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羅刹の紅(小説投稿) 第九十五話

○あらすじ

普通を愛する高校生「最上偉炎」は拳銃を拾ってしまう。パニックになった彼を謎の女「切風叶」に助けてもらうが、町で悪行を繰り返す組織「赤虎組」に狙われることになってしまった。それに対抗するため偉炎は親友である「北条優雷」、さらには不登校だったがかつてこの国の財閥に君臨していた今川家の令嬢である「今川雪愛」と切風の四人で校内に「一般部」を結成。災厄の日常へと突き進む。
赤虎組は資金を確保するため偉炎たちが通う広星高校の地下金庫を襲撃することを決めた。その情報を手に入れた偉炎たち一般部はそれを体育大会当日に迎え撃つことになった。
 体育大会当日、偉炎がミスをしてしまい赤虎組は学校の近くまで接近してしまう。それに対し一般部は総出で立ち向かう。ついに一般部と赤虎組の戦闘が始まった。切風の部下を名乗る精鋭部隊も加わり有利に思えたが、相手はさらに人を増やしてきた。苦戦を強いられることを予想し、切風は一般部の三人に次の作戦を指示する。

〇本編

「え?」
「三人とも、ちょっと耳を貸して。」
そう言うと切風は三人の前で静かに今回の真の作戦を伝えた。正直、切風にとって丘での戦闘は一時的なものに過ぎない。三人には別にやるべきことを想定したのだ。
「・・・っ」
 雪愛の目が大きく開く。どうやら相当驚いたそうだ。それでも切風はそんなことも構わずに話し続けた。
「それは・・・本当に正しい情報なのか?」
「えぇ、間違いなく数十分後にそうなるだろう。」
「なるほど!だから俺たちを学校に向かわせるんですね。」
「そういうことだ!理解が速くて助かるよ、優雷!」
「いや^それほどでも~」
 今回の真の作戦が明るみに出た。そして、偉炎含め三人全員が納得した。
「・・・分かった。僕たちはこの東沙座さんと一緒に行けばいいというわけですね。」
「そゆこと!あっ東沙座は学校の正門まで着いたらバイバイでいいよ、この人広星高校では部外者だから(@^^)/~~~」
「ひどい・・・」
 東沙座はひどい仕打ちに肩を落とした。
「とにかく、事態はあまり良くない。各自必要な物はそこに置いておいからすぐに装備して移動するように!」
「「「了解」」」
 三人はいつの間にか置いてあった装備品を携帯し、丘を登った。どうやら、一般部の活動は学校に着いてもまだありそうだ。唯一可哀想な事と言えば、
「優雷君は怪我をしているでしょ?私がおぶっていきますから肩に乗ってください。」
「ええ~いいよおっさん、自分で歩けるから。」
「おっさん!まだ二十代なのに・・・しかもそれをしないなら私が学校まで行く意味ないんですけどォー」
 高校生にまで馬鹿にされる東沙座が不憫なことぐらいだ。
今日の昼過ぎはやけに蒸し暑かった。そのためか、わずかではあるものの蝉の鳴き声が聞こえてくる。おそらく今年はじめてこの町初めての事だろう。そして人々はこう思う、「夏が来た。」と。だが、そんなことも気にせず町にある学校では大人同士の殺し合いが丘にある森というコロシアムで行われていた。
「こちらA班、七時方向より敵接近、迎撃します。」
「何をぬかしている!こっちは数で押すぞ!」
「調子乗んなよ!ただが数十人で何ができる!」
 切風率いる【蜂】五十人と赤虎組の追加部隊二百人が激突する。そこでは銃撃の雨が鳴りやまなかった。赤虎組の方も先鋒の百人が飛び道具を使わずに負けている。それを踏まえてお互いがお互いに丘の上と下で銃撃戦を行っているのだ。
 ただ分かって欲しいのはこの状況が続いてありがたいのは赤虎組の方なのだ。下に陣取っているため物資の補給が比較的やりやすいのだ。そして人数が多いため負けることはほとんどない。一方で、切風たちは持ってきた分の武器しかなく。しかも学校も守らないといけない。一人でも侵入させればそれだけで何人の高校生が危険な目に遭うかわからない。それに警軍(今でいう警察、軍と合併して国内外の治安を守る)が動いてくれるかも気になる。切風の読みが正しければ警軍と赤虎組はおそらく裏でつながっている。もし、赤虎組が学校に侵入していることを町にいる警軍に通報しても果たしてどこまでやってくれるのかわからない。
「切風さん、どうします?このままだと我々が少しずつ不利になってしまいます。」
 無事に偉炎たちを学校まで連れて行き、そして戻ってきた東沙座は切風に次の指示を仰いだ。
「どうしよっかね~。とは言ってもこっちが上を取っているから相手がロケットランチャーとかぶっ放さない限り負けることはほぼない。こっちの最大の懸念点は弾切れだ。恐らく持ってきたうちの半分ぐらいは使っただろう。だからこちらは木とかに隠れて接近してきた相手だけ仕留めるようにしよう。さすがにこれ以上無駄撃ちはできない。」
「かしこまりました。撃ち方やめー!」
 東沙座がそう言うと緑の集団、つまり【蜂】は全員撃つのを止めた。
「相手もむやみに突撃してこないと思う。長期戦になって嬉しいのはあっちだしね。」
「でも、もし相手が総攻撃して来たら・・・」
「その時のための偉炎たちでしょ?それに私も学校に向かう。そしたらここの指揮はよろしくねー」
「えっ!じゃあ、後始末も・・・」
「もちろん、あんたの任務よ。忘れずやっておきなさいよ!」
「・・・」
 東沙座が明らかに嫌そうな顔をした。ちなみに東沙座はこの日の夜、彼女とデートの予定だったのだ。もし、後始末を完璧にしようとするなら一晩はかかる。果たして東沙座の残業代は出るのだろうか?


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