▲7五歩△4四歩▲7八飛△4二飛、相振り(四間)
・▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角以下、相振りor三間飛車
・▲2六歩△3四歩▲7六歩△4四歩以下、三間飛車

 連採した中飛車をも捨て、三間飛車に絞って戦うことに。ぞのみさんが普段から勉強している戦型に飛び込むので怖いのですが、中飛車と天秤にかけたときに三間飛車の方が勝率が高いと思いました。相振りは出だしに相当迷いましたが、周囲に助言を頂きながら「指し慣れた形」と「最序盤で潰されない」ことを意識して上記の設計にしました。作戦がギリギリまで固まらなかったので、無理に勉強することは避けて体調管理に重きを置くことにし、当日を迎えます!

戦型の「読み抜け」

第6期指す将順位戦B級3組3回戦
令和3年7月10日21時於・将棋倶楽部24 大阪道場「レーティング対局室」
▲ぞのみP △やきそば(持ち時間各15分、秒読み60秒)
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △4四歩
▲4八銀 △3二飛 ▲2五歩 △3三角
▲6八玉 △4二銀 ▲7八玉 △6二玉
▲5六歩 △4三銀 ▲9六歩 △9四歩
▲3六歩 △7二玉 ▲1六歩 △8二玉
▲5八金右△7二銀 ▲4六歩 △5二金左
▲5七銀 (途中1図)△5四歩
▲3七桂 △1二香 ▲6八金上△1四歩(第1図)

画像2

 ぞのみさんの先手番で対局開始。ぞのみさんの初手少考は一種のルーティン。私も気持ちを高めて臨みます。相振りの杞憂はどこへやら、▲2六歩からの立ち上がりとなりました。△4四歩と角道を止めて、しめしめとノーマル三間に組みます。途中1図の▲5七銀を見て「あれ、持久戦?」と手が止まりました。ぞのみさんの急戦レパートリーはある程度把握しているはずなのに、金無双急戦をすっかり忘れていたのです。いきなり待ち方がわからなくなった私は手に迷い第1図の局面に。予め入れるべき△2二飛のタイミングをすっぽぬかしているのが分かります。勉強不足を後悔する余裕なんてありませんが、暗雲立ち込める出だしとなりました。

画像3

開き直り

第1図以下の指し手
▲4五歩 △同 歩 ▲3三角成△同 桂
▲2四歩(途中2図)△同 歩 
▲同 飛 △4二飛 ▲3一角 △4六歩
▲4二角成△同 金 ▲2二飛成△3二銀(第2図)

画像4

 ▲4五歩と仕掛けられた時点ではまだしも△4二飛と回って戦うべきでしたが、既に手は見えておらず△4五同歩と取ってしまいます。途中2図まで来て覆水盆に返らずといった情勢。定跡の勉強をちゃんとしてきます(大反省)。△4四角や△6四角で反撃をちらつかせる手も考えましたが、徹底抗戦の構えと決めて、先んじて△4二飛。▲3一角の打ち込みは仕方がないところで、その間に△4六歩と伸ばします。これは近いうちに底歩が効く形を作るためです。それにしても、おなじ底歩なら▲1一龍に△2一歩と打ちたかったですし、△5四歩と待ったがゆえに▲3一角がより厳しくなっていて、なんだか踏んだり蹴ったりな気もします!
 △3二銀と引いて第2図。二枚飛車の攻めがいつでもこわいので、とにかく横に長くして粘ることに全力を尽くす、序盤早々に開き直る展開となりました。ここでしっかり粘ると決められたのは形勢が悪いなりに好判断だったかなと思います。

画像5

粘りに角を打ち据えて

第2図以下の指し手
▲1二龍 △4七歩成▲同 金 △6四角(途中3図)
▲6六香 △5三角(途中4図)
▲5五歩 △同 歩 ▲4六銀 △7四角(第3図)

画像6

 歩を成り捨てて△6四角(途中3図)と打ったのが最初の勝負手。ただここで△3七角成~△4五桂は反動がキツいと見ており、視線はひたすら自陣に向かっていました。攻め合いを狙っては序盤の失点がそのまま響きそうだったので、あくまで粘る方針です。代えて△4一歩とすぐに底歩を打ちたかったのですが、▲4三歩と叩かれる手を気にしました。なので金にヒモをつける狙いで打った角でしたが、ぞのみさんから見るとそれなりの迫力があったようです。▲6六香は将来的に▲6三香成とされるのが激痛になる恐れがありますが仕方ありません。ここで打たせたということにして、△5三角(途中4図)と引きます。

画像9

 ▲5五歩△同歩▲5四歩とすぐに追撃される手順を気にしていましたが本譜は▲5五歩△同歩▲4六銀。手番を渡されたのでここは浮いている先手の金を狙ってアヤを作りたいところです。△3八角~△2九角成として馬を作る手も考えましたが、▲2二飛と馬取りに打たれると次の3二の地点での清算が気になります。そこで敢えて△7四角(第3図)。こちらなら自陣方面にも効きを足せそうで、まだ効率が良さそう。2枚目の角を投入するには些か早い気もしますし、2枚とも狭いところに打ち込まれるので活用できる自信はありませんでした。本譜では2枚角が攻防に効いて幸いする展開になってほっとしています。何事もやってみなければ分からないもんですね!

画像7

二枚角を追われて

第3図以下の指し手
▲4八歩 △4一歩 ▲5四歩 △4四角
▲7五歩 △4七角成▲同 歩 △5六金 (第4図)

画像8

 ▲4八歩と打たせてから△4一歩という交換でさらに粘れる形になり元気が出てきます。以前として目立った反撃の手段はなく、アヤを付けるなら端攻めなどですがさすがに片美濃では反動が怖くてできません。1筋2筋方面からの攻めを凌いでいる最中なので、なるべくそちらからの攻めに集中してもらいたいとの思いもありました。
 しかし一方で打った角達が追われます。▲5四歩は想定より遅かったものの、やはり金銀との連携を乱されるのは気がかり。そしてなにより▲7五歩が分かっていても避けられない手。角切りから△5六金はもちろん当初からの読み筋でしたが、この時が訪れるまでにもう少しポイントを稼ぎたかったです。とはいえここは有無を言わさず金を打つところ。次に△4七金と潜って銀桂を狙う流れから何かしらの反撃の筋が生まれて欲しいと、ここは期待を懸けて放ちました。

潮目

第4図以下の指し手
▲4五銀 △同 桂 ▲同 桂 △5七銀(途中5図)
▲6九金 △6六銀成▲同 歩 △同 金
▲5三桂不成△7六香(第5図)

画像10

 ▲4五銀からの攻撃は読みに無かった手。清算した形は5三の地点への殺到が見えており怖いところですが、底歩周辺の防波堤が機能しているうちに反撃できればチャンスが来るのではないかと見ていました。途中5図の△5七銀が待望の反撃。▲6九金には△6六銀成と香車を外して、堅く閉ざされていた角筋の開放を目指します。感想戦では代えて▲5七同金△同金の清算の方が、後手の攻めを遅らせることができたとの話になりました。対局中は不思議と私も金引きを読んでいました。金駒が欲しい/渡したくないという実戦心理がうまく作用して、金を引かせる展開にできたのが大きかったです。▲5三桂不成も美濃囲いの金を直接攻める怖い手ですが、角のラインを信用して攻め合いを継続します。△7六香(第5図)と角筋を通す前に王手を決めて、さあ勝負です。

画像11

逆転を掴んで今期2勝目

第5図以下の指し手
▲6八玉 △5六歩(第6図)
▲6一桂成△5七歩成▲5九玉 △2六角(終局図)
まで78手でやきそばの勝ち
(消費時間=▲15分、△15分)

画像12

 ▲6八玉と寄って形勢逆転。代えて▲8八玉なら追うのが大変でした。本譜は△5六歩の突き出しが詰めろですが、指した瞬間は気づいて居ません。△5八玉▲5七歩成△4九玉▲2六角に受けがあるかどうか、といったところを読んでいました。さらにはそのまま本譜の▲6一桂成を見たので、思考が飛んで△5八玉が入っている形と混同したまま読みを続けていたのです。「最悪詰ませられなくても、角が7一に効いているから安全だよな。」「一旦手を戻して△6一銀としても飛車打ちは怖くないよな・・・。だからとりあえずは歩を成って」と△5七歩成を読み直したところで即詰みを発見。逃すことなく△2六角と覗くことができました。ぞのみPさん対局ありがとうございました!

画像13

改めて振り返りと、次局に向けて

 本局はあまりに序盤の失点が大きく、本来飛び込むべき戦型ではなかったかもしれません。知識不足とは分かっていましたが、ひとたび劣勢になれば粘り通すと決めて飛び込んだのが良かったのだと思います。攻め急いで逆に寿命が縮まないよう気を付けて戦えたのもプラスに働きました。調整やメンタルの面で言えば対局前は終始苦労していました。ですが、対局中は逆に落ち着いて指せていたと思います。劣勢を意識した時の感覚・気分も、前局よりもさらに早く形勢を損ねていたはずなのに、そう悪くはありませんでした。次の対局が今までと同じように行くわけはありませんが、こうして記録に残すことでどこかで役立てばいいなと思います。

 次の対局、4回戦のお相手は八十 一甫(やそ かずのり)さんです。今期は「情熱のストレート」というバックボーンから相手の得意形を受ける将棋を指されています。一方で早石田撲滅委員会の一員(?)でもある八十さん。果たして私の石田流を受けてくれるのでしょうか。というかそもそも後手番を引いたらどうするんだい自分!八十さんの情熱を受け取って、真夏を彩るような対局にできればいいなと思います!

 それでは今回はこの辺りで。皆さん最後までお読みいただきありがとうございました!!!

この記事が参加している募集

将棋がスキ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?