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トラス氏の間違い

1,減税政策の狙いは何か?

トラス氏の掲げた減税政策の内容を先ずは見て行きたい。所得税率45%からの減税、法人税の減税、エネルギー高騰対策として2年間の光熱費上限保証などが挙げられる。
トラス氏の掲げた減税政策は一見すると市民生活にはポジティブな影響を与えるように思える。しかし、高所得者に対する減税があったことで一般市民が物価や光熱費の高騰で苦しんでいる中で、けしからんと言う声が多くなった。また、高給取りのバンカーに対する賞与制限の撤廃も含まれたため批判が殺到した。
結果的には債権、株式及びポンドのトリプル安に見舞われトラス氏の減税政策は市場から完全にNOを突きつけられた。保守党の党首選で保守党員に対して誓った職責を全く果たせなくなってしまった。これが事の顛末である。
 

2,誤った理由

インフレやイングランド銀行による利上げによるリセッション入りが指摘される中で、政府としてはこれを食い止めたいという狙いがあったに違いない。また、高所得者層に対する減税も、ある種のトリクルダウン(富めるものが富めばそれが貧者にもこぼれ落ちる、イメージとしてはシャンパンタワー)効果を狙った可能性もある。
 市場がネガティブな反応を示した背景には財政規律の問題がある。コロナ禍に端を発する金融緩和や各種補助金により政府の借金は増加している。この状況において、減税となればその財源はどこにあるのかを心配するのは当然であり、この部分を丁寧にトラス氏は説明するべきであった。厳しい言い方をすれば、トラス氏の考えは党首選を駆け抜けるためにはどうすればいいか(党内力学)に焦点を置き過ぎた。屋台骨をしっかり作れば、彼女の政策は上手くいったのかもしれない。

3,今後の展開

トラス氏が辞任を発表した約1週間後、リシ・スナク氏が新首相として選出された。報道にある通り彼は東アフリカからイギリスに移住した両親の元に生まれた2世であり、オックスフォード大学を卒業しスタンフォード大学でMBAを取得した。その後、ゴールドマン・サックスに入社しヘッジファンドを経て2015年に初当選した。2020年にジョンソン政権で財務大臣に就任し、42歳の若さで首相に就任した。これは200年のイギリス政治において最年少である。
 トラス氏とは対照的に堅実な政策を訴えており大幅な減税は予定されていない。また、金融エリートという観点からも市場の反応については機敏な反応を示すだろう。現代において政治は金融市場と仲良くやっていかなければいけない。これだけでなく、イギリスは10%を超えるインフレに見舞われているため、舵取りを間違えるとトラス氏と同じ道を歩む可能性もある。

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