将棋自戦記#16-2~第6期指す将順位戦第4局~vs八十一甫さん(後編)

 事前準備で前編が終わった自戦記の後編です。戦型選択に至るまでの模様を綴った前編はこの記事の前にありますので、未読の方はぜひぜひお読み頂ければと思います!また、本局についてはA級3組在籍のロウポンさんが観戦記を書いて下さっております。とてもありがたいことですね!こちらもリンクを掲載しますので、どうぞお読みくださいませ!

 それでは本編に参りましょう。今回は対局直前に行われたミニリーグでの前哨戦から・・・。

夏休みミニリーグ vs八十さん

 今年の5月以来2回目の主催をしたミニリーグ。前回のミニリーグは不調から脱出するきっかけにもなったので、今回も何かしらの収穫があれば嬉しいなと開催する運びに。なんと八十さんも参加を表明してくださり、指す順本番の数日前に前哨戦を指すことになりました。
 とても嬉しいことですが、ここで何を指すかが非常に難しい。事前準備の段階で先手三間・後手向かい飛車に絞ったはいいものの、まさか投入するわけにもいきません。指さないと決めていた角換わりをここでやってみるのも楽しそうでしたが、コーチに相談したところ「取っておいている感を出すため」に回避を提案されてやめることにしました。八十さんも八十さんで疑心暗鬼になっていたことでしょう。実際の対局はこのような展開に…

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 ・・・普段やらない形に持ち込むなら陽動振り飛車が一番ですね!しかし指し慣れていない私は、八十さんにあっさり居飛車穴熊への組み換えを許してしまいます。最後は馬の効きをうっかりして大事な竜を失うなど、いいところなく敗戦。ミニリーグ全体でも成績は伸び悩み、不安が募る一日となってしまいました。

 この苦い経験から得られたのは「集中力が大事」という事実。基本中の基本ですね。連戦で集中力をすっかり欠いていた私は、当初の目論見ほど1局1局から経験値を得ることができませんでした。ミニリーグの日程を連休中に設定したわりにはコンディションも悪く、これ以上指す順に向けて躍起になって準備を進めても本番までの疲労が溜まるだけだ、と判断できました。おまけに指す順本番は金曜夜に指した1回戦以来となる平日夜の対局。さらに火曜日と週中の設定で、コンディション調整の重要度は高まる一方です。そこで観念して事前準備をストップ。前編で述べた内容を繰り返し確認するのに留めました。対局時に対局以外の悩み事が脳内を占有しないよう、具体的には仕事の失敗などに気を付けながら、月曜・火曜を過ごしていきました。日常生活への意識の切り替えがうまくいったので、対局当日までには凹んでいたモチベーションも戻すことができました。気合いを入れるために奮発して食べた一人焼肉もおいしかったです。

意表を誤魔化す

第6期指す将順位戦B級3組4回戦
令和3年7月27日20時於・将棋倶楽部24 大阪道場「自由対局室」
▲やきそば △八十一甫(持ち時間各15分、秒読み60秒)
▲7六歩 △6二銀 ▲7八飛 △5四歩
▲6八銀 △3二銀 ▲4八玉 △4四歩
▲3八玉 △5三銀 ▲1六歩 △1四歩(途中1図)
▲2八玉 △3一角 ▲3八銀 △4三銀
▲5六歩 △4二玉 ▲9六歩 △3二玉
▲5七銀 △4二角 ▲4六銀 △5二飛(第1図)

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 対局開始早々に覚える違和感。突かない飛車先、早すぎる△5三銀、なぜか突き出される△4四歩・・・。2手目からの流れは飯島流を目指すような雰囲気でしたが、途中1図の△1四歩まで辿り着いた頃には嫌な空気が対局場に漂っています。

「想定と全く違う。八十さんの手札から考えて、この立ち上がりは───」

 そう、左玉です。それも有名な高田流とは違う「低姿勢左玉」なる戦法。詳細は全く知りませんが、位に拘らず左玉で戦う独特な戦法というイメージです。私も左玉自体はよく指す身ですから、この時点で察知できただけでも十分です。とはいえ明確な対策があるわけでもなし。気になる点があるとすれば、先に玉を動かしているために後手の飛車を振るのが大変そうということ。今から方針を考えていてはペースを握られてしまいそうなので、中央で戦う準備通りの組み立てを貫くことにしました。

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 ▲4六銀型に八十さんは△5二飛と回って対抗。これは少し見慣れた形になりました。中央制圧には飛車で対抗するのが八十流で、引き角の採用時には時折見られる指し回しです。結果的に左玉と引き角の中間的な駒組になったことにより、ここからは互いに仕掛けどころを模索することになります。

押し引きを繰り返す

第1図以下の指し手
▲5八飛 △6四銀 ▲6六歩 △7四歩
▲6八飛 △7五歩 ▲6五歩 △7三銀
▲7五歩 △同 角 ▲7六歩 △3一角
▲5八金左△7二金(途中2図)
▲5五歩 △同 歩 ▲同 銀 △1三角
▲4六歩 △5四歩(途中3図)
▲4四銀 △同 銀 ▲同 角 △5三銀
▲2六角 △4六角(第2図)

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 右銀を繰り出す八十さん。対して▲6八飛と再度の振り直しから、6筋を盛り上げて一旦攻めを押し返します。▲4六銀型に構えてしまった手前、左辺はスカスカで、▲7七角と上がるタイミングもなく少し不安定なのが気になります。先手の仕掛けは途中2図から▲5五歩△同歩▲同銀で、次に▲4四銀と出られるのがおいしい。△5七銀のような打ち込みに備えて、予め▲5八金左の一手を入れたのも良かったと思います。指す当初は中飛車に戻せなくなるデメリットとの交換で迷いましたが、6七の地点がひどいキズになっていた可能性もありますし…。きっとこれで正しかったのでしょう!

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 △1三角から飛車を睨むのが後手の切り返し。△5四歩(途中3図)の催促から銀交換に成功するも、ここでは本譜の▲4四銀に代えて▲6四歩がありました。棒銀の要領ですね。4三の銀に触らずに飛車先突破をする方が、本譜の攻めより明解だったことでしょう。攻めの選択肢が複数無いか、この一手と決め切らずに局面を見る、そんなことも時には必要なのですね。

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 本譜は相手の主張も聞き入れながらの戦いに。第3図の△4六角が結局間に合います。先手は角のラインをひたすら利用して、後手陣崩壊の瞬間を狙っていくことになりました。

ゆっくりと指すしかない

第2図以下の指し手
▲6一銀(第3図)△6八角成
▲5二銀不成△同 金▲6八金 △4八歩(途中4図)
▲3九金 △4一飛 ▲4二歩 △同 銀
▲7五角 △4九銀 ▲4七銀 △7四歩
▲8六角 △6四歩 ▲4六歩(第4図)

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 銀交換から、当初の狙いであった▲6一銀を敢行。打ち込んだ第3図では5三の銀を標的に攻め続ければ、多少の反撃を喰らっても優位に攻め合えると判断していました。持ち時間もまだまだ残っており、ゆっくり考える事ができそうです。互いに駒を取り合って、さあ次に飛車を下してやろうと意気込んだところで、八十さんの巧みな反撃がやってきます。

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 △4八歩。なんともイヤミなタイミングの歩です。当然取れませんが▲5九金でも▲3九金でも下段飛車から追撃されそう。▲3九金と寄る手に1分使わされました。
 というのも、ここで▲5三角成という手を考えていたからですね。以下、△5三同金▲5一飛△4九歩成と一直線に進んだ時にどこまで後手玉に迫れるか。さすがに詰むことはなさそうなので、一旦どこかで▲4九銀と手を戻す必要がありそうです。そのうえどこかで手を代えて受けてくる可能性も十分あるのでこれは読み切れません。とりあえず叩きの歩を避けてから次の攻めを考えよう、と▲3九金と寄ったところで本譜は△4一飛。とてもとても味の良い飛車を打ち込まれ、踏み込むタイミングを逃したかとショックを受けてしまいます。過ぎたことを考えても仕方ないのにね!
 なお、我が家のソフトに聞いてみたところ、▲5三角成~▲3九金と角切りを決めてから寄る手順が現れます。飛車を下ろすようなゴリゴリした攻めはさすがに間に合っていない様子。そういう意味では、角切り回避は正しかったのやもしれません。対局中はかなり後悔していましたが!

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 飛車の効きをいかに止めるかということだけに注力し、先手から有効な攻め筋はないと判断して▲6二歩~▲7五角と切らしに行く方針に。△4九銀を▲4七銀とかわせたのが大きく、ここで有利を初めて意識します。それでもすぐに▲4八金~▲4九金とするのは△4六歩の叩きが気になりました。そこで確実に、安全に戦う手を選んで勝つための▲4六歩。無条件で歩と銀を払ってリードを広げる狙いです。

迷走するソババンド

第4図以下の指し手
     △2四歩 ▲3六歩 △8四歩
▲4八金 △8五歩 ▲7七角 △6五歩
▲4九金 △6四銀 ▲3五歩(途中5図)
     △4三銀 ▲5三歩 △同 銀
▲3八金 △7五歩 ▲同 歩 △7六歩
▲8八角 △8六歩 ▲同 歩 △8七歩
▲9七角 △6六歩(第5図)

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 予定通り危なげなく後手の攻め駒を回収し、盤石の態勢となりましたがここで攻め筋が分かりません。なんとなく玉頭付近を攻めたいと思いつつ、▲3五歩(途中5図)などは完全に迷走していたと言えるでしょう。代えて先に▲3八金でも良かったと思います。角筋が止まっててあまり気分は良くないですね。もう少し2筋方面への具体的な攻めを読むべきだったと思います。ここは角の活用にこだわりすぎたかもしれません。本譜は逆に角を追いかけられることになり、片方の角が端へと追いやられてしまいます。歩をたくさん使った攻勢に対して相手の言い分を存分に聞いた結果、△6六歩(第5図)と味よく伸ばされてしまいました。このままじわじわやられていては逆転される。焦燥との戦いが続きます。

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執拗に執拗に

第5図以下の指し手
▲8五歩 △6一飛 ▲6二歩 △同 飛
▲6四歩 (第6図)△同 飛
▲7四歩 △6一飛 ▲3四歩 △4四銀右(途中6図)
▲3三歩成△同 銀 ▲6二歩 △同金右
▲5三銀(第7図)

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 △6一飛と回られて、いよいよ正念場と言えそうな局面。攻めとしては▲7四歩、▲3五歩を効かせて5三の地点に殴り込みをかける手順を、受けとしては飛車の効きを寸断して△6七歩成をさせない手順をそれぞれ考えます。具体的には▲6二歩~▲6四歩(第6図)と飛車を誘導してからの▲7四歩。さらには飛車を引かせて▲3五歩と手順に全部を実現できて大満足ですね!しかし△4四銀右(途中6図)が目標物をずらす好手の受けで、これを見落としていました。

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 ここで後悔していた▲3五歩(3四歩)が役に立ちます。▲3三歩成が抜群の一手で、これにより再び角筋が5三の地点を照らします。△同銀にもう一度▲6二歩を効かせてから▲5三銀(第7図)と打ちつけ、ようやく後手陣の突破が見えてきました。歩の枚数が足りてよかった・・・。

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攻めを通す

第7図以下の指し手
△5三同金右 ▲同角右成 △4二銀打
▲8二飛 (途中7図)△5三金
▲同角成 △4一歩▲7二飛成△6五飛
▲4三馬 △同 玉 ▲5二銀 △3四玉(第8図)

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 △4二銀打と頑強な抵抗に対して▲8二飛と打ったのが自慢の攻め。馬にはヒモがついているので安心。絶好のタイミングで飛車を打つことができました。続く底歩も鍛えの入った受けですが、ここでは▲4三馬~▲5二銀という攻めがありました。対局中は馬の使い方がわからず▲7二飛成を先に決めてしまい、王手飛車を逃します。五段目に浮いた飛車は後手陣の上部をカバーしているので、厳密にはやぶ蛇だったと言えます。それでも▲4三馬~▲5二銀は未だに健在で、発見こそ一手遅かったですが、確実に後手玉に迫ることに成功します。

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押し切って3勝目

第8図以下の指し手
▲4五金 △2三玉 ▲4一銀不成△6四角
▲4二龍 (第9図)△4五飛
▲3二銀不成    △3四玉  ▲4五龍(終局図)
まで127手でやきそばの勝ち
(消費時間=▲13分、△15分)

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 第9図の▲4二龍が最後の決め手。後手玉に目ぼしい受けは無く、この龍を取れば即詰みです。今度こそ踏み込みを恐れてはいけないと、寄せの手順を丁寧に確認したうえで指せたのが良かったと思います。本譜は△3五飛と回る手から即詰みの手順となり、無事押し切ることができました。八十さん対局ありがとうございました!

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振り返りと次局に向けて

 本局も予想が当たらない中での対局でした。相手の手札はある程度把握しているつもりなので、外れたと分かった時点で修正を行うことになるのですが、今回は当初の方針を敢えて活かしたのがプラスに働きました。対局中は攻め筋が分からないゆえに悲観的になる場面が多く、よく言えば激辛、悪く言えば消極的な指し回しになったかなと思います。振り飛車党らしく、カウンター気味な戦い方ができているとも言えそうですが、自分から積極的に良くする手をもう少し考えられるようになりたいですね。

 これで今期の成績が3勝1敗となりました。2つ勝ち越しというのはとても大きいですね。前期は3回戦~5回戦にかけて連敗しているので、夏の悪いイメージを払拭できつつあるのではないでしょうか。まだまだ全勝勢が上には居ますが、ここは堂々と連勝を重ねていきたいところです。

 次戦のお相手はこえだめさん。作戦家との対決になります。本局のようにたっぷりと準備ができれば一番ですが、どのような形で対局を迎えようとも、まずは自分の実力を出し切れるように尽力したいです。こえだめさんは今期Youtubeにて対局の振り返り動画を出されているので、はやくも私との対局が動画化される日が楽しみで仕方ありません!次も頑張りますよ~!!

 それでは今回はこの辺りで。普段以上の長文となりましたが、お読みいただきありがとうございました!また数週間後!!

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