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芸術史講義(日本)1 源氏物語

紫式部の源氏物語と清少納言の枕草子は同年代の文学である。この2作品を比較しつつ、源氏物語について論じる。

平安時代の王朝文学で重要な文学的・美的理念の一つに「もののあはれ」がある。
江戸時代の国学者・本居宣長は門人に対し40年にわたって源氏物語を講義した。本居宣長が書いた源氏物語玉の小櫛という注釈本では、物語はもののあはれを知るを旨とはしたる(物語は「もののあはれ」を知ることを第一としている)としている。もののあはれとは、日ごろの生活の中の折に触れて見聞きすることから生ずる感情や移ろいゆく風情や男女・親子・友などの間の情愛や離別・哀惜によって生じるしみじみとした情緒や感情を表す言葉であり、もののあはれを知るとは、深い洞察力によって人の心を知ることである。
情緒美をあらわしたもののあはれに対して、枕草子は「をかし」を美的理念にしている。をかしとは、明朗で知性的な感覚美のことである。枕草子の冒頭の部分、春はあけぼのやうやう白くなりゆく山ぎは少しあかりて紫立ちたる雲の細くたなびきたる、は、春はあけぼののあとにいとをかしをつけてみると、春の明け方はとても趣がある、山の稜線は少しずつ白んで明るくなり紫の細い雲がたなびいている、という意味となり、四季の始まりである春の明け方の美しさから始まっている。
もののあはれは人間の内にある血とともに流れる感情に美を見出し、をかしは人間の目に映る感性の美である。
枕草子は、文学形式上「随筆」、源氏物語は「小説」である。
枕草子は大きく3つの章段に分けられている。虫、木の花、すさまじきもの、うつくしきものに代表されるものづくしの類聚章段、日常生活や四季の自然を観察した随想章段、清少納言が出仕した中宮定子周辺の宮廷社会を振り返った日記章段からなる。
源氏物語は全54帖あり、主人公光源氏の人生の前半、後半、死後の3部に分けられている。人生前半(1部)では、光源氏が生まれる前から物語は始まり、母の桐壷の更衣が周囲の妬みから世を去り、逆境の日々を経て栄華を極めるまでが語られている。父の桐壺帝が観相を受けさせ、帝王相を持っている、3人の子供たちが帝・后・太政大臣になると結果を得た。しかしながら、母の身分が低いことから桐壺帝の後を継ぐ立場にはなく、良すぎる相は、朝廷においてまた光源氏本人にも吉凶混合の相であった。桐壺帝は源の姓を与え、光源氏を臣籍降下させる。この予言は物語の軸・枠となっている。紅葉賀の帖では父桐壺帝の妻である藤壺との間に不義の子が産まれる。占い通り、この子供が次の帝になる。
人生後半(2部)では、栄華を極めながらも憂いに満ちた日々が語られている。妻である女三宮が不義の子・薫を産み、自身の藤壺との関係を思い起こす。
死後(3部)では、光源氏の息子(血のつながりはない)薫が主人公となっている。
源氏物語は、光源氏を中心に宮廷での生活や結婚、当時のものの考え方などが詳細に描かれており、小説というだけではなくその時代の宮廷文化を知る資料でもある。

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