見出し画像

羅刹の紅(小説投稿)第八十九話

〇あらすじ
普通を愛する高校生「最上偉炎」は拳銃を拾ってしまう。パニックになった彼を謎の女「切風叶」に助けてもらうが、町で悪行を繰り返す組織「赤虎組」に狙われることになってしまった。それに対抗するため偉炎は親友である「北条優雷」、さらには不登校だったがかつてこの国の財閥に君臨していた今川家の令嬢である「今川雪愛」と切風の四人で校内に「一般部」を結成。災厄の日常へと突き進む。
赤虎組は資金を確保するため偉炎たちが通う広星高校の地下金庫を襲撃することを決めた。その情報を手に入れた偉炎たち一般部はそれを体育大会当日に迎え撃たなければならなくなったのだ。一般部と赤虎組の決戦は近い・・・それぞれが準備を整え、ついに体育大会の当日の朝を迎えた。
 偉炎は最初の種目に出るまでの間、偵察も含め学校の外にある森に向かう。しかし、そこにはクラスメイトの安藤と小山がいた。彼らは赤虎組の指示を受けて森に赤虎組の機材を設置していたのだ。その瞬間、安藤と小山は発煙筒を偉炎に投げた。

〇本編
発煙筒は偉炎の周りに煙を発し、彼の視界を完全に曇らせた。
「くそ・・・!前が見えない。」
 一歩も動くことができなかった。しかし、安藤と小山はさらに森の奥に向かっており追いつくことは困難を極めそうだ。
(安藤と小山が赤虎組の味方をしている・・・やはり雪愛が予想していたが当たっていた。早く連絡しないと。)
 偉炎は持っているスマホとARコンタクト(様々な情報を目に映してくれるコンタクト。数十年後の世界ではほとんどの人が目に入れており、スマホと連動して生活を便利にしてくれる。)を取り出し切風に連絡した。
「切風!大変だ!」
「ん?どうした?」
 切風はキョトンとしながら質問で返した。
「グラウンドの裏にある森の中でクラスメイトが赤虎組の機材を設置していた。ドローンやら監視カメラやら色々とあった。」
「なるほど・・・やはりその二名はあいつらの下部になっていましたか。了解、森においてある機材は雪愛に破壊してもらおう。ちなみにそいつらは捕まえたかい?」
「いや、発煙筒を使われたりして結局逃げられてしまった。多分森の奥に隠れていると思うけど・・・追うか?」
「追わなくていい。探すのは相当な時間を要するからね。情報提供ありがとう、君は種目に参加したまえ。」
そういって通話が切れた。このままでは彼にとっていや、学校全体に大きな損害が出るのは間違いない。晴れていた空が急に雲行きも怪しくなっている。
「・・・まじで心配だ。」
 彼の中には不安が募るばかりだ。ただ今ここでやるべきことはグラウンドに戻って種目に出ることだ。偉炎は森の外に出てグラウンドに向かうことにした。
 一方、安藤と小山も赤虎組に連絡していた。
「大変です!学校のクラスメイトにドローンと監視カメラを設置しているところを見られました!もしかしたらこの遠隔操作できるアームロボットも・・・」
「問題ないです。それよりもドローンや監視カメラなどは設置することはできましたか?」
 電話の相手は有坂だ。彼は今回の広星高校襲撃の指揮を任されている。そのため、彼はかなり慎重にかつ、冷静に物事を進めていた。
「はい!支給されたものの八割方は設置できました。事前に置いておかないといけないところには全て起動した状態で置いてあります。」
「上出来です。よくできました。」
 まるで子供と会話するかのように有坂は褒めた。
「そしたらあなたたちの役目はこれで終了です。お疲れ様でした。もう元の生活に戻っていただいて構いません。」
 有坂の言葉に二人は安堵した。これで数週間にわたる赤虎組への奉公も終わるからだ。
「ただ・・・」
 しかし、ここで冷徹な有坂は包み隠さず述べた。
「もし、我々の事を外部に伝えたらその時点で赤虎組はあなた達を容赦なく殺します。そこだけはくれぐれも頼みます。」
「は・・・はい。」
 二人は背筋の凍るような発言にはいの二文字しか言えなかった。
「それでは通話を切ります。そのスマホは適当に処分してください。もういらないので。」
「そうですか・・・では失礼しいま・・・」
 安藤と小山はとにかくスマホの通話をオフにしたくて仕方がなかった。なぜならこれ以上有坂と話していたら精神的に身が持たないからだ。そして、会話が終わった瞬間、小山は通話ボダンをオフにしようとした。



「すいません、あと一つだけいいですか?」しかし、有坂は終わらなかった。というもの確認をしたかったのだ。
「・・・はい・・・何でしょう?」
 安藤の額から汗が落ちる。そして、心なしか息も上がっていた。これは偉炎から逃げる時に走ったからではない、純粋に緊張しているのだ。
「あなた達の事を見た生徒の名前・・・分かります?」
 この質問は正しい。なぜなら、この答えは今までも、いやこれからも赤虎組の目の敵になる存在であるからだ。
「名前は最上偉炎です。僕らとは同じ・・・クラスメイトです。」
「・・・分かりました。それでは失礼いたします。」
 会話が終わった。それとともに有坂は何か頭の中で引っかかったのか、少し考え事をした。
「最上偉炎・・・どこかで聞いたような・・・」
 ついに赤虎組に偉炎の名前がばれてしまったようだ。
場所は学校のグラウンドに戻る。グラウンドでは順番の早い人から短距離走が始まっていた。偉炎も自分の番に間に合うように早々にフェンスを通過してグラウンドに入った。
(あぶねー、何とか間に合った)
 ぶらりと歩く程度ではあるはずの散歩がまさかここで時間がかかるとは思わなかっただろう。
「こらーーー!何やっている偉炎!頑張れよ!」
 そこでは蔑んでいるのか応援しているのか分からない声援があった。優雷である。彼は友人たちを引き連れて偉炎の応援しに来たのだ。
「おっ・・・おう。」



校内の監視は大丈夫なのかと聞きたかった偉炎だがこんな大勢の前そんなことも言えるはずもない。彼は苦笑いしながら応援に応えた。
「さて・・・頑張りますか?」
 短距離走とは言ってもシンプルに百メートル走である。それもクラウチングスタートとかいう正式なスタートではなくその場で走る準備だけして体育大会の実行委員のスタートの声を待って走るだけである。一位にはクラスに四点、二位に三点、三位に二点、四位に一点が与えられるだけである。ここで数か月前の偉炎なら二位を取りに行く。一位だと目立つし、三位はなんかカッコ悪い。二位ぐらいがちょうどいいのだ。
「・・・一位を取るか。」
 しかし、切風と約束してしまった。必ず全力で走って一位を取ることが彼にも分からないが大切ではないかと判断したのだ。
 偉炎は自分の番が来ると静かにレーンの中に入った!
「がんばれ!偉炎!」
 優雷とともに別に仲良くもないクラスメイトが応援している。それを力に変えたかったところだが彼はとにかく集中していた。
(いつも通り・・・いつも通り・・・)
 一緒に走る相手は自分よりも速いとは思えなかった。特に一人はめちゃくめちゃ太っていた。ハンドボール部で鍛え上げた彼ならどうでことないだろう。
 スタートの合図が鳴った。偉炎はそれを耳で聴きとるとともに体中にある筋肉を動かした。
「ハア、ハア。」
 加速するとともに自然と息が上がる。最初のスタートでは意識していなかったが彼の前には誰もいない。どうやら現在一位のようだ。
「いいぞ!がんばれ!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?