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やさしくなりたい

 電車を待つホームのベンチ。僕はイヤホンをして多分radikoかstand fmを聴いていたんだと思う。そしてTwitterでも眺めていたんだろう。陽の光が降り注ぐ暖かな午前が久しぶりで心地良かった。

 肩をトントンとされた。昨今あまり知らない人と関わることがなかったから、少しびっくりしてトントンの方を向いた。「ごめんください」おばあさんがそう言っているようだった。僕がイヤホンを外したところで「これ差し上げるから、フタを開けてくださらない?年寄で力がなくて。」と三ツ矢サイダーのペットボトルを2本差し出された。おばあさんは三ツ矢サイダーのペットボトルを僕に1本あげるから自分のペットボトルのキャップを開けてくれとのことだった。

 僕はサイダーは結構ですから、キャップ開けますよ。と返しておばあさんの三ツ矢サイダーのキャップを開けて差し上げた。この間にお礼のサイダーが僕とおばあさんの間で往復していた。僕の遠慮とおばあさんの謝意が交錯する中、お礼のサイダーは僕のところへやってきた。「大したことしていないのに申し訳ありません。」僕は本当にそう思って言った。

 おばあさんは2口くらい三ツ矢サイダーを口にして、「喉が渇いちゃって。ごめんなさいね。」と確か言ったと思う。僕はイヤホンを外したまま「いえいえ。こちらこそ頂いて申し訳ありません。」と確か言ったと思う。

 電車が到着したところで「ごめん遊ばせ。」みたいな上品なご挨拶をなされて、おばあさんは僕から離れる車両の方へ向かって乗車された。僕は「ああ、どうも」みたいな挨拶をした後、イヤホンをして目の前の車両に乗り込んだ。

 おばあさん、別に三ツ矢サイダーくれなくてもペットボトルのキャップくらい開けるのに。気になったままだ。僕が頼みにくい雰囲気を出していたのかな。でもそれなりに人がいる中で僕に頼んできてくれたのは、頼みやすくはあったけど申し訳ないから三ツ矢サイダーをあげる代わりに頼んでくれたのかな。
 お礼の三ツ矢サイダーなしでおばあさんに頼み事してもらって快く引き受けて「御機嫌よう」とお別れするのが僕が納得行く結末だった。困ったら周りに頼れて助けてくれる。そんな世界はファンタジーだったか。少し淋しく感じたのは、過敏すぎるだろうか。

愛なき時代に生まれたわけじゃない。
誰にでも優しくしたい。

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