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羅刹の紅(小説投稿)第百話Part2

○あらすじ

普通を愛する高校生「最上偉炎」は拳銃を拾ってしまう。パニックになった彼を謎の女「切風叶」に助けてもらうが、町で悪行を繰り返す組織「赤虎組」に狙われることになってしまった。それに対抗するため偉炎は親友である「北条優雷」、さらには不登校だったがかつてこの国の財閥に君臨していた今川家の令嬢である「今川雪愛」と切風の四人で校内に「一般部」を結成。災厄の日常へと突き進む。
赤虎組は資金を確保するため偉炎たちが通う広星高校の地下金庫を襲撃することを決めた。その情報を手に入れた偉炎たち一般部はそれを体育大会当日に迎え撃つことになった。
 体育大会当日、一般部と赤虎組の戦闘が学校の近くの森で始まった。しかし苦戦を強いられることを予想した切風は一般部の三人に次の作戦を指示する。そして赤虎組の幹部である御影と燿華が別働隊として学校に侵入をしたが、切風に指示されていた三人は先に学校に回り込み、学校にある地下金庫で衝突する。ついに最終決戦が行われようとしていた。偉炎は御影と、優雷と雪愛は燿華と戦うことになった。

〇本編

「・・・!」
 そこからの偉炎の行動は異常だった。まず彼は固められていた両手の関節を自身で折った。そして、両手をふにゃふにゃの状態になることで御影の関節技から解放されるとともに、手にわずかに残った力を振り絞って、御影の顔を殴った。プロモーターのおかげでわずかな力でも人一人に攻撃するには十分の威力にはなっていたのだ。
 御影はまさか攻撃が来ると想定できなかったのか何の防御もできずに殴りを食らってしまい、顎の部分を痛めた。偉炎はその間にまだ使える脚を使って再び御影と距離を取った。
「・・・お前・・・自分で腕を折ったのか?」
「そうだ!僕はまだ死なない!死にたくないだけだ!」
 普通に考えたらそんなことはできない。確かに、あのままでは死んでしまうのもわかる。それでも、とっさに自身の腕を折ろうとは思わないだろう。現に、彼の両手は使い物にならず肩からブラーンとしている。見ているだけでも怖くて見ていられない。
「・・・異常だ。お前は常軌を逸している。」
「違う!僕は普通だ!普通になるためにここにいる!」
 偉炎はその場で跪き、落ちている拳銃を口で拾った。そして、プロモーターを使って右手をわずかに上げ、その拳銃を握った。
「そして、普通になるために・・・お前たちは邪魔だ!もしこれ以上、僕の周りで変なことをしたら・・・その時は赤虎組だろうと何だろうと許さない!」
 偉炎は本音を御影に伝えた。正直、ここまでの覚悟があるとは御影も思っていなかったのだろう。今度は御影のほうが一瞬固まってしまった。

そして、運命の時間はきた。

「おーい!爆発音はこっちからだ。」
「警備員をよべ!そして、万が一のために救急車も要請しろ!」
 ついに学校の関係者がゾロゾロと爆発元である巨大金庫まで来てくれたのだ。どうやらこの戦いは偉炎たちの勝ちみたいだ。
「・・・なるほど。そろそろ時間か・・・ここで学校側とぶつかってもいいが俺と燿華だけだと物足りない・・・撤退か。」
御影は瞬時に状況を確認すると
「本来は今すぐお前を殺してもいいが、またさっきみたいに素早く逃げられる可能性もあるからな・・・今回はその両手だけで我慢してやる。」
 御影は手に空気を集めた。どうやら逃げるために先ほど開けた金庫の穴から飛んで脱出しようとしているらしい。
「だがこれだけは覚えておけ・・・お前ら全員年内には殺す・・・顔も名前も覚えた・・・もう逃げられないぞ。」
 御影は小さい声であるがはっきりと偉炎に宣言した。
「上等だ・・・その前に赤虎組は倒す・・・」
 偉炎は徐々に両手の痛みを感じてきたのか、はきはきと話せなくなっていた。そして、気づいたときには地面に倒れ込んでしまった。


「ふん・・・そんな姿でいわれても説得力もないわ。その前にお前の腕は当分使えなくなった。そんな奴が組織一つ潰せるとは思わんがな・・・まぁいつか死ね。」
 そう言うと御影は偉炎の姿も見ずに、赤い光を下に向けて発射し、その反動で高く飛んだ。そして、いつの間にか地下にあった金庫から抜け出していた。
(勝ったのか・・・?)
 意識が朦朧としていく中、なんとか御影が逃げていく姿だけは確認できた。地上から太陽の光が差す中、彼は自身の握っている拳銃を見ながら勝利を肌で感じ取った。
(よしよしよし!僕はなんとか勝つことができた!これで再び日常を・・・)
 たださすがに今の偉炎には助けを呼ぶ力も、この場で起きた状況を話すこともできない。彼にできるのはただ目を瞑って気絶することだけだった。
ここに結論を書こう。偉炎たち一般部は無事赤虎組から学校を守り、無事に金庫を守ることができた。しかし、赤虎組に偉炎の名前がばれてしまい今後復讐に来ることは間違いなかった。まさかこんな展開になるとはどちらのサイドも思っていなかっただろう。ただ、間違いなく事実なのは勝利をした一般部の中心には確かに偉炎という高校生の存在があり、それを支える優雷、雪愛、そして切風がいることである。当然だが、彼らが今後この町でどのような活躍をしたかは町の誰にも知られることはない。それでも、彼らには学校を、町を守ったという大きな満足感が心の中にあふれているに違いない。
場所は学校の外にある丘の森に代わる。切風と有坂は依然として戦闘を続けていた。
「そろそろ決着がつくころか?」
 切風は日本刀を有坂にたたきつけながら質問した。
「そうですね・・・時間的にもどちらかが報告しにくるはず。」
 有坂も余裕そうに大太刀を振り回して答える。そんな会話をした途端、学校の上から何者かが近づいてくるのを二人は感じた。
「この音・・・うちの生徒ではないな。」
「おそらくうちの幹部の人間です。吉報であることを願いましょう。」
「それはどういう意味だ!」
 切風は有坂に再び攻撃を仕掛ける。しかし、有坂はそれを身軽にかわすと一歩後ろに下がった。
「さて・・・御影さん。結果どうだったでしょうか?」

 最悪のシナリオだった。御影の両手に何も持っておらず、そして金らしき類も見当たらない。有坂はその時点で悟った。
「・・・一応理由を聞いていいですか。」
 近くまで来た御影に対して何か怒りのようなものを含めて有坂は質問した。

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