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羅刹の紅(小説投稿)第八十四話

〇あらすじ

普通を愛する高校生「最上偉炎」は拳銃を拾ってしまう。パニックになった彼を謎の女「切風叶」に助けてもらうが、町で悪行を繰り返す組織「赤虎組」に狙われることになってしまった。それに対抗するため偉炎は親友である「北条優雷」、さらには不登校でかつてこの国の財閥に君臨していた今川家の令嬢である「今川雪愛」と切風の四人で校内に「一般部」を結成。災厄の日常へと突き進む。
六月下旬、偉炎と優雷はハンドボール部の大会に出場していた。試合に勝った偉炎たちは応援していた切風と雪愛と合流して居酒屋で食事をするのであった。そこでの話題は七月に行われる体育大会になっていた。
一方、赤虎組は度重なる任務の失敗(主に一般部が原因)のため五大幹部の会議が行われていた。そこでは偉炎が通う高校である「広星高校」の地下にある財宝を強奪することが決ってしまった。


○本編

有坂の威圧感が上がる。気づいたら話し合っている三人の周りに誰もいなくなっていた。安藤と小山は完全に畏怖した。
「誰か俺たちは何も知りません!」
「何が目的なんですか?」
 戸惑う男子高校生に対して有坂は笑顔で二人に向かって彼の大きな手を伸ばした。

 この日、二人の男子高校生が姿を消した。だがこの時、町で赤虎組の正体について到達した者は偉炎たちしかいない。

「はぁ、今日も疲れたな。」
 偉炎は二階にある自分の部屋でゆっくりした。彼は今日も授業を受けたのち、ハンドボール部の練習に参加した。その後、一般部に近況報告として切風と雪愛と少しだけミーティングをして家に到着した。毎日が大忙しである。
「はぁ、さすがにしんどいな・・・」
偉炎は制服のネクタイを首から取った。そして椅子に座りながら大きなため息をついた。彼はここ数日ゆっくりする時間というのが少ない。どうしても偉炎一人ではできることには限界がある。正直、普通の高校生として生活しながら、それを守るために赤虎組と戦うなど無茶にも程があるのだ。ただ、彼はもう引き返せない、命の十字架を背負ってしまっている。
(もう誰の命も取りたくないな。)
 かっこつけているかもしれないが、彼は真剣だ。体育館の屋上での戦闘、教会での戦闘で人生の終わりを告げる弾丸を何度も引いた。
「僕は生きていて大丈夫だろうか。」
 らしくもないことを漏らしたその時、AIコンタクト(コンタクト版のスマホ)から電話の連絡がきた。相手は切風である。偉炎はすぐにコマンドマイク(音声も聞けて自身の声も聴きとってくれるマイク)を耳に着けて会話を開始した。
「ういーす。起きているか?不良少年!」
 切風の声がコマンドマイクから耳に響く。
「・・・かなり眠いけどな。」
「なるほど。おーい!雪愛ちゃん。紅茶を一杯いただけるかな?あと君も話に参加してくれよ。」
「雪愛?」
 偉炎は首をかしげた。
「そうなんよ!今、雪愛ちゃんの家で作戦を練っていた。このまま泊まるつもりだけど。」
 雪愛の家とはおそらく偉炎も行ったことのある今川家の別荘だろう。今は雪愛と黒川しか住んでしない。
「まぁ、部屋はたくさんあるし騒ぎ散らかさなければ特に問題はないわ。作戦の方も重要だし。」
 雪愛は電話に参加し、静かに語った。
「はぁ、ならいいけど。優雷は?」
「あぁ、優雷も誘ったが兄弟の面倒を見ないといけないらしく明日に色々と聞くことになった。」
「なるほど。」
どうやら優雷も彼なりに忙しいようである。
「それよりも偉炎~、どうよ!夜に美女二人と会話する気持ちは?」
「・・・酔っているのか?さっき紅茶頼んでいたはずだけど。」
「切風はしらふよ。」
 切風はまた偉炎にちょっかいを出した。相変わらず他人の家でも平常運転だ。ただ、偉炎にとってはどうでもいいことらしく大きなあくびをした。
「おや、随分と眠そうだね。」
「あぁ、正直要件があるなら早めに言ってほしい。」
 偉炎も机に置いてあるペットボトルに入っているお茶を飲み始めた。


 体育大会の日、赤虎組が学校に攻めてくる

 偉炎は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。まさかここまでの暴挙に出るとは思っていなかったからだ。
「は!?え!どういうことだ?」

「そのままの意味だけど?」
 切風は動揺している偉炎の質問に質問で返した。
「え!だって、赤虎組は表舞台では行動しないはず・・・なんでそんなことをする必要がある?」
「ついに暴挙に出始めたってことね。目的はわからないけど赤虎組も何か焦っている感じがするわ。」
 雪愛は冷静に分析した。
「というか何でそんなことわかる!?それもよりによって体育大会の日に行うなんて・・・」
「それは言えない、だけどその事実が今週の日曜日にあることは間違いない。」
 切風は語った。偉炎にとってはかなりしんどい話である。
「そんな・・・なんてことに・・・」
 偉炎は椅子から落ちた。そして、床を見つめながら突き付けられた問題に対して嘆く。彼はその情報に関して疑いを持たなかった。なぜなら切風の情報に噓はないからだ。そこだけは事実であろう。しかし、真実だからこそ、余計にしんどかった。偉炎はこのから数十秒は何も言うことができなかった。
ただ、偉炎は少しずつであるが慣れてきていた、災厄という名の日常に。おそらくここ二ヶ月で偉炎は途方もないことをしてきた。そして、彼は再びに戦わないといけないことを重々承知していた。それもこれもすべては普通であるためだ。そして、それを叶えるためにはここで踏ん張らないといけないことぐらい分かっている。
「そこで我々一般部は学校を赤虎組から守ることにした。」
 切風は今回の任務について話した。
「・・・この作戦に僕は参加しないといけないのか?」
 偉炎はようやく開くことのできた口で話す。
「・・・」
 切風は少し悩んだ。
(ここで彼にあれを習得させるべきか・・・)
 考えは確かにあった。しかし、それをいつ偉炎たちに伝えるのか結論が出ていない。
(こんな時・・・あの人ならどうする?)
 切風はとある人物を頭の中に思い描いた。彼女は困った時は必ずその人物を思い浮かべる。そして、もし彼が生きていたらどのような言葉を口にするのかを考えるのだ。
(・・・まだ早い、偉炎はいつか腐ったこの国を変える人物になる。四大財閥という舐めあがった制度に必ず牙をむく人物だ。だけどまだ早い。あの人もそういうはずだ。)
 早いと心の中で判断した。
「偉炎、君の気持ちは分かる。」
「・・・」
「だからこそ、もう一度体育館の屋上で話したことを思い出してほしい。君がここで踏ん張れないと体育大会は台無し、学校内でもどれぐらい被害がでるか考えてみて欲しい。そして、止めることができるのは我々だけだ。」
「あぁ、分かっている。」
 偉炎は参加しない理由がないことを知っている。どうせ彼は戦わないといけない。それは切風に弱みを握られているとかそういう問題ではない。自身の日常のためだ。だが、もうひと押し、何か一つでいいから彼を動かす目的が欲しかった。

「・・・私のためならどう?」


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